COMPASSマガジン編集部:この本の読者に何を学び取ってもらいたいですか。
Michel Zarka氏(以下、MZ):第一に、成功する会社は、目標や数字だけでなく(存在意義、事業目的)によって動かされているということを理解してほしいと思います。数値目標ではなくパーパスのために戦うのです。私たちは今、環境への影響を低減することを目指す企業に携わっています。この最終ゴールを目指す上で、その企業がもし、このプロジェクトは必ずこの期日までにこの段階に到達しなければならないと言い出したら、大失敗するでしょう。その代わりに、全体としてのパーパスを満たすような結果が出るように、専門家と非専門家の両方が寄与していく流れを管理しなければなりません。
組みひも型の働き方とはどのようなものですか。
MZ:どの組織にも多かれ少なかれ、サイロ化(分断化)した階層構造があります。これが原因で、問題の解決や対処が非常に困難になり、時間もかかるのです。プロセスの開始時点で適切な人物が関与するとは限らないからです。
この問題に解決策を与えるのが組みひもです。組みひも型組織とは、データや情報が全社で共有され、勤続年数や専門性に関わらず適切な人材が確実にソリューションの構築に貢献できるような組織です。私たちが組織の構造面についてアドバイスすることはなく、その代わりに特定の目的に沿って人々を再編成します。目的はどこに由来するものでも構わないのですが、明確で、コミュニティに全般的に受け入れられる必要があります。
動きの速いデジタル世界において、既存の大手企業は機敏なスタートアップ企業と競う必要があります。組みひもというコンセプトは、大企業がこの課題に対処する方法を示しますか。
MZ:スタートアップ企業の創業者たちは共通の目的のもとに結束しています。これは自然な組みひもです。しかし組織が複雑になってくると、初期のような目的による結束を維持することが困難になります。そのため、組みひもは複雑な組織が敏捷性を高めるための手段になります。つまり複雑な組織が目的によって動くようになり、これらの目的が「組みひも」的なダイナミズムを通じて達成されるという考え方です。
組みひもを応用した組織の例を挙げてくださいますか。
MZ:私たちが携わった例が、ある原子力産業の組織です。規制面の制約があるため、この組織のシステムは、問題が発生すると対応完了までかかる設計になっていました。まず原子力安全管理当局への報告、次にクライアントの品質管理システムへの連絡、その次にエンジニアリング部門への連絡といった諸々の作業が必要になるためです。そこで私たちは、問題対応時間の短縮という目的を掲げて、皆が貢献できるもっと大きなエコシステム、つまり「組みひも」に、すべての関係者を取り込むことを試みました。
これを通して、生産プロセスに対する考え方や、品質プロセスに対する考え方を変えるように皆を後押ししたのです。また規制当局にも、手続きに対する考え方を変えるように求めました。そして最も重要なこととして、各要素を安全に実行するために不可欠なドキュメンテーションに対する考え方を変えるように、皆に求めました。最終的に私たちは、発生した問題の30%について、対応時間を14ヵ月から1ヵ月に短縮しました。
組みひも型の働き方を創出した後、どのようにそのプロセスを反復するのですか。
MZ:この働き方を当たり前にしたいなら、ビジネスエクスペリエンスプラットフォームが必要です。クラウド版エクスペリエンスプラットフォームは、ディープアナリシス、データ分析、ナレッジ分析をすべてプラットフォーム上で実行する機能を備えており、そのようなコラボレーションを世界のどこからでも瞬時に実現することができます。そして文化面、管理面の新たなアプローチを発展させる余地を生み出します。
組みひも型にすると、組織におけるリーダーシップの役割はどう変わりますか。
MZ:組みひもはリーダーシップの役割を根本的に変えるということを強調したいと思います。私はこの本の中で「授粉リーダーシップ」というコンセプトを展開しました。このコンセプトに従えば、人々組織内の地位に関係なく、話を聞き、バランスを取り、他者にアイデアを授けることができるようになります。こうした能力は必ずしも特別な専門技能の上に成り立つわけではありません。このような人々、つまり異なる領域のナレッジを一つに編み込む能力を持つ人が増えれば増えるほど、組みひも型組織の機能は高まります。
例えばアーバンモビリティのプロジェクトを遂行する場合、ある人はインフラを設計し、ある人は規制対策をするなど、様々な役割の人が関わるでしょう。もし、ある問題をあるグループが単独で解決するという考えでは、うまくいきません。皆が自分自身を組みひもに編み込む必要があります。しかも、編み込まれた人の中に、そのバリューチェーンの中で権力を持とうとする者がいてはなりません。このアプローチは、組織のオペレーションで今まで使われてきたものを、異なるマインドセットで捉えることを求めるのです。