世界人口が増加の一途をたどり、資源枯渇問題に関連した報告が次々と寄せられる中、産業革命以来200年以上続いてきた「採取して、作って、捨てる」アプローチの見直しが、政策担当者たちの間で進められています。
欧州委員会(欧州連合の政策執行機関)で環境、海事/漁業、保健衛生/食品安全性に関するスポークスパーソンを務めるエンリコ・ブリービオ氏は、次のように述べています。「世界人口の増加と消費者需要の拡大を受け、今日私たちが使っている資源の3倍の量が2050年までに必要となる可能性があります。食糧、飼料、繊維の世界需要は70%拡大する見込みです。将来の世代のために地球環境を保全したければ、現行の生産/消費パターンを変える以外に選択肢はありません」
こうした表明を受け、さまざまなイニシアティブが生まれてきています。その例としては、廃棄物を建築資材や新しい燃料源に転換することや、再生部品から新製品を製造することのほか、個人でモノを所有するのでなく製品をサービスとして提供する、いわゆる「共有経済」が挙げられます。これらのトレンドはいずれも、資源の回復と再生に重点を置いた、「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)」という大きな潮流の一部として位置付けられます。
「サーキュラー・エコノミーは、 廃棄物をほとんど生じさせないため、資源に制約のある環境にとって 論理的な解決策であると言えます」
エンリコ・ブリービオ氏
欧州委員会スポークスパーソン
ブリービオ氏は次のように述べています。「サーキュラー・エコノミーは、廃棄物をほとんど生じさせないため、資源に制約のある環境にとって理にかなった解決策であると言えます。狙いは経済活動の中で資源を長くもたせることです。製品が寿命に達したら、その製品に含まれている有用物質を再使用のために回収し、付加価値を生み出します」
資源不足の緩和
エレン・マッカーサー財団は、サーキュラー・エコノミーの代名詞的な存在であり、持続可能なビジネス・モデルへの移行の推進力となっています。長距離ヨットウーマン、エレン・マッカーサー氏にちなんで名付けられた同財団は、マッカーサー氏が2005年に世界一周単独航海で最短記録(当時)を樹立した5年後に発足しました。マッカーサー氏は帰還後、ヨットに積んだ物資だけで航海を乗り切った経験から、限られた資源をいかに長くもたせることができるかという点に気付かされ、このときの教訓が財団設立のきっかけになったと語っています。
2013年、エレン・マッカーサー財団はサーキュラー・エコノミー100を設立し、今日までに90の地域や新興ベンチャーおよび、リーディング・カンパニー双方が加盟しています。
印刷/画像処理ソリューションのレックスマーク社の英国部門担当ディレクターであるクリス・ロー氏は、次のように述べています。「資源回復の価値は、企業が社会に何かを還元できるチャンスであると考えます。材料を再使用するだけでなく、製造される機器や材料の用途を拡大することによっても、資源問題の緩和に取り組む機会がもたらされます」
レックスマーク社は埋め立てゴミ/焼却ゴミ・ゼロのポリシーを掲げており、同社が顧客から回収する印刷製品はすべて再資源化または再使用されています。ロー氏は次のようにコメントしています。「当社では消耗品のことを廃棄物としてとらえていません。お客様の使用済みカートリッジを回収したら、再使用して再び販売するか、環境保全上適切な方法で再資源化するようにしています」
この動きはレックスマーク社以外の企業にも広がっています。たとえば、ファッション・リテールのH&M社は、顧客が店舗に持参した古着をクーポン券と交換する古着回収サービスを2013年に開始しました。回収された衣類は古着として販売するか、クリーニング・クロスなどの別の製品として再使用するか、原料繊維や断熱材として再資源化されています。
グローバル・スペシャリストのフィリップス社照明部門が推進している「サービスとしての照明」では、顧客は実際に使用した照明の分だけ料金を支払います。照明器具および設備の所有権はフィリップス社に帰属したままとなるため、照明システムの性能と耐久性、そして最終的には寿命到来時の再使用と再資源化に対する責任も同社が負います。
コラボレーションによる 問題解決
圧延アルミニウム製品の主要メーカー、Novelis社でヨーロッパ担当サステナビリティ/リサイクル開発マネージャを務めるアンディ・ドラン氏は、サーキュラー・エコノミー100プログラムに参加することは、新しいアイデアに触れる良い機会であると語っています。
「実にさまざまな企業や学術機関並びに地域が、イノベーションという共通の言語のもとに一堂に会しています。加盟組織は皆、サーキュラー・エコノミー認定を受けていることを誇りにしており、自分たちの体験をその良し悪しにかかわらずフォーラム内で共有することに協力的です。また、これも本プログラムを通じて学んだことですが、サステナビリティに関連した新たな課題は、アイデアを共有し合ったり、組織外部の人間を新しいパートナーとして迎え入れたりすることで容易に解決できるようになることが少なくありません」
たとえばNovelis社は、スクラップを生産ラインに確実に送り返して、価値のある材料がサプライ・チェーン内でダウンサイクルされるのを防ぐ、クローズド・ループ型「サーキュラー・システム」を自動車メーカーのフォード・モーター・カンパニーおよびジャガー・ランドローバー社と共同で開発しています。
