一般的なデザインの手法は、「take, make, waste(資源を採取し、作って、廃棄する)」というリニアエコノミー(直線型経済)です。ロンドンを拠点に活動する著名な建築家アーサー・マモウ・マニ(Arthur Mamou-Mani)氏の建築設計事務所、Mamou-Mani Ltdと、ダッソー・システムズの
DESIGNStudio(デザイン・スタジオ)が共同で作成したロンドンのデザインミュージアムのインスタレーション、
AURORA(オーロラ)は、物事に対する考え方の変化が、リユース、リサイクル、リジェネレーション(再生)の促進にどのように貢献し得るかを実証したものです。
英国グラスゴーでCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催されるのに伴い、世界中の人々が、地球の気候変動への影響を減らすために何ができるかを自問しています。ロンドンのデザイン・ミュージアムのキュレーターたちもまた、展覧会、「Waste Age: What can design do?」で、デザイナーにこの質問を問いかけました。
この展覧会のキュレーターであるGemma Curtin氏は、ミュージアムのウェブサイトで次のように述べています。「私たちはゴミの問題に向き合わなければなりません。物を、寿命があるものと考えるのではなく、何度も再生できるものと考えるのです」
この考えを実証したのが、2022年11月14日までロンドンのデザイン・ミュージアムのアトリウムに無料で公開されているインスタレーション、AURORA(オーロラ)です。AURORAは一見すると、クリスタルとゴールドの芸術的な渦です。しかし実際は、デザイナーがこれまでほぼコントロールしていなかったことをコントロールすれば、作品が環境に与える影響を大幅に減らすことができるのかという研究であり、また、ある一つの目的のために作成される物が、もし作成前にあらかじめ再利用を考慮して設計されていたら、何度も生まれ変わることができるのかという研究です。
以下の写真でAURORAのバーチャルツアーをご体験ください。
アーサー・マモウ・マニ氏と、当社のデザイン・スタジオの責任者、アン・アセンシオ(Anne Asensio)が、デザイン・スタジオの例年のプログラム、「Design in the Age of Experience」の一環として作成する作品について考え始めた際、再利用、リサイクル、再生が可能で、サステナブルであることを望みました。 アセンシオは述べます。「私たちは、作成しようとしていた物ではなく、使用する素材を起点に、スタートする必要がありました」 (画像©DESIGNStudio/Mathieu Leborgne)
チームは、さまざまな材料やプロセスが環境に与える影響を測定するライフサイクルアセスメント(LCA)ツールを活用して、最終的に、植物のでんぷんから作られたバイオプラスチックであるPLA樹脂(ポリ乳酸とも呼ばれる生分解性プラスチック)を選択しました。 PLAは、石油ベースのプラスチックと同レベルの強度を持ちますが、生産に必要なエネルギーがはるかに少なく、CO2の放出も少なく、工業的に堆肥化できます。 PLAで作られた部品は、何度も粉砕、再溶解、リメイクできます。(画像ⒸMamou-Mani Ltd)
マモウ・マニ氏は、素材を選択した後、AURORAのビジュアルのアイデアの端緒をスケッチしました。(画像ⒸMamou-Mani Ltd)
AURORAの設計、科学、建築、安全など全ての要素を確実に考察するために、チームは世界中の多くの専門家の意見を取り入れました。チームは、クラウド上でコラボレーションができ、イノベーション創出に役立つ3DEXPERIENCEプラットフォーム上で協力して、デザインや、組み立て、分解について、また、AURORAを構成するモジュールの再利用の可能性について開発、改良しました。3DEXPERIENCEプラットフォームでは、専門家からの情報が一元化され、AURORAのコンセプトが発展するごとに、誰もが理解できる3Dモデルでアイデアが可視化されます。(画像©DESIGNStudio)
3DEXPERIENCEプラットフォームは、あらゆる分野や決定の間に存在する相関関係の軌跡を保存します。数回クリックするだけで、仕上げ、色、モジュールの配置などを希望の外観になるまで何度でも変更できます。変更を取り消す際は、クリックするだけで元に戻すことができます。この機能により、アイデアを物理的に作成、構築、組み立てて検証する必要がなくなり、時間、電力、組み立てスペース、材料を節約できます。(画像©DESIGNStudio)
ミュージアムのドアや空調システムからの空気の動きによってAURORAの吊り下げモジュールが動く可能性があります。チームは3DEXPERIENCEプラットフォームを用いて空気の流れがAURORAの安定性に与える影響をシミュレートすることで、パーツの衝突を回避し、AURORAの下を行き来するミュージアムの訪問者の安全を確保しました。(画像©DESIGNStudio)
実際に設置された時、AURORAはどのように見えるでしょうか?チームは、3DEXPERIENCEプラットフォームの写実的な画像とマテリアルのレンダリング機能を使用して、さまざまな角度からインスタレーションを「見て」、計画が望み通りの効果を生み出すかどうかを判断しました。(画像©DESIGNStudio)
チームはまた、ミュージアムのロビーと中二階をデジタルモデル化して、日の光や、夜間のさまざまな照明のもとでインスタレーションがどのように見えるかを完全に把握できるようにしました。(画像©DESIGNStudio)
夜に開催されたオープニング・ガラの、青いムード照明のもとで撮影された写真。AURORAの各パーツは同じものですが、照明の当たり方によって印象が変化します。(画像©DESIGNStudio)
マモウ・マニ氏と当社のアセンシオは、ガラパーティーにて、作品の制作に取り掛かる前に素材や再利用、リサイクルを考慮することの重要性を説きました。 「デザイナーが各々のプロジェクトの時間枠を超えて考え始めることが非常に重要です」とマモウ・マニ氏は述べます。 「私たちは、素材がどこから来たのか、どこに行くのか、どのように再構成できるのかを考え始める必要があります。AURORAは、私たちが思考を調整するだけで、素材に関する持続可能性を高めることが可能であることを実証したものです」(画像©DESIGNStudio)
中二階の壁には、3つの並行プロセス(デザイン・フォー・ライフ、マテリアル・フォー・ライフ、ファブリケーション・フォー・ライフ)についての説明があります。 「デザイン、科学、産業は、地球をサポートする新しい統一された実践を概念化するために収束し、協力しなければなりません」とアセンシオは述べます。「3DEXPERIENCEプラットフォームはそれを実現へと導き、誰もが完全に再生可能な未来に向けて社会の集合的な進歩に貢献することを可能にします」(画像©DESIGNStudio)
マモウ・マニ氏の建築設計事務所の従業員は、AURORA用に作成したモジュールを植物のトレリス(格子垣、棚)やテーブルの脚として既に再利用しています。あなたなら、どのように再利用してモジュールに新しい命を与えますか? (画像提供:ロンドン・デザイン・ミュージアム/Felix Speller)
AURORAについて詳しくはこちら
プレスリリース
Top image: 上から見ると、AURORAはクリスタルとゴールドが渦巻く、美しいアートワークのように見えます。 しかし、このインスタレーションは、持続可能性のためにデザインに求められる考え方の変化についてのレッスンでもあります。 (画像©DESIGNStudio)