テネシー州ウェイン郡のコリンウッド・ハイスクールで科学を教える中等教員Jennifer Vandiver氏は、教師と生徒が成長していくうえで、パーソナライズドラーニング(学習の個別化)が重要だと考えています。
Vandiver氏は、「多くの地域で、教師は、専門分野、学年レベル、個人の目標が考慮されることなく、同一の職業能力開発を受けています。皮肉なことに、教師の多くが生徒のパーソナライズドラーニングにおけるさまざまな局面で指導に成功してきたにもかかわらず、教師自身の能力開発に対しては同じアプローチに移行する機会を与えられてはいません」と、テクノロジーとリサーチを通した学習機会の向上を使命とする米国の非営利団体Digital Promiseのブログに綴っています。
マイクロクレデンシャル-個人スキルの開発を目的とした短期集中型認定コース-は、そんなVandiver氏にパーソナライズドラーニングへの道を開きました。彼女は能力開発の機会をインターネットで検索し、テネシー州教育省が主催するマイクロクレデンシャル・パイロット・プログラムに参加しました。「私はまず、待ち時間、アイデア出し、デザイン思考と実践という3つのマイクロクレデンシャルを修了し、次の段階でバーチャル・コミュニティのファシリテーターとして参加することにしました。それをきっかけに、マイクロクレデンシャルを始めようとするテネシー州の教育者たちをサポートするようになりました」と、Vandiver氏は書いています。
「2020年までに、かなりの職業に求められるコアスキルセットの3分の1以上は、現在は重要視されていないスキルになるでしょう」
世界経済フォーラム
「未来の仕事」レポート
仕事とその仕事に求められる資格が急速に変化していく時代、教育機関と企業の双方の専門家が、マイクロクレデンシャルは継続的なスキルアップで働き手が雇用適性を長期的に維持できる有力な手段だと考えています。
バッヂの取得
マイクロクレデンシャルは、短期間でのスキルの再習得というニーズに応え、各個人が習得したスキルの証明となるデジタルバッジで資格認定します。
Open Badgesマイクロクレデンシャル標準OBv2を所管する米国の非営利団体、IMSグローバル・ラーニング・コンソーシアムのプロダクト・マネジメント担当バイスプレジデントMark Leuba氏は、「マイクロクレデンシャルは、学習者が望むスキルを個別に習得するのに理想的です」と言います。
「OBv2によって、学習者と教育者は成果とスキルを裏付ける定義を得てコミュニケーションが可能になります。雇用主は募集しているポストと候補者のスキルをマッチさせる手段が得られ、管理者は個人の資格認定の記録、計画、管理がしやすくなります。さらに決定的なのが、この標準OBv2により相互運用が確実になり、学習者が就職や転職活動または教育機関に志望する際に、さまざまなフォーラムにバッジを移すことができます」とLeuba氏は説明します。
大手グローバル企業は、すぐにこの標準OBv2の価値に目を向けました。「Microsoft Worldwide Learningには、資格認定の統合フレームワークにOBv2が適用されています。IBMは、スキルを証明した数十万人にも及ぶ世界中の学習者にマイクロクレデンシャルを発行しました。その多くはIBM関連の製品やサービスです。今では、Open Badgesに編成されたマイクロクレデンシャルに基づいて、適格なスタッフと委託業者をインターネット上でプロジェクトに配置しています。IBM Talent Matchというこの新しいサービスは、何が可能かを示す素晴らしい事例です」とLeuba氏は語っています。
生涯学習の実現
American Public University System (APUS)のSchool of Continuing and Professional Studiesの学部長補佐を務めるCali Morrison氏は、「マイクロクレデンシャルは、生徒に学習の仕方、そして学んだことを実践に活かしながら学び続ける方法を提供します」と述べ、次のように続けます。「テクノロジーにより学習歴とマイクロクレデンシャルを結び付ける機会を得られ、雇用主はその生徒が何を学んでスキルを習得したかを知ることができます。その結果、学習者がマイクロクレデンシャルは就職に有利になると思うようになり、雇用主側でもこうした学位に準ずる資格を徐々に受け入れるようになってきています」
2017年に設立されたAPUSは、大学履修単位となる蓄積型マイクロクレデンシャルを計画しています。この方式では、学習者は学位取得のための勉強に並行して、職業に関連する複数分野の資格を取得することができます。さらに、単位に含まれないコーチングやメンタリングなどのスキルもマイクロクレデンシャルで学ぶことができます。
「もっと多くの生涯学習者が利用できるように教育サービスを拡大し、ウェブキャストからマイクロクレデンシャル認定プログラムに至るあらゆる手段を通じて、継続的にスキルや知識を身に付けてもらえるようにしたいと考えています」とMorrison氏は語ります。
スキルの蓄積
マイクロクレデンシャルは、産業界の変化するニーズに合わせて、働き手がスキルを積み上げていけるようにする重要な役割を担っています。企業や教育機関は、この柔軟かつ集中的な学習法を受け入れ始めています。勢いが増すにつれて、さらに認識が広まるのは確かです。
「職業訓練であれ、学問であれ、実習であれ、あらゆるポスト中等教育に価値があることを、もっと多くの人に認識してもらう必要があります。蓄積できる資格認定は、必ず次の主流になります。従来の履修時間への依存度が軽減され、積み重ねてさらに大きな結果につなげられる小単位での学習が可能になります」とMorrison氏は述べます。
それは、まさにVandiver氏のケースです。彼女はマイクロクレデンシャルにより継続的に経験への強化を図れると実感しています。
「私は常々、教師にとって最適な学びの場は教室だと考えてきました。それはマイクロクレデンシャルの土台となる信念です。そうすることで、私の生徒は私自身のマイクロクレデンシャルに欠かせない要素となります。そして、彼らが私の学びのなかで果たす役割を楽しんでいることに気付いたのです。生徒たちは私を同じ『学習者』として見ることを楽しみながら、私が『教師』として教え方を工夫し、学んだことを明確にする様子を観察していました。
「87% の米国人従業員が、キャリアの成功にはワークライフを通したトレーニングとスキル開発が不可欠、または重要だと考えています」
世界経済フォーラム
「未来の仕事」レポート
マイクロクレデンシャルを通じて、私の今後の成長を生徒たちと共有できると思うと楽しみでなりません。どの種類の能力開発学習でも言えることですが、マイクロクレデンシャルも万人向けではないかもしれません。しかし、私の学習には欠かせないパートナーとなっています」とVandiver氏は語っています。
未来の働き方を強化
問題解決、順応性、協力、リーダーシップ、創造性、イノベーションなど、仕事に必要なスキルを身につけずに学生が学校を卒業していくという事実は、適任者が見つからない仕事が世界中にあふれていることにより裏付けられています。または、必要なスキルを職場で習得したことを証明する術がないという場合もあります。
テクノロジーの発展によってビジネスの仕方が変革されるにつれて、マイクロクレデンシャルやマイクロ・ラーニング・プログラムを含め、新しいスキルや今はまだ存在していないニーズが次々に登場してくるでしょう。