中国の挑戦

ローエンド製造が去り、何がそれに代わるのか?

William J. Holstein
25 April 2013

中国はテクノロジーの梯子を上ろうと試みていますが、世界で競争できるメーカーは全体のほんの一握りしか育っていません。労働集約的な業務が国外へ去り、国内の人件費が急騰していることを受けて、中国の経営者たちは工場のオートメーション化と、重要な経営ノウハウを有する外国企業の買収を進めています。 

BYD(比亜迪)社が2008年に量産型プラグイン・ハイブリッドカーを引っさげて世界の舞台に躍り出たとき、会長のWang Chuanfu(王伝福)氏は自社の自動車の米国販売代理店が見つかったと強調しました。世界有数の敏腕投資家として有名なウォーレン・バフェット氏は、同社の株式の10%近くを2億3,000万ドルで取得しました。

しかしBYD社がリチウムイオン電池を試行錯誤しながら組み立てていることと、高品質な電池を大量生産するために必要な設備を有していないことが投資家たちに知られると、バブルは弾けました。ドイツのダイムラー社がしかるべき装置を手に駆け付けたものの、BYD社の従業員はいまだそのテクノロジーを会得するまでには至っていません。BYD社は現在、わずかな数の電気自動車を地元の深セン訳注1のみで販売しています。

BYD社の例は、中国の国有および民間企業のほとんどが直面している課題の典型です。賃金の上昇により、ローエンドの労働集約的な製造活動は中国から撤退しつつありますが、中国は高度な製造プロセスを習得した様子をまだ見せていません。

「低コストという競争優位性に依存し続けられないことは認識しています」と、中国商務部の報道官であるShen Danyang(瀋丹陽)氏は1月に述べています。「中国製品の付加価値的な改良を促進する必要があります」。他方、中国工業情報化部は、ブランド力の強いエレクトロニクス企業を国内で5社ないし8社生み出し、2015年までに160億ドル以上の売上を達成するという目標を設定しました。

中国がローエンド工場としての地位から抜け出せない場合、中国の労働者は過酷な状況に陥ります。数百万人が失業し、より高収入でより高いスキルが求められる職に就く道を閉ざされてしまうのです。「一部の企業は適応すると思われますが、中国全体が十分なスピードで変化を遂げられるほど機敏であるかは定かではありません」と、北京にオフィスを持つ広報会社、Allison & Partners社のGlobal China Practiceのリーダーであり、中国企業オブザーバーとして定評のあるDavid Wolf氏は述べています。

安価な労働力ではなく資本を利用

中国企業がなぜ日本のトヨタ自動車や韓国のサムスン電子の後を追ってテクノロジーの梯子を上らないのか、その理由はよく知られているようなものです。第一に、中国では知的財産(IP)が十分に保護されず、アイデアが簡単に盗まれる恐れがあるため、イノベーションが妨げられています。また共産党は情報の自由な流れを制限し、大量のリソースを国有企業にシフトさせています。小規模な民間企業は、イノベーションの面で優れていたとしても、資本にアクセスできない状態にあります。レノボ、ファーウェイ、ZTE、ハイアール、Geely Automotive(吉利汽車)社など、世界進出を果たした企業も多少は存在しますが、ほとんどの中国企業は広大な国内市場だけで手一杯なのです。

そこで最近、論議の的となっている2つのトピックが、オートメーション化と海外買収です。

「低コストという競争優位性に依存し続けられないことは認識しています」 

瀋丹陽氏
中国商務部報道官

オートメーション化:中国の工場は、生産性の改善を目的としてロボットとソフトウェアの大規模導入を進めています。Great Wall Motors
(長城汽車)社のゼネラル・マネージャーであるHao Jianjun(ハオ建軍)訳注2氏は最近『Business Week』に対し、同社が1億6,100万ドルをかけて4つの自動車工場に計1,200台のロボットを導入し、機械化を進めていると語りました。「このコストは3年以内に、人件費を削減した分で完全に相殺されるでしょう」と、Hao氏は述べています。中国全体のロボット購入量は、2006年から2011年にかけて4倍に増加しました。同様に中国では、工場の生産調整の改善を可能にするソフトウェアの購入が進んでいます。

急上昇を続ける世界的な製造基準への適合に関しては、中国は今後も後れを取るのではとの懐疑的な意見もあります。「今後数十年間で製造業のあり方を変えるテクノロジーは、高度にインテリジェントで柔軟に変更可能な製造フロアを実現する、ロボティクス、人工知能、3Dプリンティング、そして非常に強力な検知装置です」と話すのは、米国サウスカロライナ州ロックヒルに本社を置く3D Systems社の社長兼CEO、Abe Reichental氏です。「中国の工場は、単一製品の大規模大量生産向けに作られています」

海外企業の買収: およそ3兆米ドルの外貨準備高を武器に、中国企業は天然資源およびエネルギー関連企業やテクノロジー企業の買収を続けてきました。最近の買収先としては、米国のリチウムイオン電池メーカーであるA123 Systems社、DNA配列解析企業のComplete Genomics社が挙げられます。

中国企業による買収の代表例としての地位を今なお保っているのは、レノボが2004年に実施したIBMのPC部門の買収です。レノボは、米国の大手グローバル企業IBMが開発したThinkPadのテクノロジーと、人事、財務およびマーケティング部門とを同時に取得しました。

オハイオ州立大学教授で国際経営を専門とし、『Copycats: How Smart Companies Use Imitation to Gain a Strategic Edge』(邦訳『コピーキャット: 模倣者こそがイノベーションを起こす』東洋経済新報社)の著者でもあるオーデッド・シェンカー氏は、このような買収が、中国が自らの限界を克服するための一助となるだろうと論じています。「日本と韓国の例に基づいて推測することは不可能です」と、Shenkar氏。「中国は、安価な資本という強みを利用しようとしています。イノベーターを買収しようとしているのです。日本や韓国とは大きく異なるモデルです」

知識の獲得によって中国の成長は加速するだろうとシェンカー氏は主張します。「通常、IBMのPC部門買収によって得た能力をレノボが自力で開発しようとすれば、数十年を要していたでしょう」Geely Automotive社もまた、フォード・モーターからボルボを買収し、欧州と米国における存在感を一挙に高め、さらには欧米の経営ノウハウへのアクセスを得ることにより、同様の飛躍を試みようとしているとシェンカー氏は指摘します。

前途は不透明

この買収戦略が功を奏するとの意見で全員が一致しているわけではありません。「買収は簡単ですが、統合は怪物です」と、Wolf氏は言います。レノボはIBMのPC部門買収後に社内のマネジメントの混乱に悩まされ、国際的な市場シェアの大部分を失い、最近になってようやく復活したとWolf氏は指摘します。「他の企業がレノボよりも楽に統合を進められるという確信は、私にはありません」。とはいえ、中国人は欧米の懐疑論者たちをたびたび驚かせてきました。シェンカー氏いわく、「現在の中国に真の世界的メーカーは存在しません。しかし、そのようなメーカーを作る能力は中国にあるのでしょうか?答えは『イエス』
です」

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