コンパス誌:プロフェッショナルとしてのご経験は、教室での指導にどのように作用してきましたか。未来の建築家たちに影響を及ぼす力には、主にどのようなものがありますか。
Kerenza Harris氏(以下、KH):プロフェッショナルとしての経験は、大学での経験と常に密接にリンクしてきました――互いに情報を与え合うような関係です。
私はFrank Gehryの設計事務所でキャリアを開始し、そこでプロジェクトデザイナーとしてパラメトリックな設計ソフトウェアの開発に携わりました。最近の10年はMorphosisで働き、設計テクノロジー担当ディレクターを務めています。どちらの会社も、建築や建築手法そのものを絶えず再検証することを通して、テクノロジーやイノベーションの限界を押し広げていることで知られます。個人的には、このことが大学での仕事に完璧に役立っています。なぜなら、これと同じ衝動やエネルギーはいつの時代も、建築を再定義したいと考える次世代の建築家が、新規テクノロジーや建築の新たな思考法・手法を模索する原動力になってきたからです。
「多くの学生がパラメトリックテクノロジー非搭載のソフトウェアでモデリングを実行しており、そのため新しいものを描くときは毎回、削除してゼロから始めていました。プラットフォームモデルにはライフサイクルがあると理解することは、彼らにとって大きな『アハ体験』です」
Kerenza Harris氏
SCI-ARC教員
最近はイマーシブテクノロジーが大いに注目されています。たとえば拡張現実や仮想現実です。これらは設計と直接的に関わり合って、従来の設計ソフトウェアでは明確にならなかった新たな側面を浮かび上がらせることができます。
2つ目の革新的な力は、より高度なソフトウェアプラットフォームの進化です。これらにより、設計者は性能基準を設計プロセスの最後の土壇場で追加するのではなく、早い段階で組み入れることができます。たとえばエネルギー性能を早い段階から考慮するということは、建物が完成してから太陽光パネルを付け足すのではなく、設計段階で入念に検討して組み込めるということです。そして、こうした設計のインテリジェンスは施工時以外にも活用できます。私のゼミの学生は、建物は建てて終わりではないということを学びます。充実したモデルやデータは、引き続きスマートビルディングのライフサイクルやオペレーションの情報源として役立てられるのです。
最初の授業からこれまでに、あなたの指導内容はどのように変化してきましたか。
KH:教え始めた頃は、自分のナレッジを学生に伝えることに重きを置いていました。しかし私も徐々に柔軟になり、クリエイティブな――そしてときには素人ならではの――アプローチが、私の想像を超えるものを生み出すことがあると理解するようになりました。そこで教え方を変えました。そうしたアイデアがどんどん自由に出てくるように、学生に完璧なインキュベーターを提供しています。私たちは皆で一緒に成長することができます。共生的な指導方法のほうが、より効果的なのです。
「完璧なインキュベーター」とはどういう意味でしょうか。
KH:SCI-Arcは常に建築を再定義することを目指しており、他の業界や新しいテクノロジーに目を向けて、問題の捉え方を変える方法を探しています。私たちはプロフェッショナル向けのソフトウェアプラットフォームを使って、学生たちに標準的なパラメトリックツール一式や業界で実際に使うアプリケーションの使い方を指導し、最初のベースラインとなるナレッジを与えます。
こうした基礎を習得させたら、もう少し前に進んで、こう言います。「オーケー、皆さんは非常に動的な環境の中で成長しています。皆さんは、ものごとを生み出す方法に関してある程度の柔軟性を持っています。そして今、作ったジオメトリや形態にインテリジェンスがあることを学びました。これらは互いに関係しあい、要素間の特定の関係性を理解することができます。では、こうしたパラメトリックな関係性を押し進めて建築物の構成要素に変えるために、プラットフォームをどのように活用できるか考えてみましょう」。私はいつでもオープンに創造力を受け入れ、彼らがそれを通して自分の道を見つけられるようにしています。
広い視野で言うと、彼らが建築物を作るためのこうした強力なテクノロジーの使い方を理解して卒業できるところまで導こうと努力しています。しかしもっと興味深いのは、彼らがそれを使って他に何をするか、その環境の中で彼らがどのように創造性を発揮していくかということだと思います。
「私がこれまでに教えてきた他のすべてのソフトウェアと、クラウドベースのプラットフォームとの主な違いは(中略)ソフトウェアが単にそこに存在するのではなく、生きているように感じられることです」
Kerenza Harris氏
SCI-ARC教員
学生のための実践的な体験をどのように生み出してきましたか。
KH:パラメトリックな設計プラットフォームには数多くのアプリケーションがあり、多様な使い方ができます。プロジェクトのワークフロー全体――構想、設計、最適化、ビジュアリゼーション――をプラットフォーム上で進めることが、学生たちのためになると考えました。
また、私や他の専門家と一対一の議論をすると学生たちの反応が良いことが分かりました。そこで私は、近未来に火星に建設する建物について研究するMars City Designという団体と協力し、1日ワークショップを企画しました。今のところ私たちは火星に行けないので、学生たちはイマーシブテクノロジーを使って火星環境をシミュレーションし、建物を設計し、そのビジョンを設計者と科学者から成るパネルメンバーに伝えます。そしてフィードバックを受け取ります。
要は私のゼミで学習する事柄をすべて盛り込んだものであり、学生たちがアプリケーションを1つ1つ実際に応用し、その後、各方面の専門家から直接フィードバックを得られるこの1日ワークショップを開催できたことは大変有意義でした。パラメトリックな設計プラットフォームを使って教えることは、実際のところそれ自体が、建築の伝統的な学習の型を打ち破る体験なのです。
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