Architecture, engineering & construction

設計の効率を改善する

Nick Lerner
22 November 2016

米国を拠点とするA. Zahner Companyは約120年以上にわたり、急速に変化する建築・建設(AEC)業界の最前線で技術 革新を推進してきました。近年、同社はクラウドベースの設計システムを導入し、分断化傾向がみられる業界内の伝達の 改善を図っています。COMPASSはZahner社の社長兼最高経営責任者を務めるL. William Zahner氏に、同社が複雑な市 場環境の中で成功し続けている秘訣について話を伺いました。

Zahner社は同族経営企業です。社 長兼最高経営責任者を務めるL. William Zahner氏は「いわば210人 世帯。社員はみな家族ですから」と語ります。

このAEC企業は、1897年の創業当時から、建 物に使用される金属製の装飾的なコーニス の製造を行ってきました。現在はZahner家 の4代目が指揮をとり、Frank GehryやZaha Hadid Architectsなどが手掛けるトップレベ ルの建築プロジェクトに参加し、世界でも最 先端の建築物の創造、設計、組み立て、設置 にかかわっています。

同社の社員数は設計技師30人と、その他製 造や設置を担当する社員90人。取引高は 5,000万米ドルに達する勢いです。「経験と 熟練の技、さらには先端技術と工芸技術と を融合することで、当社は複雑な仕事をシン プルに変え、スケジュール通りに予算内で建 築物を作り上げます」(Zahner氏)

Zahner社が従事しているのは設計者の名 前を冠した建築プロジェクトであり、その設 計意図は維持されなければなりません。そ れにもかかわらず、Zahner氏曰く「AEC業界 は極度に分断化している」ため、非効率的で 複雑です。このような整備が不十分な環境 で同社が目指しているのは、建築業界最大 の課題である「リスク」を低減することです。

リスクの高いビジネス

「私たちの仕事はきわめてハイリスクです。 というのは、当社がつくるのは業界での前 例がない、一見すると非常に複雑な大型の 建築物だからです。そのうえ、この業界は予 算オーバーや裁判になりやすいことでもよ く知られています」と、Zahner氏。プロジェク トのリスクとコストのどちらも低減するため に、同社はクラウドベースの3D可視化技術 を活用し、設計意図の伝達とそのデザイン の設計・製造方法について綿密に定義して います。「この技術おかげで廃棄物、労働力、 資材、重量、コストを低減しつつ、品質も向 上できます」(Zahner氏)

カンザスシティーに本拠を置くZahner社の 社長兼最高経営責任者 L. William Zahner氏 (Image: © Cameron Gee所蔵)

施主、パートナー、出資者、建築施工者、さら には都市プランナーや建築基準管理機関な どの利益団体を含めた多種多様な関係者と の連携が不可欠であります。企業は本質的 に複雑なものですが、規模が大きくなれば なるほど、その構造はより複雑化します。リス クの匂いは創造力を抑制し、イノベーション を失速させることが少なくないと、Zahner氏 は述べています。

しかし、同社はアイデアやプランをデジタル で視覚的に表現し、クラウド経由で伝えるこ とで、そのビジョンを言語や専門レベルを問 わず、誰もが理解できるように説明することに成功しています。この方向性は、2016年の 英国政府の建設戦略資料の記述と一致して います。この資料には、施主と建材メーカー との関係や関与の改善はイノベーションの 増進とリスクの低減を図る上で重要であり、 その一方でコストを透明化した協業型の業 務が金銭的な成果に見合う価値をもたらす と記載されています。

大いなる期待

「直線をもたない建築物というのは混乱を招 きやすいものです。当社の仕事はそれをシン プルにすることで、人々がもっと自信を持っ て新たなアイデアを模索し、お互いに連携し 合ってイノベーションを起こせるようにするこ とです」と、Zahner氏。相互理解の改善も効率 を高めます。プロセス上の重複を減らすこと で、プロジェクト・コストを約20%削減すること も可能です。同社は最近、このようなやり方で 予算を600万米ドル超過していた連邦裁判所 内の建設プロジェクトの重複を解消し、当初 の予算よりも150万米ドル安く仕上げました。

Inner Arbor Trus(t IAT)社は、メリーランド 州コロンバスに設営するサナギをイメージ した円形劇場(Chrysalis Amphitheatre) の建築に関して、Zahner社と契約を結び ました(設計はニューヨークを本拠とする Marc Fornes & THEVERYMANY社が担当)。 IATの社長兼最高経営責任者であるMichal McCall氏は、曲線だけで構成されている 460平方メートルのこのパフォーマンス・ス テージは「まるで森や空の一部として環境に 溶け込んでいる生物のように感じられるで しょう」と語ります。

