Aerospace & defense

航空宇宙分野の未来の展望

Tony Velocci
23 November 2017

航空宇宙産業セグメントはまだ成長中とはいえ、リスクを嫌う企業が画期的なテクノロジーへの投資を控えているため、イノベーションのレートが減速してきています。ただし、イノベーション・センターの普及により、自社のリソースを投じる前に概念実証のアイデアのテストが可能な比較的低リスクの環境が提供されることで、この傾向が逆転する可能性が浮上しています。

航空宇宙産業が過去100年にわたって生み出した、商用航空機、ジェットエンジン、GPS(Global Positioning System)、気象・通信衛星といった新しいテクノロジーは、最も先進的なものですら漸進的進歩であり、そのスピードも遅々としています。現在でさえ、イノベーションの大多数は変革をもたらすようなものではなく、継続的な進化にすぎません。

しかし、航空宇宙分野に焦点を合わせたイノベーション・センターが急速に普及したことで、革新的な前進にむけた準備が整ったようです。こうした破壊的変化をもたらすナレッジ・エコシステムを通じ、産業界と学術界の研究者は、最先端のデジタル環境での製品設計と製造をさらに推進し、まったく新しいテクノロジーやプロセスを作り出して、開発速度を速めることができます。

前例のない課題に直面している航空宇宙企業の未来にとって、そうした能力が極めて重要であると指摘したのは、Deloitte Consultingの前バイス・チェアマンで、航空宇宙・防衛産業部門の責任者でもあったTom Captain氏です。

Tom Captain氏は次のように述べています。「航空宇宙産業は成功を収めるイノベーションを生み出し続けていますが、万事順調とも言えないことを示すやっかいな兆しが見られます。たとえば、航空宇宙分野の最先端のイノベーションは、そのほとんどがスタートアップ企業から生み出されているのですが、そのことは大企業にとって、自社の置かれている地位を当然のものと見なすべきではないとする明確なサインとなっています。大企業は、こうした変化のペースについていけるかに自社の存続がかかっていることを認識しています」

航空宇宙産業の山積する課題

航空宇宙産業には、製品納入の遅れと予算超過を長年積み重ねてきた過去があり、OEMから航空機産業プラットフォームや宇宙船のエンドユーザーにいたるまで取引先は機器サプライヤーに責任の一端を担わせてきました。航空会社や軍関係といった取引先は、あらゆる種類の飛行体が複雑化している中、より多くのイノベーションを実現し、より迅速に製品を市場に投入し、コストを引き下げるようサプライヤーに強く迫っています。

一方、サプライヤーからメーカーまで、スマートでデジタル接続された、モノのインターネット(IoT)を活用したスループットの向上、品質の改善、在庫の解消、無駄の削減を図るべく、「インダストリー4.0」に向けオペレーションの舵を切るよう、増大するプレッシャーにさらされています。

ダッソー・システムズのBrian Christensenが、ウィチタ州立大学にある米国国立航空研究所との共同プロジェクトである無人航空システムのデジタル・モックアップで、設計上の特徴を指し示しています。(Image © Dassault Systèmes)

Blue Originや、SpaceXの名で通るSpace Exploration Technologies Corporationといった新興企業は、成熟市場をひっくり返す驚くべき能力を見せています。たとえば、再利用可能なブースター・ロケットの開発においては、長年の業界のリーダー企業を凌駕しました。

ワシントンD.C.にある非営利の政策研究組織、戦略国際問題研究所(CSIS)で国際安全保障プログラムのシニア・フェロー、防衛産業イニシアティブ・グループのディレクターを務めるAndrew Hunter氏は、「宇宙への打ち上げ市場に破壊的変化をもたらすことができれば、他のどの市場においても同じことができるはずです」と述べています。

