モバイル・アプリやソーシャル・アプリに対する消費者の支持をすばやく察知してきた企業は、自社のビジネスモデルにいち早く取り入れようとすると共にビッグデータも同様にその活用が進められています。こうしたトレンドを促進し、また可能にしているゲームチェンジャーが、クラウド・コンピューティングです。
テクノロジーの調査分析会社であるIDC社およびガートナー社は、モバイル、ソーシャル、そしてビッグデータがクラウド上で融合する現象を、次のように表現しています。ガートナー社は、融合そのものに着目し、それを「Nexus of Forces(力の結節)」と名付け、IDC社は融合を可能にする新しいコンピューティング技術を強調(「第3のプラットフォーム」)すると共に、それが業界特化型の新しいソリューションをサポートすると予測しています。
これらのコンセプトはその名称に関わらず、同じ現実によって突き動かされています。コンピューティング、さらに広く、21世紀におけるビジネスのあり方は今、劇的な変革を経験しています。
スピーディな中堅企業
クラウドの導入機運は会社規模別においてすべて等しいというわけではありません。これまで何十年もテクノロジー導入において大企業に遅れをとっていた中堅企業がクラウド化のレースをリードしています。
第1のプラットフォーム(メインフレーム)や第2のプラットフォーム(クライアント/サーバー)と異なり、クラウド・コンピューティングには高額なIT予算、人材、データセンターが不要であるため、テクノロジー集約型のビジネスを興すためのコストは大幅に低下しました。アイデア、クレジットカード、そしてインターネットへの接続環境さえあれば、サーバー上のスペースに登録し、いくつかのアプリケーションを借りて(または自身で構築して)、事業を始めることができます。
導入障壁が大幅に引き下げられたことで、クラウド、モバイル、ソーシャルおよびビッグデータの融合によるイノベーションと成長が促進され、数多くの新しいビジネスが生まれています。IDC社のチーフアナリストであるFrank Gens氏は2018年までにほとんどの業界において、現在市場を占有する上位20社の3分の1にあたる企業の地位は、第3のプラットフォームを使うことでこれまでにないサービスやビジネスモデルを創造する新興企業や、事業再編を行った企業に奪われるだろうと予測しています。
なぜ今日最も成功している企業が危機に瀕しているのでしょうか。その 答えのヒントは米・カリフォルニア州のクラウドサービス事業者、Rightscale社が実施した「State of the Cloud2013」の調査結果において、大企業と中堅企業の間で、クラウド・テクノロジーの採用比率にはっきりとした違いが出ている点から探ることができるかもしれません。本調査では、中堅企業の41%がすでにクラウド・コンピューティングを積極的に活用している一方、従業員数1,000人以上の大企業では、32%の企業が依然として初期の実験的な段階にあることが判明したのです。
大企業がクラウドを検討し、状況を見守るなかで、アーリー・アダプターは市場の勢力図を塗り替えるかもしれません。クラウドを積極的に採用している企業のうち、約80%がインフラへのよりスピーディなアクセスと拡張性の向上を報告する一方、クラウドの導入が初期段階にある企業のうち、同様の回答を示した企業は30%に及びませんでした。また、クラウドを積極的に採用している企業の約60%が、IT部門のスタッフの効率性が向上し、地域的なカバレッジが拡大したと述べる反面、導入初期の企業でそのように回答した企業は20%未満でした。
「働き方をツールに合わせるのではなく、人々が求めている今日の働き方に合せてツールを変えるのです。」
JOHN HERSTEIN
BOX社、カスタマー・サポート担当シニア・バイス・プレジデント
なぜクラウドなのか
米カリフォルニア州所在のクラウド・ストレージやコラボレーションのサービスを提供するBox社のカスタマー・サービス担当シニア・バイス・プレジデントであるJohn Herstein氏は、企業はこれまで壁に囲まれた部屋の中で働くという第2のプラットフォームの現実に対応するためにテクノロジーを購入してきたと指摘します。モバイルやソーシャル・アプリケーションが当たり前となり、ビッグデータが拡大する今日においてもなお、多くの企業は人々の新しい働き方にレガシー・システムで対応しようとしています。
