タイヤ革命

電動化、自動運転と変貌を続ける自動車と共に、脇役だったタイヤもハイテク化へ

William J. Holstein
7 July 2020

タイヤ業界の目下の課題は、電動化、自動運転、商用車などへと変貌しつつある自動車それぞれに最も適したタイヤを開発することです。地点間の移動手段が進化した今、エンジニアは多様な構造や材料の試験や試作を容易にするデジタルシミュレーションを使い、タイヤに革命をもたらそうとしています。

気の毒なタイヤ

「自動車の中で最も重要なパーツはタイヤだよ。唯一、地面に直接接しているところだからね」とは、自動車業界で古くから語られているジョークです。これが笑い話たる所以は、自動車メーカーはこれまでタイヤ設計の改善にほとんど時間を費やしてこなかったことにあります。

ところが、これはもはやジョークではなくなっているのかもしれません。業界が電気自動車や完全自動運転車の登場に向け準備しているのに伴い、これまで隅に追いやられていたタイヤのハイテク化も急ピッチで進められています。

「業界では実際に、タイヤがこれから重要な役割を担うことが目に見えて明らかになってきています」と、米オハイオ州アクロンを拠点とするブリヂストンのデジタルエンジニアリング部門ディレクター、Hans Dorfi氏は述べています。

新種の車に必要なのは新種のタイヤ

自動運転車はハンドルを持たないものとなる予定です。そのため、これらの車の利用者は単なる「乗客」となり、タイヤのパンクを修理したくもないし、そのつもりもないでしょう。こうした傾向は、やがて人々が車を所有しなくなり、一定時間だけ車を借りたり、オンデマンドで配車サービスを利用したりするようになるにつれて、特に顕著になるでしょう。そこで、タイヤメーカーはエアレスタイヤの開発と導入、さらには、万一タイヤに穴が開いても、タイヤ修理が可能になるまでの短時間なら完全にパンクするのを避けられるという、シーラント剤を埋め込んだタイヤの開発と導入を進めています。

しかし、タイヤメーカーはパンク防止だけに注力しているわけではありません。電気自動車は、動力源となるバッテリーの重量によってかなり重たくなります。この重さがタイヤの磨耗や損傷を早める原因であり、前輪と後輪の車軸を別々のモーターで駆動するタイプや、設計によっては、それぞれのタイヤに個別のモーターが必要となるものもあります。タイヤの損傷がより早まることから、より耐久性に優れた新素材へのニーズが一層高まっています。

さらに、個人が所有する自動車の1日あたりの稼働率が10%であるのに対して、複数人でのシェアが前提となる商用車では稼働率が90%に達する可能性があることも、タイヤの損傷を早める決定的な要因となっています。

デジタルシミュレーションの導入

タイヤメーカーは、これらの課題を適切に予測して対処するために仮想シミュレーション用ソフトウェアを取り入れ、自らのソリューションの実効性を確かなものにしようとしています。

「これらのデジタルツールは2つの側面で利用可能です。一つは極めて固有の用途への製品設計、もう一つは、製品の検証に従来必要とされた多くの反復作業の省力化です」(Dorfi氏)

ブリヂストンでは、実証実験の前に、さまざまな状況を想定した仮想シミュレーションによるテストを実施しています。ブリヂストンのDriveGuardは、パンクした後でも一定距離を走行できるように設計されています。(Image ©Bridgestone)

デジタルシミュレーション用ソフトウェアの機能が向上したことにより、タイヤメーカーはタイヤが直面しうる数多くの状況についてもシミュレーションし、実際の製造にとりかかるずっと前に、新たに設計されたタイヤの性能をデジタルで、現実世界の状況に合わせてテストできるようになりました。

「どのタイヤメーカーも、検討すべきあらゆる動作状況について、タイヤのシミュレーションが可能な段階にきています」と話すのは、米バージニア州ブラックスバーグにあるのマネージングディレクター、Ron Kennedy氏です。CenTiReはタイヤメーカーによるグローバル連合のための機関で、アメリカ国立科学財団の後援を受け、米バージニア工科大学と米アクロン大学の2つの大学を通じて研究をおこなっています    

例えば、CenTiReでは、タイヤがでこぼこ道や、凍結路面あるいは滑りやすい路面を走行する際の操作や快適さに関するテスト、または発生するノイズの測定が可能です。また、特に電気自動車向けのタイヤの場合には、転がり抵抗も重要な変数です。転がり抵抗が低いほど走行可能距離が延び、バッテリーの持ちが良くなります。

研究者がテストしなければならないコンディション、設計、材料などの要素が多岐に渡ることを考えると、シミュレーションの実行スピードの重要性はますます高まります。

「1つのモデルを実行するのにどれくらいの時間がかかると思いますか。さまざまな設計モデルを、できるだけ数多く短時間で評価したい。1日当たり1モデルでは十分なスピードとは言えません。1日に3、4モデルを実行するスピードが必要です」(Kennedy氏)

空気を入れないタイヤ

ミシュランはシミュレーションを活用し、パンクしないUPTIS(Unique Puncture-proof Tire System)タイヤを開発しました。UPTISはインナーチューブを持たず、空気を一切含みません。つまり、このタイヤを採用した自動車メーカーは自社製の車にジャッキやスペアタイヤを積載する必要がなくなるため、軽量化とコスト削減を図れます。UPTISは、早ければ2024年にゼネラルモーターズの乗用車に導入される見込みです。

ミシュランは、ドライバーの大多数はフィーリングや性能面での違いに気付かないだろうと述べています。UPTISの最大の特徴は、パンクの可能性をなくしたことで得られる安全性の向上です。

ミシュランのUPTISの試作品を装着したシボレー・ボルトEVのテスト走行が、2019年5月29日に米ミシガン州ミルフォードのゼネラルモーターズ・ミルフォード・プルービング・グランドで実施されました。GMはこのエアレスタイヤのパーツをミシュランと共同開発し、早ければ2024年に乗用車に導入することを目指しています。(撮影:Steve Fecht氏/ゼネラルモーターズ)

UPTISの共同考案者で、米サウスカロライナ州グリーンビルでミシュランの上級主席製品リサーチエンジニアを務めるSteve Cron氏は、一から新たに設計するという状況でのシミュレーションの重要性について語っています。UPTISのスポークは、スパゲッティの束のような見た目を持つ新素材の単繊維グラスファイバーを含有する合成ゴムで構成されており、このシミュレーションは特に、エンジニアがこのスポークの形状を最適化する際に役立ちました。

「私たちはシミュレーションソフトウェアにわずかな情報を与えただけで、あとは私たちが求めるタイプのソリューションについての調査を委ねました。このおかげで膨大な時間が削減され、人間の介在なしに格段に優れたソリューションが得られました」と、Cron氏は言います。現在、単繊維グラスファイバーはホイールのスポークを強化するために、タイヤの外部バンドに使用されています。

その他にも仮想シミュレーションは、UPTISの力学的な構造を把握するのに大いに役立ちました。エンジニアは、ホイールの路面に接する部分だけではなく、空気入りタイヤに使用されている全てのパーツ(上部、底部、側面、スポーク)が車両の重量をどうやって支えているのかについてもその方法を模倣しようと試みました。「シミュレーションなくして、この問題を解明することは絶対にできなかったでしょう。これらのツールを使用することは必要不可欠なことなのです」(Cron氏)

タイヤの未来について詳しく知りたい場合には、Tiire That Talk の記事もご覧ください。IoTセンサーから得られる知見をもとに自動車の安全性とサービスをいかにして改善するかについてご紹介しています。    

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