ブロックチェーンとサプライチェーン

サプライチェーンのプロセスを簡素化するブロックチェーンの分散型台帳技術

Charles Wallace
21 June 2018

暗号通貨を支えるブロックチェーン技術により、事務処理の重荷に苦しむサプライチェーンの効率化が始まっています。ブロックチェーンがすべての取引を、理論上は偽造や改ざんが不可能な形式でデジタルに追跡することで、サプライチェーンが銀行や企業の会計部門といった既存のあらゆる金融信用システムを必要としなくなる可能性があるのです。

香港に拠点を置き、多数の世界的ブランドのサプライチェーン管理を手掛けるLi & Fung社では、何千社ものサプライヤーと顧客の間のやりとりを追跡するため、膨大な事務処理の負担が生じています。しかし、Li & Fung社は2017年、可視性を大幅に改善し、必要な時間と労力を削減する新たな技術を利用して、サプライチェーン全体を移動する顧客注文の複雑な動きを追跡する実験を行いました。その新技術とは、ブロックチェーンです。

ブロックチェーンとは、それに参加するメンバー、すなわちサプライチェーンの参加者すべてのコンピューターに分散されるデータベースであるため、ユーザー基盤が拡大するほど、その台帳は強固なものになります。ブロックチェーンに参加する企業の間で、鉄鋼石やトウモロコシ、あるいはTシャツが売買されると、システムはその取引を記録します。

製品の取引があると、そのたびに一意の識別番号が生成され、それが暗号化された形式でデータの固まり(ブロック)に記録されます。そして、当該の製品が関係する次の取引、たとえば出荷などが 発生すると、そのデータは別のブロックに入力されます。その固まりは、最初のデータブロックに鎖(チェーン)のように連鎖します。これが、「ブロックチェーン」という名前の由来です。

この分散型のコンピューター台帳技術は、詳細なサプライチェーン情報をセキュアかつ永久に記録します。この技術を利用すれば、たとえば、サッカーチームのシャツの注文に対応するために必要な紫色の生地の在庫が、参加者である中国のサプライヤーに十分にあるかどうかをチェックし、縫製工場への発注日を記録し、そのシャツの出荷を自動的に確認することができます。

熱心なブロックチェーン支持者は、この技術によって個人と企業のモノやカネの動かし方は全く違ったものになると主張します。ブロックチェーンには、金融サービス、貿易金融、購買システム、製造、公共料金請求、登記など、さまざまな関係者の信用を担保することが不可欠な多くの業界に破壊的な変革をもたらす可能性があります。サプライチェーンもまた、そのような業界の一つです。

世界的な市場調査会社であるInternational Data Corporation社の予測では、ブロックチェーン・ソフトウェアへの支出額は2018年には21億米ドル(17億9,000万ユーロ)に達し、年平均81%のペースで成長を続け、2021年には90億米ドル(77億9,000万ユーロ)まで増加する見込みです。

「ブロックチェーンを利用すれば、サプライヤーや顧客とともに企業の垣根を超えてワークフローを自動化することができます」

SHAWN MUMA氏
デジタル・サプライチェーン研究所ブロックチェーン研究リーダー

「ある企業のコンピューター上だけで使われる顧客関係管理(CRM)ソフトウェアとは違って、ブロックチェーンを利用すれば、サプライヤーや顧客とともに企業の垣根を超えてワークフローを自動化することができます」と話すのは、デジタル・サプライチェーン研究所(Digital Supply Chain Institute)でブロックチェーン研究を指揮するShawn Muma氏です。ニューヨークのセンター・フォー・グローバル・エンタープライズ(Center for Global Enterprise)の一部門である同研究所は、Li & Fung社でのパイロット研究の段取りを組みました。「研究が進めば、サプライチェーンこそがブロックチェーン技術の最大かつ最善の適用先であることが明らかになるでしょう」

何者にも支配されない台帳

ブロックチェーン技術は、ナカモト・サトシによって考案されました。このナカモト・サトシとは、暗号通貨「ビットコイン」を発明した正体不明の天才技術者の仮名です。ビットコイン自体は長らく物議を醸していますが、企業はあることに気付きました。それは、ビットコインの土台となる技術は、物品や現実世界の貨幣が世界中をどのように移動するのかを追跡するのに最適な手段かもしれないということです。

「ブロックチェーンを利用すれば、安全でセキュアかつ不変の方法で、多数のビジネス組織がデータを共有できるのです」

DAVID DALTON氏
デロイト戦略・オペレーション担当パートナー

暗号化されたデータを読むために、ユーザーはハッシュキーと呼ばれる変換装置を使う必要があります。理論上、データは各参加者のコンピューター・システム上で複製されるため、改ざんが不可能です。あるシステム上でデータが変更されると、そのことは他のシステム上でも即座に分かるようになっています。そして、台帳は高度な暗号化技術によって保護されているので、ハッキングは困難です。