Herstein氏は次のように助言します。「働き方をツールに合わせるのではなく、人々が求めている今日の働き方に合せてツールを変えるのです。」
しかし、多くのITの専任担当者はクラウドへの移行を躊躇していると述べるのはフランスを拠点とするクラウドのインフラストラクチャ・プロバイダーであるOutscale社北米担当バイス・プレジデントであるStephane Maarek氏です。同氏は、クラウドのメリットによって、そうした異論はやがて打ち消されるだろうと予測しています
Maarek氏は次のように述べています。「クラウドのインフラストラクチャは、新しい製品やソリューションをより速く、より低コストで実現するためにあります。リソースの弾力性とインフラのオートメーション・ツールはクラウドを展開するからこそ得られるものであり、今ではより専門性が高く、活動的な部門でコスト削減や、製品を市場に提供するまでの期間を短縮するために活用されています。」
Maarek氏は、クラウドのデモを行う際に、第2のプラットフォームにクラスタを追加する場合はその規模が小さくても数週間を要することを 指 摘しま す。し かしOutscale社 で は、1,000台のWindowsサーバーを5秒未満で有効にすることが可能です。Maarek氏はこうした事例によって、懐疑論者が支持者に変わりうると説明します。
クラウド化を阻む壁
しかし、大企業の多くは今もなお、クラウド・コンピューティングの最大の懸念はセキュリティにあるとし、その対応に苦慮しています。それに対し「State of the Cloud」の調査結果からは、セキュリティに関する懸念は、クラウドを利用する経験が増えるにつれて低下することが判明しました。セキュリティが重大な課題であると回答する企業は、クラウドの利用が初期段階にある企業で38%であったのに対し、クラウドを積極的に活用する企業では18%にまで減少したのです。
ガバナンス、コンプライアンス、社内システムとの統合をめぐる課題についても、クラウドの利用が初期段階にある企業よりも、クラウドを積極的に活用する企業のほうが50%ほど低い結果となりました。
導入コストが高額だったころは、企業のIT部門は変化のスピードが緩やかであることが許されていましたが今日のように、瞬時のアクセスが当たり前となった世界では、多くの経営者が自社のIT部門にスピーディに変化することを要求しています。
金融市場に関する情報を提供するダウ・ジョー ン ズ&カ ン パ ニ ー 社 のCTOで あ るStephen Orban氏は、社内ユーザーからのプレッシャーを認め、最近の会議で次のように発言しています。「どの組織においてもその組織内の人間は皆、あれこれ意見を述べるものです。社員は皆、テクノロジーを十分に理解しているからこそ、私たちが構築するシステムに影響力を持つべきなのです。」
こうした 変 化 がOrban氏 の 部 門をよりイノベ ー ティブ か つ インクル ーシブ にしたとOrban氏は述べます。そしてその結果、より柔軟かつ効率的な開発プロセスへの転換が進むと共に、同社のプライベート・データセンターの多数のオペレーションがクラウドに移行しています。
Orban氏をはじめとする企業の経営者がそのメリットを理解しはじめているように、クラウ ド・コンピューティングの利点は大きく、無視することはできません。データセンターを明日にでも閉鎖すべき、とは言いませんが、専門家は移行を開始することを推奨しています。
大多数の業界においてその上位20社のうち6社が、今後危機的な状況に直面するとIDC社が予測するように、対応に遅れをとる組織は、どれほど素晴らしい理由があろうと、動きの速い中堅企業によってその立場は脅かされるでしょう。◆
「リソースの弾力性とインフラのオートメーション・ツールはクラウドを展開するからこそ得られるものなのです。」
STEPHANE MAAREK
OUTSCALE社、北米担当バイス・プレジデント
Ron Miller氏はテクノロジーを専門とするフリーランスのジャーナリスト兼ブロガー(byronmiller. typepad.com)であり、また複数のテクノロジー関連の出版物の編集者です。socmedianews.comの共同創設者であり2008年以来、クラウドに関する記事を執筆しています。.
詳細についてはこちらをご覧ください: http://bit.ly/1km6mU7