ヨーロッパ以外の 地域への拡大
サーキュラー・エコノミーに対する関心の度合いが高いのは、ヨーロッパと米国だけではありません。アジアでは、中国でのイニシアティブ拡大を目的としたサーキュラー・エコノミー中国支部が2013年に設立されました。日本では、「資源の有効な利用の促進に関する法律」が2000年に制定されています。この法律は、製品の有効利用についてそのライフサイクル全体にわたって定めたものであり、再資源化のための解体工場を運営することを企業に対して法律的に義務付けるなど、原料の再使用に重点を置いています。
オーストラリア初のカーボン・ニュートラルな配送サービス・プロバイダーであるSendle社は、荷物の集荷および配達サービスを全国的に展開しています。「サーキュラー・エコノミー対応の物流サービス」というビジョンを掲げる同社は、宅配業者の選定をカーボン・フットプリントに基づいて行い、個別の車両を使用するポイント・トゥ・ポイント型宅配業者ではなく、共有バンで荷物を輸送するハブ・アンド・スポーク型宅配業者を利用しています。
またSendle社は、二つの地球温暖化対策 プロジェクトに参加することによってカーボン・オフセットの取り組みも進めています。その1つであるタスマニア原生林保護プロジェクトは、伐採や皆伐に対抗するビジネス・モデルを農業分野に提供することによって、タスマニアの原生林と生物多様性の保護に取り組んでいます。ガーナのToyola社による調理用コンロ・プロジェクトは、燃料効率の高い四種類の家庭用および業務用料理コンロの開発をサポートし、調理用木炭の使用量を最大50%削減するものです。
一方、南アフリカの再資源化/経済開発イニシアティブでは、廃棄物の流れを管理する分野にこれまでなかった独特な廃タイヤ管理計画が策定されています。タイヤ製造業者は、製造する新品タイヤに含まれるゴム1キログラムごとに一定の廃棄物管理料金を請求されます。回収された資金は、資源回収業者、貯蔵業者、リサイクル業者、そして再資源化された原料から製品を製造する第二次産業の開発とサポートに当てられます。このプログラムは、新規事業開発に貢献すると同時に、南アフリカで絶対的に不足している雇用の創出にもつながっています。
よりグリーンな未来とは
当初の計画よりも広範で突っ込んだ内容の計画が2015年末までに発表される予定ですが、サーキュラー・エコノミーの支持者からは、計画を遅延したことが批判されています。欧州委員会の元環境担当委員であり、最初のサーキュラー・エコノミー・パッケージの立役者でもあるヤネス・ポトニック氏は、報道機関に次のように述べています。「欧州委員会が審議を継続し、計画を改善していれば、1年が無駄にならなかったと考えられます。また、当初のパッケージを撤回しなければ、もっと信頼を得ることができていたでしょう」
ただし、より突っ込んだ内容のパッケージと広範な経済スコープが設定された今、欧州委員会は計画が正しい軌道に戻ったと確信しています。ブリービオ氏は次のように述べています。「全加盟国の状況を考慮に入れたうえで、廃棄物だけにとどまらず、サーキュラー・エコノミーのサイクル全体に取り組みたいと考えています。そのために今後は、再資源化のレベル分け、より無駄のない原材料の利用、インテリジェントな製品設計、製品のリユース、リペア、リサイクルといった目標に着目していく構えです」
同様に、エレン・マッカーサー財団は最近、特定の国の取り組みをどこから開始するかの評価、重点領域の選択、機会と阻害要因の特定に関する政策担当者向け「ハウツー」ガイドを発表しました。マッカーサー氏は次のように述べています。「このツールキットによって、業界と政策担当者間の新たなコラボレーションのための基盤がもたらされ、サーキュラー・エコノミーへの移行に必要なシステム・レベルの変化が加速していくでしょう」
ブリービオ氏は、サーキュラー・エコノミーを広く普及させるために最終的に必要となるのは、土台のしっかりした政策であると述べています。
「スマートで野心的、それでありながら現実的な目標を設定するとともに、地に足の着いた政策実施が行われるようにする必要があります。欧州委員会が目指す『より良い規制』に、環境政策の市場的手段、リサーチとイノベーション、各種インセンティブ、情報交換、自発的アプローチのサポートなどを融合させた、複合的アプローチが必要です。こうすることによって、サーキュラー・エコノミーへの移行を促進する、具体的なツールと手段、インセンティブが企業にもたらされるのです」◆
循環型供給:循環型生産/消費システムの土台となる、完全に再生可能な資源、再資源化可能な資源、または生物分解性資源を供給します。 (出典:Accenture社)サーキュラー・エコノミーを推進する 5つのビジネス・モデル
資源回収:環境への原料流出をなくし、製品返却フローの経済価値を最大限に高めることができます。
製品寿命の延長:製品のライフサイクルを長期化できます。本来ならば廃棄物として失われていた価値を、製品の修理、アップグレード、再製造、リマーケティングなどによって維持したり、向上させたりすることが可能となります。
プラットフォームの共有:個人か組織かを問わず、製品ユーザー間のコラボレーションを促進します。
サービスとしての製品:従来型の「購入して所有する」モデルの代替アプローチをもたらします。製品は、リースまたは従量制の取り決めに基づいて不特定多数の顧客によって利用されます。