航空宇宙産業のサプライヤーは、その規模を問わず、次世代のイノベーターを惹き付けるのに苦労しています。

「従来の航空宇宙企業のリスク回避文化に染まらずにきたSpaceXのような非常に機敏な組織は例外として、この業界で、他業種の起業家精神に富む企業で得られる賃金水準や刺激に対抗するのはますます難しくなってきています」とCaptain氏は述べています。

「イノベーション・センターによって、研究開発の専門家たちは実際のリソースを投入する前に、自分たちのアイデアを完全に機能する忠実度の高いモデルやシステムに変えることができます

TOM MILON氏
THE BOSTON CONSULTING GROUPプリンシパル

ボストンに本拠を置く国際的経営コンサルティング会社のThe Boston Consulting GroupのプリンシパルであるTom Milon氏によれば、これらの課題は、10 年前にはいずれも存在しなかった、あるいは今ほど深刻ではありませんでした。

しかしイノベーション・センターでは、企業が顧客に対し提示する価値について、違った観点をもたらす新しい機会を提供し、企業に製造と製品設計に対する自社のアプローチを再考するための「実験場」を提供することができます。「イノベーション・センターによって、研究開発の専門家たちは実際のリソースを投入する前に、自分たちのアイデアを完全に機能する忠実度の高いモデルやシステムに変えることができます」(Milon氏)

イノベーション・センターによる研究開発の加速

そうした最新の施設が、カンザス州ウィチタのウィチタ州立大学(WSU)/米国国立航空研究所(NIAR)にあります。このセンターでは、イマーシブな(没入型の)ロボット・アプリケーションと共に、素材やシミュレーションに関する知見を利用して、高度な製品開発と製造を実現することに力を入れています。

NIARのエグゼクティブ・ディレクターで、WSUのリサーチおよびテクノロジー・トランスファー担当バイス・プレジデントでもあるJohn S. Tomblin氏は次のように述べています。「センターによる提案を調査した航空宇宙企業は、その達成レベルに驚いています。既成概念にとらわれない発想と、コンセプトの実現可能性の証明、それがこのセンターのすべてです。限界があるとすれば想像力のみで、それを証明できるのがこの場所なのです」

2017年4月にセンターがオープンしたとき、50社を超えるサプライヤーの研究開発担当役員がこの施設を見学しました。その後すぐに、それらのうち数社が、センターで開発とテストを行うための正式な実現可能性調査プロジェクトを発足しました。

早期に先導役となった企業の一つがAirbusで、同社はセンターの世界的に最先端の研究室を概念実証に活用しているのに加え、研究室はAirbusの将来の設計人材の供給ルートとなるにも一役買っています。

航空宇宙・防衛産業のエグゼクティブたちが、ウィチタ州立大学の航空宇宙・防衛分野の新しいイノベーション・センターにある、マルチロボットによる高度な製造についての研究室を視察しています。(Image © Dassault Systèmes)

たとえば、Airbusのマルチファンクショナル・チームは、航空機の主要サブアセンブリーについて設計基準を検証し、技術上およびビジネス上の疑問を90日以内に解く必要がありました。ウィチタにいるAirbus研究者に加えて、同社がすべての商用ジェット機を組み立てるフランスのトゥールーズにいる技術者が、「スプリント」と名づけられたこの短期限のイニシアティブに参加しました。

このチームは84日で目標に到達しました。部分的に、クラウド・ベースのコラボレーション・シミュレーション・ツールを使用し、ほぼリアルタイムにコンポーネントの組み込みを最適化して設計を改良することで実現されました。

Airbus Americasのエンジニアリング担当バイス・プレジデントであるJohn O’Leary氏は次のように述べています。「このプロジェクトは大成功とみなされました。大学のイノベーション・キャンパスにあるセンターが類のない機能を持っていること、そしてそこが、研究チームを一堂に会し、この種のコラボレーションを利用した迅速なイノベーションをなし遂げられる唯一の場所であることが示されたのです」

