「私は好奇心旺盛な人間です」とAnilore Banon氏は言います。「昔から、人々がどう振る舞い、どうコミュニケーションを取るかに興味がありました。だからアーティストになったのです。芸術に取り組むためではありません」
国際的な名声を博しているフランス人彫刻家、Banon氏は紛争の研究を通じて学びを深め、その知識をもとにアーティストとして作品を生み出しています。そんな彼女がこれまでに手掛けた作品の一つが、フランスのノルマンディー地方のオマハビーチに設置された「The Braves」。第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦の60周年を記念したモニュメントで、フランス政府の依頼を受けて制作したものです。
当初、この作品は一時的に設置される予定でしたが、(「Save the Braves」キャンペーンが展開されるほど)人気を博したため、常設されることになりました。多くの兵士が命を落とした浜辺から多数の鉄柱が突き出しているという衝撃的なビジュアルの作品は、悪に直面した人間の強さを象徴しているそうです。
このように芸術、自然、科学の融合によって人類の闘争と偉業を表現する作風は、Banon氏の過去最高に野心的なプロジェクトへの前触れといえるでしょう。
彼女はこう語っています。「世界中の誰もがそうであるように、私も地球温暖化やテロ攻撃など、自分たちが住む世界のことがますます心配になっていました。でも、テロ攻撃が発生したときに人々が見せた友愛や勇気は信じられないほど素晴らしかった。悲劇的な出来事が起きるとこれほど素晴らしい行動が取れるのに、ふだんの暮らしではなぜできないのかと疑問でした」
この質問に対する答えとして、Banon氏は人々を一つにするような作品に取り組むことにしました。「何かを共に創り上げれば、未来に自信が持てます」
この作品には科学と芸術の関係を模索するという狙いもあり、月に彫刻を置くという前代未聞の目標に向けて最終局面に入っています。
VITAEプロジェクト
「VITAE」プロジェクトと呼ばれる最新作は彼女がこれまで手掛けてきた作品の延長線上にあり、希望や勇気のメッセージをさらに壮大なスケールで表現しようとしています。
この彫刻は「生きている」と彼女は言います。形状記憶合金で作られているため、マイナス170℃からプラス120℃まで変動する月の温度に応じて動き、変化します。
「大事なのは人と人のつながり、そして力を合わせればより良い結果が出せるという事実です。力を合わせれば、できないことなどありません」
Anilore Banon氏
アーティスト
日中は繭のような形状ですが、夜になると花のように開き、20本の巻きひげが出てきます。Banon氏によれば、この巻きひげは暗黒の時代に「広がる」人間らしさを表現しているそうです。巻きひげのてっぺんから放たれる強力な光は、地球からも普通の望遠鏡で見えるようになります。
この彫刻が完全に開いてボウル状になると、そこは世界中に住む100万人の人々の手形で覆われています。手形を集めるにあたっては、可動コンテナで中国からヨーロッパまで回り、一般市民の皆さんにプロジェクトに参加してもらいました。学校や病院、各種公開イベントでも手形を集めています。こうした取り組み全般を資金面で支えているのはコレクター、そして自分の手形をこの彫刻に加えて欲しいと考える人々からの寄付です。
デザインテスト
Banon氏は夢を実現するために、ダッソー・システムズをはじめとする科学分野のパートナーと共同で「素材の耐熱性をテスト・シミュレーションし、この作品が地球から見えるかどうかを確認」しました。
このプロジェクトは4つの段階を経て進められています。第1段階では彫刻そのものをデザインし、第2段階ではオマハビーチから打ち上げた気象観測気球に乗せて大気圏の端まで初の予備飛行を実施。2017年2月に行われた第3段階では、VITAEの実物大模型をフロリダ州ケープ・カナベラルから発射し、国際宇宙ステーションで無重力状態での材料試験を行いました。
最終段階では、月に向けてVITAEを打ち上げることになります。すべてが計画通りに進めば2018年後半に実施される予定ですから、手形を集め、テストを重ね、資金を調達する時間は十分にあるでしょう。
「私は何かをやるときに困難を予想できないのですが、それがたいていプラスに働きます」と彼女は言います。「とはいえ、科学分野のパートナーから、解決策を見つけるにはVITAEの手直しが必要だと言われたことはありません。構造を変えずに正しい答えを見つけようと挑戦したのです。これが、本プロジェクトにとって非常に良かったですね。大事なのは人と人のつながり、そして力を合わせればより良い結果が出せるという事実です。力を合わせれば、できないことなどありません」
今後のツアー先
Anilore Banon and the VITAE PROJECT