海洋イノベーション

時代の先端を行く造船所が持続可能なオペレーションで競争力を強化

Nick Lerner
5 June 2019

造船業界で持続可能性の優先度が高まるにつれて、一部の造船所の間では、廃棄物を出さない設計や製造を可能にする革新技術を導入し、ゼロエミッション船を造る動きが広まっています。その結果、船舶だけでなく事業運営の持続可能性も高まっています。

世界中の造船所が競争力を強化する戦略を推し進める中、オランダのホルクムに拠点を置くDamen Shipyards Groupは、二酸化炭素の排出量を最低限に抑えた船舶を効率的に設計して建造するために、各工程にシミュレーション・テクノロージーを導入するという画期的な手法を選択しました。

同社の成功例として、新しい完全電気駆動フェリーの二酸化炭素排出量はゼロ、それ以外の船舶の排出量も、ハイブリッド推進技術の採用や、船殻設計時における摩擦抵抗の低減、船体表面のさまざまな仕上げの採用などにより20~60% 削減されています。また、空気潤滑法によりエネルギー需要を最大10% 削減しています。

「二酸化炭素排出量の削減には、システムの統合と最適化が鍵になります」と、Damen社の研究開発部門の開発マネージャーJorinus Kalis氏は述べます。「そこで重要な役割を果たすのがデジタル技術です。当社はプロジェクトの立ち上げ当初から設計、開発、可視化に3Dを採用することで、デジタル環境にシステム、製品、オペレーションの効率モデルを作成し、テストと検証を行っています」

3Dモデルベースのデータを使用すると、設計者は社内外の関係者に新しいアイデアを実際に見せて説明することができます。

「効率性を向上させるアイデアや方法の説明は複雑になりがちです。そのため関係者から理解を得るのが難しいのです」と同氏は言います。「ビジネスと技術の面で、燃料系、推進系、電装系など相互に作用する各システムに変更を加えて刷新するケースでは、意思決定による予算や環境への影響を証明する視覚性の高い超現実的な検証データを用いることで簡単に説明することができます」

持続可能性に対する意識の高まり

ロイド船級協会のレポートによると、造船業界に対して国連が設定している50~70%の二酸化炭素排出量削減目標をクリアするには、ゼロエミッション船(ZEV)の数を2030年までに大幅に増やす必要があります。この目標を達成するには、ゼロエミッション船の新規建造数を増やし、既存の船舶が排出するCO₂を相殺する必要があります。

このことが造船業界のビジネスにとって何を意味するかは明確です。海運会社は、最も効率的で競争力のある持続可能な方法で、二酸化炭素の排出量を抑えた船舶やゼロエミッション船を建造して納入してくれる造船所を選ぶようになります。

その結果、Damen社のような革新的な造船所は、環境とビジネスの間にある切り離せない関係に注目しています。現代の船主から求められるさまざまな優先事項を両立させるために、こうした造船所は、デジタル・シミュレーションの導入を進めることで、二酸化炭素排出量の問題を調査、解決すると同時に生産性と効率性を高め、環境とビジネスの面で持続可能性な企業になっています。3Dシミュレーションを活用することで、造船所はより多くの設計オプションを検討し、パフォーマンス、初期コスト、総所有コスト、貨物積載量、環境への影響などの最適なバランスを正確に判断できるようになります。

「二酸化炭素排出量の削減に対する圧力とコストを最小限に抑えるというニーズが、効率的な船舶設計の必要性を高めています」と、英国造船学会の学会誌『The Naval Architect』の編集者であるRichard Halfhide氏は述べています。「まだ、排出量を抑えた船舶を作る確実な方法はありませんが、私たちと同様に海運会社も同じ社会の一員ですし、解決策を見つけたいと考えています。排出量を抑えた船舶を建造する造船所が、今後の市場を占めることになるでしょう。そのため、造船所は環境とビジネスの双方に恩恵をもたらす船舶の開発に集中的に取り組んでいます」

Damen Shipyards Group は、こうしたトレンドの中でも最も素晴らしい例です。全世界に12,000人の社員を有し、年間150隻の船を建造しています。Damen社では、全長10メートル(32フィート)の作業船から全長205メートル(673フィート)の海軍補助艦までを幅広く扱い、船舶の建造、保守、改装は六大陸に点在する造船所で行っています。

“「二酸化炭素排出量の削減には、システムの統合と最適化が鍵になります。そこで重要な役割を果たすのがデジタル技術です」 ”

JORINUS KALIS氏
DAMEN SHIPYARDS社 研究開発部門 開発マネージャー

Damen社の経営陣は、彼らの持続可能な発展に向けた集中的な取り組みを、賢明なビジネス判断として評価しています。

「我々は、法律や規則によって変化が起こるのを待つのではなく、ハイブリッド発電やディーゼル発電などを利用した新しい推進システムを開発し、より効率的な廃棄物を出さない建造を目指すことで状況を変えようとしているのです」と、Kalis氏は述べます。「ビジネス的にも社会的にも環境維持を後押しする強い動機があるのです。常識的に考えて、我々は責任ある行動をとらなければなりません。建造の段階で二酸化炭素排出量と廃棄物を削減できる船舶と造船所の実現によって、技術、ビジネス、環境をさらに良くすることができるのです」

より安全でクリーンな動力

100年以上にわたり、ディーゼル駆動の船舶は海洋経済の発展に貢献する一方で、環境破壊の原因にもなってきました。この流れを変えるために、設計者は革新的なソリューションの開発に取り組んでいます。新しいアイデアには、大気中に排出される前に排気ガスを捉えて処理するシステムや触媒、代替燃料(LNG、水素、メタン、メタノールなど)、ハイブリッド車で使用される酸化液体電池などがあります。

世界貿易機関(WTO)は、国際取引が年間 3.5~4%のペースで増加すると予測しています。ロイター社の報告によると、この需要によって海運貨物が増加し、結果的には船の需要につながると見ています。

シミュレーション技術を活用し、予想される船舶の運航状態に関するデータを設計に統合して、建造を開始する前に設計全体の整合性と製造性を確認することで、造船所はこの成長市場をフルに生かすことができます。設計者は、船のコンポーネント、システム、ソフトウェアのデータを組み立てる設計段階で、バーチャル環境を利用した高度なデジタル・シミュレーションで検証を行い、最適化されたパフォーマンスを実現できます。

「システムを物理的に動かしたり調達したりする前にシステムを組み立てて検証しておくと、ミスを防ぎ、リスクを軽減できます」と同氏は言います。

「船載システムをシミュレーションすることに加え、当社の造船オペレーションもシミュレーションした結果、製造プロセスを効率化し、無駄な廃棄物と労力の節減につながっています。この戦略により、一部の造船オペレーションの効率が2倍に高まりました。今後は、シミュレーションの応用範囲をさらに広げる予定です」

Kalis氏は、強力なシミュレーション機能に投資することが、最終的にはDamen社製船舶や製品のパフォーマンス、そしてビジネス パフォーマンスの最適化につながると言います。

「デジタル化とは、協力会社、関係者、海運会社にパフォーマンスを確約し、確かな収益の確保という観点からこうしたイノベーションによってもたらされる付加価値を実際に見せて説明できることなのです」

For more information on intelligent connected systems, please visit: go.3ds.com/2MP

Related resources