Architecture, engineering & construction

建設の効率化

Nick Lerner
25 November 2017

製造・組立のための設計(DfMA)は、製造業ではもう何十年も普及している手法で、建設業にも浸透し始めています。Compass誌では、業界を代表する3つの組織-設計・建設会社のLaing O’Rourke社、技術団体のbuildingSMART International、木造建築に熱心に取り組んでいる企業Woodeum社-に、建設業界がいかにしてDfMAによる効率改善、標準化、環境責任の促進を実現させているかについて話を伺いました。

建設業は、現代的な作業手法を取り入れるのに時間がかかっている業界です。しかし、中には製造・組立のための設計(DfMA)の採用を通じて、生産性を向上させているイノベーターもいます。このコンセプトは、製造と組立を念頭においた設計や、建設プロジェクトへの製造条件の適用など、複数の形態を取っています。コンサルティング会社マッキンゼーの最新レポートでは、建設業において「破壊の機が熟した」と捉えています。建設業は、DfMA手法を用いて破壊的な革新を遂げようとしています。

業界でDfMA改革を主導している企業の一つがLaing O’Rourke社です。英国のダートフォードに本拠を置く同社は、世界的に極めて重要な建造物の設計、エンジニアリング、建設を行っており、DfMAが、自社、顧客、業界、さらには社会に対しても、より良い効果をもたらすことを証明しています。

 

Chris Millard氏は、欧州有数の自動車メーカーに20年間勤務した後、建設業に転身し、Laing O’Rourke社でエンジニアリング・エクセレンス部門の責任者兼アセット・マニュファクチャリング部門のテクニカル・ディレクターの役職に就きました。

「複雑な自動車のエンジニアリング、設計、製造の原理が建設業に移行されれば、根本的な変化がもたらされるでしょう」と、同氏は述べます。この改革の中核をなしているのは、基礎からバスルーム・ユニットまで、あらゆる建築要素の設計、エンジニアリング、製造を工場で行うことが増えてきていることです。

誤りのない生産

DfMA方式では、設計者とエンジニアが製品の設計方法から見直し、製造・組立プロセスの最適化を行います。これとは対照的に、従来の建設方式では、現場で作成する建築要素が多く、それをどのように寸分違わず据え付けるかを判断しなければならず、そのプロセスが工事の最終段階まで続きます。

「DfMAはリスクを取り除き、品質を高めてくれます。自社の大規模工場を利用し、現場から離れて製造するということは、構造化されたプロセスに従って作業するということです」と、同氏は説明します。

そこでLaing O’Rourke社では、建築部材を可能な限り工場で製作してから、建設現場に出荷して組み立てを行っています。建物を構成するプレキャストの床、壁部材、柱、梁、部屋の完成モジュールなど、工場で精密に作られた部材が工場から運ばれます。このレベルを達成するために、同社はクラウドテクノロジーを展開してコラボレーションを促進し、壮大な建築表現に加え、実現に必要なエンジニアリングの詳細情報がすべて組み込まれた3Dデジタルモデルを開発しています。

同氏は続けます。「こうしたデータを利用することで、価値創出の機会を見出し、建設手法の改善を図ることが可能です。それには、完璧な建築要素の作成、確実な物流の確保、現場労働力の大幅な削減などが挙げられます」

数字で見る節約効果

 148億ポンド(196億米ドル、131億ユーロ)のコストと1億時間の作業時間を費やしてきたクロスレールは、欧州最大の建設プロジェクトです。2018年12月に完成すると、ロンドンの鉄道ネットワークは大きく変わり、市全体の再開発が後押しされるため、約420億ポンド(540億米ドル、460億ユーロ)の経済効果が見込まれています。

ロンドン中心部にあるクロスレールの2つの駅、リバプール・ストリート駅とトッテナム・コート・ロード駅は、Laing O’Rourke社によって建設されました。トッテナム・コート・ロード駅のプラットフォームは、DfMA方式のプロセスが開発中だったため、メリットを活かすことができず、従来の現場建設方式を用いて造られました。プラットフォームの据付には、57名の作業者と82,800時間を要しました。それに対し、リバプール・ストリート駅では、DfMA方式が用いられ、ほぼ理想的に作業が進められました。7名のチームでわずか2,492時間しかかからず、作業効率を約97%も改善できました。