「クラウドベースの3Dダッシュボードを使っ て設計やアイデアを伝える場合には、たとえ両者が遠く離れていても、進行状況を可視化 し、複雑なプロジェクトの内容を十分に理解 できるようになります。また、このソフトウェ アは設計への自信だけでなく、使う楽しみも 与えてくれるのです」と、McCall氏。彼は次の ようにも評価しています。「透明性が求めら れる時代において、このソフトウェアは他の 方法では見えないものを見せてくれるため、 私たちにチャレンジ精神とソリューションを もたらします。クラウド・ソリューションを推 進するZahner社の真摯な姿勢は、同社が建 築・建設業界で成功を収め、業界の最前線 で活躍していることを確信させました」

曲線状のファサードを取り入れた最も現代 的で象徴的な設計において、巧緻なエッジ や接合部は美的表現を達成するのに重要で す。「私たちが手掛けるのは、完璧な仕上が りが要求される美しい建造物です。これらを デジタルで可視化すると、中には実際につく るのは不可能だとクライアントが思うような ものもあります。そこで、私たちはクライアン トを工房に招いて実物のサンプルをお見せ し、デジタル上のデザインが彼らの期待以 上のものになることや彼らが想定する可能 性よりもずっと美しく仕上がることを証明し ます」(Zahner氏)

このような建築物の一つが、9,000万ドルの 改修費をかけて2015年12月にリニューアル したロサンゼルスのピーターソン自動車博 物館(Petersen Automotive Museum)です。 ロサンゼルス・タイムズの建築評論家である Christopher Hawthorne氏は、Zahner社が 設計したステンレス鋼と赤いアルミニウム のファサードが特徴的なこの新奇な建築物を 「建築が盛んなことで有名な都市(あるいは 有名でない土地も含めて)においても史上 最も目を引くデザイン」と表現しています。

アート作品

Zahner社のアイデアの多くにインスピレー ションを与えているのは、先見性を持つ建築 家や設計士だけではありません。同社には 彫像家も雇用され、作品の製作に当たって います。「アーティストとエンジニアとのコラ ボレーションは、新たなアイデアを生み出し ます。アーティストは何が可能かを見極め、 エンジニアはアートの中の物理学を理解す るのです」(Zahner氏)

同社は毎年彫像のコンペティションを開催 し、優勝したアーティストの作品を製作しま す。「彫像の製作は困難を極めることもあり ますが、作品から得られる独創的アイデアと 技術面での研究開発という点から見ると、その報いは決して小さくありません。また、これ までに出会ったこともない最高にクリエイ ティブなアーティストと一緒に仕事をするの はとても楽しいものです」(Zahner氏)

よりスマートな未来

120年間にわたって同族経営事業を成功さ せてきた同社が現在取り組んでいるのは、 未来の世代のための投資です。「将来、建築 物はスマート・シティやスマート・ポピュレー ション(ハイテク化された都市や住民)ある いは気候変動のニーズに対応する仕組みを 持つことで、周囲の環境に動的に適合する ようになるでしょう。エネルギーの生成と貯 蔵、あるいは空気の浄化さえも可能にする 新たな表面仕上げ方法が発明され、ロボッ トが物理的な建設作業の大部分を担うよう になります。従来はマスター・ビルダー(建 設請負人の統率役)がテクノロジーを利用し て全体的な整合性を監督していましたが、 将来はその役割を担うマスター・デザイナー (設計士の統率役)が登場し、AEC業界の分 断化と非効率性の問題に立ち向かう日がく るかもしれません」(Zahner氏)

同社が掲げる「よりスマートな未来」という 経営指針に沿って、Zahner社は事業開発の 研究と改革を行っています。クラウド・テクノ ロジーを使ってすべての関係者に情報と権 限を与えることで、同社の知識や経験の獲得 と利用を図っています。

「当社はこの業界の最前線に立つために、新 たにスピンオフ会社を起ち上げ、自らを再構 築しています。このような新会社では、社員 に持ち株制度を提供し、誰もが成功を実現 できるようにしています」と、Zahner氏。この ように、高度な技術やロボット、あるいは新 しい思考を取り入れるだけでなく、芸術性に 優れたものづくり職人の気質を強固にする ことで、この同族経営企業はこれからの120 年も前進し続けていくでしょう。

L. William Zahner shares the design process behind the Chrysalis amphitheater: http://3ds.one/Chrysalis

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