COMPASS: 人形劇を職業として選んだ理由 は何ですか?
BASIL TWIST氏(以下、BT: 子供時代に住ん でいたサンフランシスコで、ザ・マペッツや セサミストリートといったテレビ番組を初め て見た時から、私は人形劇の虜になりまし た。私の母はアマチュアとして人形劇を上演 していたのですが、そこで使っていたパペッ ト(指人形)で私が遊べるようになると、そ の思いはさらに強まっていきました。私の祖 父もまた、自身のビッグバンドショーの中で キャブ・キャロウェイなどの有名なジャズ歌 手を模したマリオネット(糸吊り人形)を操っ ていました。祖父は私が生まれる前に亡くな りましたが、今、これらの人形は私が所有し ています。また私も祖父と同じように、作品の ベースにたびたび音楽を用いています。その 一方で、私は人形劇の定義を拡大しました。 劇の流れの中で命を吹き込める物は、それ がマリオネットであれ布切れであれ、どんな 物でもパペットと見なすようにしたのです。
アイデアの発端から完成までの過程におい て、どのようにパペットや作品を作り上げてい くのですか?
BT: たいていの場合、音楽が具体的な形と して見えてくるまで、私は何度も繰り返し、そ の音楽を聞きます。次に、舞台をどのように 使って観客にパフォーマンス全体を体験し てもらうかを模索します。複雑なショーの場 合にはもっと詳細なプランニングが必要で すが、抽象的な作品の場合は、演劇の本質 を表現する素材に注目が集まるようにしま す。パペットをつくるのは最終段階です。出 来上がるのが、上演前日の夜になることも少 なくありません。
より抽象的なパペット作品において観客に訴 えかけるために、音楽や振り付けをどのよう に活用していますか?
BT: 音楽のペースやリズムが変化すると、あ る種の感情が呼び起こされますが、そこに 説明は必要ありません。それと同じように、 人形劇は、命を持たない物体が突然生き生 きと躍動し始めるのを見た観客が、生命の 神秘に驚きを感じるという原理をベースに しています。
パペットの動きは、何からインスピレーション を受けているのですか?
BT: パペットに命を吹き込むのに、動きは大 切な役割を果たします。そのパペットの素材 が日頃誰もが使っているものである場合に は、さらに重要です。例えば、シルクは独特の 優美さをもって揺らめくことから、抽象的パ フォーマンスの素材にうってつけなのです。
多くの人が、人形劇を子供向けのエンターテ インメントとみなしています。あなたの演出 作品を見た人が最も驚くことは何ですか?
BT: 他の演劇スタイルと同様に、観客は、顔 をもった主人公(人や動物など)が旅に出 る、といったストーリーをパペットショーに も期待しています。しかし私の作品では、背 景や小道具が動き出すのです−ときには 観客が、自分が見ているのがパペットだと気 づかないことさえあります。例えば、私の作 品である『Dogugaesh(i 道具返し)』では、日 本の襖(ふすま)を使った錯覚効果をもたら す技術をベースにしています。この舞台で中 心的な役割を演じているのは、物体とイメー ジです。しかし実際には、それらが人形遣い の意志で生きているかのように動くのです。
一番気に入っている形式の人形劇はどれで すか?
BT: マリオネットを操るには熟練を必要と します。ですから、この人形には特別な思い があります。彼らはただ糸に吊るされた無用 の長物に見えることもあるでしょう。でも実 際には、他のどのパペットよりも生き生きと 動くことができるのです。糸が付いていると、 人形の手足をより自然に下におろすことが できます。この動きが、彼らが本当に生きて いるかのように見せるのです。
これまでで最も思い入れの強いパペットと演 出作品は何ですか? その理由もお聞かせ ください。
BT: 一番のお気に入りは、Stick Manと名付 けた木製のマリオネットです。私は20年以上 に渡ってこれ以上にないほどにStick Manと の関係を深め、今では彼がどのように命を 吹き込んで欲しいのかを感じ取れるまでに なりました。 ショーの中では、『Dogugaesh(i 道具返し)』 という日本の古典芸能と抽象人形劇とを融 合した作品が、私の一番の代表作でしょう。 この作品には多様な文化が織り込まれてい ます。というのは、アメリカ人である私がフラ ンス留学中に「道具返し」という舞台技術に 初めて出会い、日本でこの技法を研究した 後に、ニューヨーク、日本、ヨーロッパで作品 を上演したからです。上演を重ねる度に、そ の意味合いは深まっていきます。
人形劇は大衆芸能としてこれまでずっと人気 があったのでしょうか?
BT: 生きとし生けるものすべてに魂がある と信じられていた原始文明から、子供たち がおもちゃの人形を命あるもののように扱 うことまで、人形劇の本質は原始的でありふ れたなものです。人形劇は軽視されているこ とも多々ありますが、例えば、戦火の馬やラ イオン・キングなどのメジャーなミュージカ ル作品の中で、操り人形が重要な役割を担 うと、観客はそのあまりの力強さに驚かされ ます。観客が絶えず驚嘆してくれるのですか ら、人形劇がもともと期待されていないとい うことが、ある意味、好都合なのです。
マッカーサー賞の受賞にはどのような意味が ありますか? また、この賞は将来の計画に どのように役立ちますか?
BT: 人形劇はずっと平坦な道を辿ってきた わけではありません。ですから、科学者にも 与えられるこうした賞に認められたことは、 私自身、そして人形劇の世界の正当性が証 明されたということです。賞金の一部は、私 の仕事をサポートする体制の向上と、新た なインスピレーションの開拓に投資するつ もりです。何よりも、このような名誉ある賞 の受賞によって、素晴らしいアーティストや ミュージシャンとのコラボレーションを今後 も実現し、私の作品と人形劇の魅力を世界 中の新たな観客にこれからも発信し続けて いきたいと思います。◆