Aerospace & defense

原子から航空機へ

Tony Velocci
28 October 2015

航空機の外観およびそのエネルギー源から、航空機を造る素材にいたるまで、科学者と技術者は航空機がどのように製造され、どのように機能するかまで刷新しようとしています。

2045年、ニューヨーク発パリ行きノンストップ定期便の大型旅客機に乗り込もうとしている所を想像してみてください。この機は現在の民間航空機と同じに見えますが、航空機のシステムから製造に使われた新素材により現在私たちが経験している空の旅とは異なるものになっているでしょう。

まず最初に、飛行機の動力源はジェット燃料ではなく電気で、その構造は、太陽エネルギーを集めて蓄える巨大なバッテリーを兼ねるようになっています。この結果、この航空機は温室効果ガスを放出しません。目的地へ行く途中、窓側席の乗客は、飛行条件に応じて、軽量な複合材でできた翼の形が自動的に変化するのに気付くかもしれません。一方、地上では、航空機のデジタルモックアップが、15年から20年の耐用年数を通してその航空機がどのように経年変化するかの予測に役立っています。これによって技術者は、保守上の問題が現れてくるのにつれて、新しい問題を識別して修正を加え、メカトラブルが理由となるフライトの遅れや欠航の削減、解消を図ることができます。

未来的かと問われれば、そのとおりだと答えます。でも、夢物語ではありません。
このような先進的コンセプトは、民間航空機産業の新しい将来性を育む助けとなるように、米国航空宇宙局(NASA)の「Convergent Aeronautics Solutions」計画で調査が進められています。NASAの計画と同様に、世界の航空宇宙分野に携わる企業が自国政府と協力して、航空機産業の重要な課題を解決するために高度なテクノロジー、ツール、プロセスの研究および開発に注力します。それは、より短時間に開発可能、環境的に持続可能、より安価な価格、運用と保守がより効率的といった特長を備えた、より高速な新型航空機を実現するという課題です。

航空宇宙産業で特に高く評価されているアナリストの一人であるWolfgang Demisch氏は、次のように述べています。「航空宇宙分野に携わる企業は、テクノロジーを通して将来像を描いており、これから数年間は、民間航空機産業のあらゆる分野で、ほとんどの人が現在推測することさえできないイノベーションを目にすることになるでしょう」

民間航空機産業の急発展

航空輸送全体の83%を担うIATA(国際航空運送協会)によれば、世界全体の二酸化炭素排出量のうち、航空機によるものはわずか2%です。自動車、トラック、列車の温室効果ガス排出量は削減されてきていますが、航空機の排出量は、世界的に空の旅が増えたために増加しつつあります。IATAでは、今後20年間、空の旅は年率3.9%の速度で増加すると予測しています。この需要を満たすため、エアバス社とボーイング社は、2015年には約1,400機製造した旅客機を、2018年には1,900機近く製造する予定になっています。この数は、エアバス社とボーイング社の「2強」が2008年に納入した数の2倍を超えています。これにカナダのボンバルディア社とブラジルのエンブラエル社を加えると、2018年には2,100機を超える民間航空機の納入が可能となる計算で、これは歴史的に見ても高い生産数です。

これらの航空機が出す温室効果ガスを、前世代のモデルより減らす助けになる燃料効率のイノベーションは、開発が進んだものも、更なる改善を求める圧力が加わっています。IATAメンバーは、燃料効率を年2%改善することを求められていて、2050年までの業界排出量の累積改善率は2005年の約50%に及びます。

50%

IATAメンバーは、燃料効率を年2%改善することを求められていて、2050年までの業界排出量の累積改善率は2005年の約50%に及びます。

電気推進、民間無人貨物輸送航空機、高精度ナビゲーションといった先進的テクノロジーがいつ量産モデルとして登場するかを予測するのは時期尚早ですが、確かなこともあります。20年から30年のうちに、レジャーやビジネスを目的とした数百万人の利用者を輸送する民間航空機それ自体と、そうした航空機がどのように製造されるかは、今とは非常に異なるものになるでしょう。

ビジネス向け航空機の場合、技術者は地球が小さくなったと感じさせるジェット機が少なくとも一機種登場すると期待して、テクノロジーを開発しています。この機の目標は、2025年より前に、マッハ1を大幅に上回る速度で大陸間を飛行できるようにすることです。実際の速度は最終的な設計に左右されますが、この航空機で想定されている高度では、時速1,800kmほどにもなる可能性があります。たとえば、米国アリゾナ州に拠点を置くハネウェルエアロスペース社と、アイオワ州にあるロックウェル・コリンズ社は、超音速機の乗組員が地上のソニックブームのパターンを視覚化し、飛行プロファイルを変更して影響を軽減できるようにする、コックピットディスプレイとパイロットインターフェースを開発しています。

革新的テクノロジー

しかし、イノベーションの対象は機体、エンジン、サブシステムに留まりません。将来の世代の航空機やエンジンの製作に使用される高性能な複合材や超高温材料も、分子レベルでの進歩を皮切りに、劇的な進歩を遂げるでしょう。ボーイング社とエアバス社はすでに、それぞれの787モデルとA350モデルで複合材の使用範囲を広げることで、それまで両社が製造したどの民間航空機よりも大幅な重量削減とそれに伴う燃料の節約を達成しています。一方、世界中の民間および政府の研究施設は、強化された構造特性を持つ新しい種類の合金と多様な繊維を作っています。こうした特性により、合金や繊維はより強固かつ軽量で、製造コストが低く、極限の運用条件でより優れた性能を発揮できるようになるのです。

先進的な生産プロセスに投じられている労力もそれらに劣りません。そうしたプロセスの一つが、素材の層を何層も溶かして積み重ねることで複雑な部品を製造する、3Dプリンティングとも呼ばれる積層造形(AM)です。これは、固形の素材ブロックから部品を削り出す従来の機械加工とは逆向きです。たとえばオハイオ州イブンデールのGEアビエーション社は、AMを使用して、あるジェットエンジンの燃料ノズルを製造し、コネチカット州のプラット・アンド・ホイットニー(P&W)社は、AMで一部のジェットエンジンの高度なタービンコンポーネントを製造しています。

素材と製造の技術者によれば、それでもテクノロジーは、開発のごく初期段階にあります。P&W社で製造およびグローバルサービスのチーフエンジニアを務めるLynn Gambill氏は次のように述べています。「これは画期的なテクノロジーです。AMは、他の方法では製造できない製品の、迅速でエネルギー効率が高い製造に適していて、無駄になる素材は大幅に少なくなります」

今後数十年で航空機産業が劇的に発展することに疑問の余地はありませんが、この発展がどれほどの速度で進むかは、より予測しにくい状況です。新しいテクノロジーを市場に出すまでには、多額の投資を行い、一定レベルのビジネスリスクを受け入れる必要があり、これらの2つは、航空宇宙産業においては足並みを揃えて動くことはめったにない変数だと語るのは、First Aviation Services社の社長、会長、兼CEOであるAaron Hollander氏です。同社は、コネチカット州で、工学分野に重点を置いてコンポーネントの保守と修理を行う企業です。「同時に、航空宇宙産業は限界を押し広げ、技術の最先端を前進させる誇り高き遺産を受け継いでいます。そして私は、この伝統は今後も続くと確信しています」とAaron Hollander氏は述べています。

スキャンすると、Aerion社の超音速ビジネスジェットをご覧いただけます
https://youtu.be/5opnLqanUvE

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