拡大する世界的競争

イノベーション・センターは産業界全体ではますます普及してきていますが、航空宇宙分野では比較的新しい存在で、その数は増えつづけています。

航空宇宙産業を築く、あるいは地域の航空宇宙産業を世界全体でより競争力のあるものに発展させるという地方自治体、地域および国家政府の意向による支援を受けて、ウィチタに類似するセンターが世界中に設立されつつあります。

たとえばアジア太平洋地域の国々は、長い間、自国の航空宇宙産業の発展を、テクノロジーの刷新、雇用の創出、および経済成長全般を刺激する最重要の機会ととらえてきました。中国や日本を含むそうした国々の中には、数十年にわたる取り組みを続けている国もあります。ブラジルとカナダも同様の取り組みを実施し、1990年代に主要企業であるEmbraerとBombardierをそれぞれ出現させています。空の旅に対する需要は、今後20年にわたって年4.5%のペースで伸びると予測されており、この成長の一部を享受する機会が熟しています。

「このテクノロジー・センターを、パートナー全員が一緒に遊べる砂場だと想像してみてください」

ROLAND GERHARDS氏
ドイツ・ハンブルグ 応用航空研究センターマネージング・ディレクター兼CEO

航空機の製造に必要とされるスキルのように、高度なエンジニアリング・スキルは国の大きなプライドの源でもあります。

たとえばインドでは、カルナータカ州政府が、年間およそ1,600人のエンジニアに最高レベルのトレーニングを提供することを目的とした、航空宇宙分野の中核的研究教育拠点を設ける計画を発表しました。北京では、国有の中国航空工業集団公司(AVIC)が、中国とフランスの共同イノベーション・センターの設立を進めています。このセンターの目的は、両国の施策である「Made in China 2025」及び、「Industrie du Futur」の中核を築くことにあります。

AVICの執行副総裁であるZhang Xinguo博士は、このセンターが発表されたときに次のように述べています。「航空システムの複雑さは急激に高まっており、従来の文書ベースのシステムズ・エンジニアリングやモデル・ベースの継続的開発が、中国の航空産業で使用されている開発モデルの変革を推進する主な要因になるでしょう」

一方、新興経済圏にすべての強みを握らせることをよしとしない、ドイツのハンブルグを本拠とするZALと呼ばれる応用航空研究センターでは、航空と航空宇宙テクノロジーの課題に対する革新的なソリューションを探る産業界、科学界、学術界の32を超えるパートナーを支援しています。

ZALの長期的使命は、既存の製品をすばやくシームレスにアップグレードする機能を含め、製品開発の迅速性を求める動きに素早く対応することです。

ZALのマネージング・ディレクター兼CEOであるRoland Gerhards氏は次のように述べています。「このテクノロジー・センターを、パートナー全員が一緒に遊べる砂場だと想像してみてください。ZALはコラボレーションがすべてであり、センターは、何をするかという点で本当に類のない、鍵になるパートナーであって、フロントエンド・ソフトウェアの開発を提供し、様々なデジタル・ツールを接続して、設計と製造をデジタルでリンクすることで、他のパートナーによるイノベーションを加速します」

テクノロジーのホスト役

ウィチタのイノベーション・センターは、約11,000平方メートルのラボと作業空間から成っています。スタートアップ企業や起業家はそこで実験を行うことができ、多くの場合、NIARと業界からのアドバイスや専門知識が得られます。センターはWSUの工学部学生の応用学習環境としても利用され、学生たちはNIARや業界のパートナーと並んで作業します。

8人収容のコラボレーション・ルームに加えて、センターには、初期のコンセプトから認証まで、新たに設計した部品やサブアセンブリーから完全な飛行体まで、イノベーションを加速する一連のソリューションが完備されています。これらのソリューションには、設計をイマーシブ3Dで表示するための仮想現実や拡張現実のテクノロジー、柔軟でスケーラブルな製造のためのマルチロボット、リバース・エンジニアリング・テクノロジーなどが含まれます。

