Aerospace & defense

フライトの楽しさを 取り戻すために

Tony Velocci
28 October 2015

空の旅に関わる業界は、先を争って乗客のエクスペリエンスを改善しようとしています。その範囲は、ビジネスジェットに搭乗した乗客の快適性を予測し、それを洗練する助けになる3Dビジュアリゼーション・テクノロジーから、民間航空路線で提供される、時代を先取りしたエンターテインメント・システムや、空港で乗客を搭乗ゲートまですばやく誘導する個人用ナビゲーション・ツールにまで及びます。

米国に本拠を置くガルフストリーム・エアロスペース社がまったく新しいG500/G600ビジネスジェットを開発していたとき、その目標の一つは、速度、航続距離、提供されている中で最も高機能なコックピット、優れたキャビン・エクスペリエンスが比類のない組み合わせとなって提供されるように航空機を最適化することでした。

技術者たちは、形状、機能、効率の最適なブレンドを作り出せていることの確認に役立つように、ガルフストリーム・エアロスペース社のCAVE(Cave Automatic Virtual Environment:没入型バーチャルリアリティ装置)を使用して、設計の検討やシステム・インテグレーションの支援を行いました。

CAVEでは、高精細のアクティブな立体映像プロジェクターを使用して、部屋ほどの大きさの立方体の壁面に完全没入型の3Dイメージを表示します。航空機開発のさまざまな段階で、技術者はモーション・トラッキング用センサーを備えた3Dヘッドマウント・ディスプレイとコントロール・デバイスを使用して、航空機キャビンの3Dモデルを実物大で投射した映像をリアルタイムに操作し、その場でトラブルシューティングを行い、多様なデザインを試し、生地を始めとする素材を変更して、顧客が自分の機のために選択した内容の全体像を体験しています。

没入型のエクスペリエンスは、航空機の設計工学チームが作成したモデルを使用して、リアルタイム3Dビジュアリゼーション・ソフトウェアによって生成されます。顧客は、飛行任務の航続距離はさまざまであっても、豪華で品位のあるガルフストリーム・エアロスペース社のエクスペリエンスが盛り込まれた飛行機を求めています。ガルフストリーム・エアロスペース社の目標は、その要求に応えるものを技術者が開発するときに、コスト高の物理的試作を徹底的に削減することです。この方法で開発される最初のG500は、2018年の納入が予定されています。

バーチャルリアリティ・シミュレーションの専門家であるガルフストリーム・エアロスペース社のエンジニア、Fernando Toledo氏は次のように述べています。「これは非常に強力で、世界最高レベルのエンジニアリング・アプリケーションです。設計プロセスのスピードアップに役立っていますが、私たちはまだ改良を続けています。開発担当者やお客様が、写真のようにリアルな三次元に完全に没入して製品を体験できる機能は、計り知れないほど貴重です」

「開発担当者やお客様が、写真のようにリアルな三次元に完全に没入して製品を体験できる機能は、計り知れないほど貴重です」

FERNANDO TOLEDO氏
ガルフストリーム・エアロスペース社エンジニア、バーチャルリアリティ・シミュレーションの専門家

ガルフストリーム・エアロスペース社のCAVEは、航空機メーカーから空港までの航空関連企業がテクノロジーを利用して、空の旅での出発から到着までのエクスペリエンスをどう改善しようとしているかを示す一例にすぎません。目標は、お客様を喜ばせ、競合他社からの差別化を図り、イノベーションにより時間とコストを削減することです。

優れたテクノロジーが優れたエクスペリエンスを生み出す

技術的進歩と、より優れたユーザー・エクスペリエンスを求める顧客に訴えかけるイノベーションの必要性が、ビジネス航空機メーカー間の熾烈な競争に拍車をかけています。こうした種類の航空機には、一般消費者が地上で楽しむものを再現する、あるいはそれらを凌駕することさえある通信システムや機内エンターテインメント・システムが装備されます。
たとえば、カナダを本拠とするボンバルディア社は、ハネウェル・エアロスペース社によって開発されたKaバンド用JetWave衛星通信システムを提供する最初のビジネス航空機メーカーで、このシステムは、航続距離が長い同社のGlobal 5000やGlobal 6000を含む一部のモデルに搭載可能です。2016年より、この機能によって、ビジネスジェットの乗客には、ほとんど世界のどこにいても高速な機内インターネット接続が提供されます。

