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伝統との決別 : 建設業界にはなぜ産業革命が必要なのか

Nick Lerner
26 October 2013

ごく最近まで、建設業界は、現代の複雑なプロジェクトを管理するうえで、数世紀にも渡って使われてきた古いプロセスや手順に頼り、テクノロジーの欠如に耐えてきました。しかし、今日では、製造業の効率化を実現しているソフトウェアが、建設にも導入されています。コンパス編集部では、建設業界になぜ進化が必要なのか、建設業界のトップコンサルタントである Perry Daneshgari 博士にお話を伺いました。

テクノロジーの進歩が最も加速した50年間に、各業界が次々と作業効率を上げるためにテクノロジーを利用しているなか、建築技術は遅れを取っています。米国立標準技術研究所(NIST)並びにTulacz氏とArmistead氏による調査では、それぞれ労働力の調整および資材の管理、移動、設置に25%から50%の無駄が生じていることが実証されています。多くの場合、才能やスキルが十分に活用されず、回避可能な事故が発生し、生産性が低迷しているのです。

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)社は、この10年間の終わりまでに建設業が世界経済の13% 以上を占めるだろうと予測し、この業界が成長する見込みは高く、変革の機は熟しています。

プロセス管理と製品管理の導入を支持していることで有名な建設業界コンサルタントのPerry Daneshgari博士は、建設業界は経済学者のアダム・スミスからインスピレーションを得る必要があると考えています。

「アダム・スミスによる職務の分離と分業の考え方は、豊富な商品を手頃な価格で生産するために、過去250年以上にわたって製造業で実践されてきました。供給を生み、需要を満たすのに役立つ統計的プロセス管理(SPC)の適用によって生産性が高められているのです」とDaneshgari氏は述べています。

常識を超越する

建設のプロセスモデルは何百年もの間、ほとんど変更されることなく、高度なスキルを持った労働者が作業時間の80%を能力以下の作業に費やしています。「工場で部品を生産することで単純労働による製造が可能になれば、コスト削減や品質改善、現場での修正作業を減らし、総合的な業務管理を実現できます。この体制によって、現場は品質が保証された、部品の組み立て作業です。」(Daneshgari氏)

Daneshgari氏は「SPCを自動車業界に適用したことで、自動車の品質は向上し、価格も低下しました。建設業界では、同様の方法論が欠如していることが無駄や価格急上昇の一因になっています」と述べる一方、その傾向は変わりつつあると考えています。

「新手の企業は、建設業を大きなチャンスととらえています。例えば、空調設備会社(www.broad.com)が業務の拡大をおこない、建物を工場で生産し、たった6日間で大規模建造物を建設する事業を始めました。中国の世界最高層ビル「天空城市(Sky City)」は、1日に5階のペースで建設し、120日で完成を予定しています。また、大規模なグループに加わる業務請負会社も見受けられます。こういった企業は、建設を季節的でローテクの危険な肉体的・重労働産業から、革新的で才能あふれる新しい人材を惹きつける産業へと変えつつあるのです。」

工業化のメリットについて、Daneshgari氏は次のように述べています。「リソースは半分、かつ速度を倍増して建設できることが証明されています。建設業でのテクノロジーの活用は遅々としていますが、実現すればその影響と恩恵は莫大で有意義なものになります。」

ゼロ誤差

各建築部材の小さな誤差が複数の階にわたり重なると、階層を積み上げていく上で問題が発生します。この問題は、電気や電源および暖房や換気などのその他の設備にも影響し、もはや建造物に取り付けることができなくなります。「これには通常、高度なスキルを持った作業員を現場に配置し、削岩機でコンクリートを削って手直しするか、取り付けの段階で設備に変更を加える必要があり、費用がかかるうえに問題になりかねません。自動車業界で60年にわたって標準的慣行となっている、ばらつきを統計的手法を用いて管理する方法なら、この問題を解決できるでしょう」とDaneshgari氏は語ります。
「残念なことに、建設業界の研究開発への投資は、主な業界の中でも最低水準です。しかし、テクノロジーと共に革新を行い、規格品とモジュール化されたプロセスの利用を今後推進することで、生産性の向上は目覚ましいものになります。3D技術は建築設計や建造にかなり浸透していますが、プロセスモデリング技術は存在していないと言っても過言ではありません。」

「効率性を高め、無駄を省き、利幅を増やすには、建設業界の企業と政府が研究開発に投資しなければなりません。投資をすることでコスト削減と品質改善を実現すれば、企業は順調に契約を獲得できます。新手の企業は、ショッピングモールを40%も低いコストで建設しています。誤差のない建物が建設され、修正作業を減らすことで、関係者に大きな利益がもたらされているのです」とDaneshgariは語っています。

巧妙な一手

外部の才能ある人材を新たに立ち上げられた建設会社に惹きつけることで、真に必要とされる価値のある知的強化を図ることが可能です。Daneshgari氏は次のように述べています。「建設業界は、非常に賢明で発想が斬新な少数の人々によって変わりつつあり、これまでにない手法を通じ、業界のあり方に変化がもたらされています。彼らは、古い慣習から解放され、効果的で強固なポータブルテクノロジーを手に、建設業界を21世紀へと導いています。」

プロセスの近代化という課題への取り組みに躊躇する建設業界関係者が、業界全体の進歩を阻害するとDaneshgari氏は考えます。Daneshgari氏は、産業科学と企業実務に多大な貢献をしたW・エドワーズ・デミングを引き合いに出し、個人の能率は「体制全体が向上する」ことによってのみ改善できることをデミングが証明したと語ります。「産業界は概して、ニュートン、アダム・スミス、そして20世紀のデミングのアイデアを活用して、現在の進歩した段階に至ったのです。一般に、建設業界は他の業界のようなテクノロジーを活用する機会がありませんでした。よって迅速な対応を取らない限り、この急成長する業界に到来した巨大なビジネスチャンスを効果的に活かす、新手の企業の活躍に愕然とすることになるでしょう。」

建設業界やその他の業界に 広く知られているコンサルタント Perry Daneshgari 博士は、 ドイツのカールスルーエ大学で 機械工学の博士号と ウェイン州立大学(米国)でMBAを取得しています。 Daneshgari 氏は、 自身の会社 MCA Inc. 社を通じて、 世界中の企業にプロセス開発と 製品開発、無駄の削減、労働生産性改善、プロジェクト管理、事業計画、 会計、顧客ケアに関する アドバイスをしています。 (写真撮影: David Lamarand 氏)

プロフィール

建設業界やその他の業界に 広く知られているコンサルタント Perry Daneshgari 博士は、 ドイツのカールスルーエ大学で 機械工学の博士号と ウェイン州立大学(米国)でMBAを取得しています。 Daneshgari 氏は、 自身の会社 MCA Inc. 社を通じて、 世界中の企業にプロセス開発と 製品開発、無駄の削減、労働生産性改善、プロジェクト管理、事業計画、 会計、顧客ケアに関する アドバイスをしています。 (写真撮影: David Lamarand 氏)

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