「建設の各段階で、データ交換の一貫性と透過性が欠如しています。つまり、コラボレーションがネックになっているのです。コラボレーションを行えなければ、イノベーションの実現に苦労する上、業界に影響も及びます」

Richard Kelly氏
buildingSMART Internationalオペレーション・ディレクター

Millard氏は、道路インフラプロジェクトでも同レベルの改善を実現し、わずか5日間で鉄道橋の建設が可能です。40階建てアパートの建設では、工場製作のコンポーネントを利用することで各フロアの工期を従来の9日から6日に短縮し、労働力を60%削減できました。

 DfMAを成功させるには、すべてを組み立て直すことが重要だと、Millard氏は述べています。

「工場と連携して課題を理解し、組織全体に文化的な変革をもたらすことは、非常に重要です。何世紀も続いた直線的なプロセスから、同時進行の協業作業へ移行することは、学習曲線が長くなり時間がかかるでしょう。しかし、生産性と利益の面で投資が回収されていくと、利害関係者から利益団体、政治家から納税者まで、すべての人がメリットを実感します」

 

よりスマートな建設

世界人口の増加に伴い、効率化を進めることは非常に重要です。たとえば、経営コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、今後2030年までの世界経済の成長に対応するだけでも、インフラへの投資に世界で57兆米ドル(48兆ユーロ)が必要になると予想しています。専門的サービス・コンサルティング会社のPwCは、それを達成するためには、85%の産業発展を実現して、世界各地で雇用と富を創出しなければならないと主張しています。しかしながら、技術不足によって、成長と能力の双方において必要なレベルに達することができなくなっています。

設計:Wilmotte & Associates / Image © Thibault Voisin

英政府報告書では、この問題を「時限爆弾」と表現し、高齢化と新規参入者の不足によって、建設現場の作業要員は今後10年で20~25%減少すると予測しています。

BuildingSMART Internationalは、一般的に合意された基準に基づいて、建設各社を一つの技術コミュニティにまとめている非営利団体で、業界最大手の企業や最も革新的な組織から構成されています。同団体のオペレーション・ディレクターであるRichard Kelly氏は、buildingSMART Internationalを将来の需要に対応するための要と捉えています。

「我々のメンバーは、建物やインフラの設計、建設、運用を変革している業界のビジョナリーで構成されています。彼らは、細分化された業界から高価値資産が生み出されるとき、無駄や品質の問題、予算超過、納品の遅れを防ぐためには改革が求められることを承知しています」と、Kelly氏は述べています。

同氏は、業界がDfMAへの移行を進める中で、コミュニケーションの要素が欠けていると見ています。「建設の各段階で、データ交換時の一貫性と透過性が欠如しています。つまり、コラボレーションがネックになっているのです。コラボレーションを行えなければ、イノベーションの実現に苦労する上、業界に影響も及びます」

BuildingSMART Internationalでは何百もの「建設用アプリケーション」を作成し、標準化とベストプラクティスを定義しています。これらのアプリケーションは「openBIM」(ビルディング・インフォメーション・モデル)構造内で機能するため、非表示データや「ダーク」データがサイロ化することなく、すべてのプロジェクトデータを関係者全員で共有できます。これにより、関係者は一つの協業スペースに集結し、正確でタイムリーなデータや共有された知識、ベストプラクティスに基づいて、コスト、パフォーマンス、リスクに関する意思決定を行えます。

 

環境への影響

 持続可能な建設を推進する英国グリーンビルディング協会は、最近、建設業界における環境への甚大な影響に関する報告書を発表しました。その報告書の中で、「建築物は、地球資源の約35%、エネルギー消費と炭素排出の40%近くを占めている」と指摘しています。