Global 7000およびGlobal 8000のプロジェクトでインダストリアル・デザインのマネージャーを務めたTim Fagan氏は、次のように述べています。「弊社のお客様は、どこへ行ってもオンラインであることを望んでいます。間もなく、家庭やオフィスではあたりまえになったのと同じレベルの接続機能を空でも利用できるようになります」

世界中の航空会社に向けて民間航空機を製造しているエアバス社のチーフ・イノベーション・オフィサーであるYann Barbaux氏は、民間航空会社は、新しいテクノロジーをより速く導入するようにと、顧客から同様のプレッシャーを受けていると指摘しています。同氏によれば、こうした状況を受けて、エアバス社は製造する航空機全体を通して、イノベーションを取り込むサイクルを短縮し、2~3年のスパンからわずか数ヵ月のスパンに縮めたいと考えています。

この目標を達成する助けとなるよう、航空機メーカーはオートメーションとロボティクスの両方の利用を増やしつつあります。さらに、エアバス社はテクノロジー・ベンダーの支援を受けて、顧客である航空会社が航空業務を改善する助けとなる、進んだソフトウェアの利用法を探っています。特定のルートで最も経済的なサービスを提供できる機種はどれか、といった情報を得るのです。「デジタル・テクノロジーが発展する速度はかつてないほどで、当社がこの発展をリードするつもりでいます」とBarbaux氏は述べています。

ブリティシュ・エアウエイズ(BA)社も先導者となることを目指しています。BA社は、同社が運航する新しいボーイング787-9ドリームライナーで、ファーストクラスのキャビンを事実上まったく新しく作り直しました。「搭乗ゲートから搭乗ゲートまで」のエンターテインメント・エクスペリエンスを可能にする個人用スイートを導入し、乗客は離陸や着陸のときにテレビをしまう必要もなくなっています。飛行中のエンターテインメントは、シートに組み込まれたスマートフォンに似た新しいハンドセットを使ってコントロールします。さらに、乗客はハンドセットをドッキングすると、23インチの固定画面で映画などの別のものを見ている間に、ヘッドセットで、現在位置に合わせて表示される「動く地図」などのメニューオプションを一つ使用できます。各アームレストに隣接した目立たない手荷物収容スペースには、便利なコンセントが隠されています。

空港のエクスペリエンス

地上では、2015年の秋には、空港での接続が広く利用可能になる予定です。このときには、空港、航空会社、航空輸送の通信および情報テクノロジーを専門とする業界団体SITAの共同プロジェクトチームが、空港ターミナルではどのようにワイヤレス・テクノロジーを使用すべきかを定めた一連の標準規格と管理規則を公開する予定になっています。

iBeaconはバッテリー式の小型Bluetooth送信機で、ターミナル全域の、接続を提供するうえで重要な場所に配置されます。乗客がiBeaconの近くにいるときには、航空会社または空港が開発し、乗客が携帯電話にインストールしたアプリケーションが「目覚めます」。ロンドンのガトウィック空港では、ビーコン装置がスマートフォンによって旅行者を識別し、GPS方式で搭乗ゲートへの方向を示します。そしてゲートに着くまでは、飲食や買い物が可能なところを指し示します。

ワシントンD.C.に近いダレス国際空港を含む一部の空港では、顔認識システムを利用して入国審査をスピードアップしています。その目標は、空港をより快適な場所にして旅をスピードアップし、旅行者が空港環境と情報をやり取りできるようにすること、そして、ありそうもないと思われるかもしれませんが、空の旅をふたたび楽しいものにすることです。

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