専門家によれば、ブロックチェーンは、銀行や仲買業者や会計部門のそもそものことの起こりである信用の問題を解消することで、それらの仕組みすべてを過去のものにする可能性を秘めているといいます。

「今日の世界では、企業の大多数が大量のデータを抱え、そのデータの他組織との間での照合に膨大な時間を費やすことを余儀なくされています」と話すのは、ダブリンにある経営コンサルティングのデロイトで戦略・オペレーション担当パートナーを務めるDavid Dalton氏です。「ブロックチェーンを利用すれば、安全でセキュアかつ不変の方法で、多数のビジネス組織がデータを共有できるのです」

世界中の荷物を追跡

現に、ブロックチェーンはサプライチェーンの問題にあつらえ向きであることから、世界最大の輸送会社であるA.P. Moller - Maersk社は、ブロックチェーンの合弁会社をIBM社と設立しました。その目的は、年間売上高が7兆米ドル(6兆600億ユーロ)にのぼる世界の海運業界において、世界中の港や税関を通るコンテナの動きを追跡することです。また、米国随一の店舗販売小売業者であるウォルマート社は、何千ものサプライヤーから納入される食品を追跡するブロックチェーンを立ち上げました。これにより同社は、食品の出所に関する疑問をわずか数秒で解決できるようになります。

当然ながら、金融サービス企業はブロックチェーンの進展を注視しています。なぜなら、信頼できる取引仲介業者としての自らの役割がブロックチェーンによって破壊される可能性があるとみているからです。たとえば、海外のサプライヤーから請求書を受け取った企業では、購買部門が銀行に対して外貨での送金を依頼しなければなりません。しかし、ブロックチェーンを利用すれば、たとえば品物が税関に届くなどの特定の取引が発生した場合に、支払いが自動的に行われるように設定することもできるのです。

William Mougayar氏によれば、破壊の脅威にさらされている金融事業者は、一方でブロックチェーン開発への最大の出資者でもあり、ブロックチェーンを主に自社のバックオフィスの事務処理を合理化する手段とみなしています。Mougayar氏はトロントを拠点に活動する起業家で、先頃『ビジネスブロック チェーン:ビットコイン、FinTechを生みだす技術革命(原題:The Business Blockchain: Promise, Practice, and Application of the Next Internet Technology)』を上梓しました。

「ブロックチェーンのキラーアプリが金融資産を動かしつつあります」と、Mougayar氏は述べています。

会計士は絶滅種となるか

ブロックチェーンは現在、ビットコインやイーサリアム、そして多くの企業が非公開用途での採用を進めているオープンソースのハイパーレジャーなど、さまざまな形を取っています。ビットコインはパブリック(公開型)ブロックチェーンですが、ほとんどの企業はおそらく、データアクセスを厳重に管理するプライベート(非公開型)ブロックチェーンの利用を望むだろうというのが、米国ローリーのノースカロライナ州立大学でサプライチェーン管理学の教授を務めるRob Handfield氏の見解です。

Handfield氏いわく、ブロックチェーンは、製品・サービスに対する発注書、請求書および支払いに基づく今日の非効率的な調達・支払システムに取って代わる可能性があります。

「ブロックチェーンは本質的に、信用できる人々をネットワーク内に生み出します。あらゆる取引が可視化され、変更が生じた際は必ず誰もがそれを確認できるのです」

ROB HANDFIELD氏
ノースカロライナ州立大学サプライチェーン管理学教授

支払いをさらに容易なものにするブロックチェーンは、いわゆるスマート・コントラクトを可能にします。たとえば、ある荷送人が予備部品を中国から米国の工場へ送るとしましょう。スマート・コントラクトでは請求書を発行しなくとも、部品の受領がブロックチェーンに記録されると、サプライヤーへの支払いが自動的に行われるのです。

「ウォルマート社とBest Buy社の店舗が同じサプライヤー群から仕入れを行っている場合、両社のすべての店舗は、ソニーやアップルなどのメーカーが参加する共通のブロックチェーンを使うことができます」と、Handfield氏は言います。Handfield氏によれば、各参加者は誰がどの情報にアクセスできるのかを指定できます。

ブロックチェーンの新たな潜在的用途は毎日のように生まれ、その中には不正投票の防止や航空会社のマイレージポイントの受取りといった多様な活動が含まれます。十年前のワールド・ワイド・ウェブと同様に、ブロックチェーンの場合も、ダーウィンの自然淘汰のプロセスによって勝者と敗者が生まれ、いまだかつて誰も想像したことのない用途が誕生すると考えられます。

それまでの間、ブロックチェーンは、無数の複雑な取引を追跡することによって、企業の事務処理の削減、支払いの実行、調達部門やサプライチェーン管理部門などの社内部署の合理化を可能にするでしょう。そしてとりわけ、中国発の重要な荷物が予定通りドックを出たことも証明してくれるようになれば、かなりのものです。

For more information on blockchain, go to: http://go.3ds.com/bEnX

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