ウィチタ州立大学のCADCAM部門アシスタント・ディレクターを務めるNathan Shipley氏が、同大学に新たに設けられた航空宇宙・防衛分野のイノベーション・センターで、リバース・エンジニアリングのために複雑な物体の3Dスキャンを行っています。(Image © Dassault Systèmes)

ただし、センターに集まる多くのチームはクラウド・ベースのデジタル・プラットフォームに引き付けられています。このプラットフォームにより、作業のすべてのフェーズが、共通の一貫したデータプールにリンクされ、さらに相互にリンクされていて、数あるメリットの中でも、チーム・メンバーはこのプラットフォームによって、Airbus が実証したように世界のさまざまな地域でシームレスにコラボレーションすることができます。

このプラットフォームでは、研究者たちは航空サプライヤー向けだけではない、利用可能性のある技法を見て取ることができる、とBCGのMilon氏は指摘します。実際、BCGは独自に「オペレーションのためのイノベーション・センター」を世界に7ヵ所設立しました。それらのセンターは、企業がインダストリー4.0のテクノロジーをどのように活用できるかを実証するために設計されています。また、包括的なデジタル・プラットフォームを中心にして構築されています。

ウィチタにあるイノベーション・センターのプラットフォームは、「航空宇宙産業という枠を越え、他の製造企業にも有効です」とMilon氏は述べています。「ルールが全く異なります。インスピレーションを得られます。これらのセンターで行われているように互いにリンクされている例は他のどこでも見たことがありません」

デジタル・イノベーションの上でバランスある未来

航空宇宙産業の悲観論者は、他の産業のような破壊的な進歩に足並みをそろえることができず段階的な改善に力を入れた、リスク回避の傾向がますます強まる企業によって業界が支配されていたのだと考えています。これらの悲観論者は、1世紀近く世界の航空宇宙産業の成長を推進する助けとなってきた社会経済的なメリットを航空宇宙産業はもはや維持することができないと予想しています。

その一方、楽観論者が目にしているのは、世界中で拡大している空の旅に対する需要、コストと排出物を抑制する環境面の改善、飛行システムの新たな用途に向けて航空宇宙分野を広げるテクノロジーを支えることができる、対応力の高い産業です。それは、航空宇宙産業を新たな高みに押し上げる産業の刷新において、イノベーション・センターが中心的役割を果たす未来です。

世界各地のイノベーション・センターの協力関係

ダッソー・システムズでは、4ヵ国における組織や政府機関と協力して、この記事で紹介したような航空宇宙分野のイノベーション・センターの設立を進めています。

米国では、ダッソー・システムズはウィチタ州立大学の3DEXPERIENCEセンターでNIARの全面的パートナーとなっていて、高度な製品開発と製造を可能にするダッソー・システムズの3DEXPERIENCEプラットフォームとブランド・アプリケーションを使用しています。

ドイツでは、3DEXPERIENCEセンターはハンブルグの応用航空研究センターであるZALとの協力関係にあり、メーカー、起業家、パートナー企業、航空当局、大学によるイノベーションの加速とインダストリー4.0プロジェクトの実現を支援しています。

中国では、中国航空工業集団公司(AVIC)とダッソー・システムズが、イマーシブ・エクスペリエンス、ダイナミック・シミュレーション、アディティブ・マニュファクチャリング、マルチロボットによる高度な製造に向けた、先進的デジタル・テクノロジーを促進するイノベーション・センターの設立を進めています。

インドでは、Karnataka Biotechnology and Information Technology Services(カルナータカ州バイオテクノロジーおよび情報テクノロジー・サービス)とダッソー・システムズが、ビスベスバラヤ技術大学に航空宇宙・防衛の中核的研究教育拠点設立に向け動いています。このセンターは、航空宇宙産業を支えるインドの専門的スキルの開発に重点を置く予定です。

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