こうした資源利用の負の流れを覆そうと懸命に取り組んでいる企業の中に、パリを本拠とする不動産開発業者のWoodeum社があります。同社ではDfMAを展開し、業界で唯一再生可能な建材、「木」を用いた建築を行っています。具体的には、クロス・ラミネイテッド・ティンバー(CLT)パネルとして知られる集成材で、厚さは185ミリ(7.2インチ)、長さは16x3メートル(52x9.8フィート)です。

CLTパネルは比較的軽く、材料と強度の特性が予測でき、断熱性に非常に優れています。同社が手掛ける、1,000枚を超えるCLT住宅ユニットを用いた125,000平方メートルのオフィス・キャンパスと17階建アパートの建設では、DfMA方式の採用により、最大限に環境に配慮しながら、高品質の建物の建設を行っています。

 

高精度加工で完璧にフィット

 「CLTエレメントは工場で製造され、現場で組み立てられます。LEGOでビルを組み立てるようなものです」と、Woodeum社の設計者であるArnaud Heckly氏は説明します。

Woodeum社の木造エンジニアであるGuillaume Wiel氏は次のように補足します。

「こうしたプロセスは精密さに左右されます。当社の製造パートナーが供給してくれるパネルは、我々が必要とするものを極めて高い精度で切り抜いたものです」

3Dデジタル設計を中心にコラボレーションを行うことで複雑さを簡素化し、工場で裁断された木材を用いて、寸分の違いもなくデジタル設計されたものを再現できるのです。建材が現場に到着した時に、それを見たHeckly氏は「完璧にぴったりだ」と驚きの声をあげました。

同社では、まさに製造工場と同じように、コンピュータ搭載のフライス盤とロボットを利用して、コンポーネントを生産しています。予測通り完璧にフィットする部材が、その結果です。

クロス・ラミネイテッド・ティンバーを用いて建設された、マルケット・レ・リール(Maquette Les Lille)のオフィスビルのビジュアルモデル(Visual model ©Woodeum)

Heckly氏はDfMAが従来の建設手法より優れている理由を次のように説明します。「配管工が設計者の2D図面を利用し、『ここをネットワークが通っている』と線を引いて説明することがあります。しかし、実際には、配管は壁や天井を通っており、3Dシミュレーションが展開されないと確認することはできません。3Dシミュレーションが可能になると、上流の設計や製造の段階で、着工前にこれらの問題を克服できるようになります」

また、DfMAは、従来の建設現場で溢れかえっている廃棄物を減らすことにも役立ちます。欧州委員会によると、「建設廃棄物は、欧州内で生じる全廃棄物の約25~30%を占めています」。しかし、Woodeum社の建設現場では、DfMAによってすべてのコンポーネントが合致するように事前に設計されているため、実質的に廃棄物を無くすことができます。

 Wiel氏は続けます。「我々は、メゾネットタイプの部屋の階段やバルコニーの構造を作る際に、開口部の切断時やドアを再利用する時に生じる廃材を活用するようにしています。木材は炭素を貯蔵し、容易にリサイクルできるため、環境に優しいのです」。Woodeum社の建設現場は搬出入の回数が少なく、「ハンマーの代わりにねじ回し」が使用されることから、騒音もありません。

DfMAからの利益

 無駄や手戻りが、建設業界における多くの企業の収益性を低下させています。

 業界向け雑誌『New Civil Engineer』のエディターであるMark Hansford氏は次のように述べています。「利益率の低い事業がうまくいく場合もありますが、モノを生産する度に常にゼロからスタートしていてはうまくいきません。自動車業界はそのような仕組みになっていませんし、他の製造業も同様です。彼らは工業的思考を活用していますが、建設業もその思考に到達していても良い時期でしょう」

 革新的な建設企業は、製造業で実績のあるDfMA手法を自らの業界に適用することによって、以前は不可能だった効率、品質、コスト、安全性を達成しつつあります。

Millard氏が目指す「シームレスにデジタル化され、再構成された、先進的かつ革新的な業界」の実現は、業界全体にとっては長い道のりになるかもしれませんが、一部の企業は単独でその夢を日々現実化しつつあります。

 成長を成し遂げるのに秘訣などありません。成功を収めた自動車メーカーに目を向ければ良いのです」とMillard氏は述べています。

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