考えるコンピュータ

ディープ ラーニング(深層学習)により、 人工知能がSFを現実のものへと変えつつあります。

Rebecca Gibson
28 April 2015

ディープ ラーニングは、人工知能の最新鋭分野の 一 つとしての注目を急速に得ています。最近の目覚ましい進歩により、 専門家はこの技術により多くの業界を急速に変革するであろうと確信しています。

2014 年、香港に拠点を置くベンチャー 投資企業 Deep Knowledge Ventures 社は、投資判断ができる機械学習プ ログラム VITAL を取締役に任命したことを 明らかにしました。

VITAL はライフ サイエンス企業のデータ ベースから財政動向を分析して成果の上 がる投資を予測するために構築され、すで に 二 つの投資判断の事例に使われていま す。同社の取締役会最新メンバーは単なる アルゴリズムですが、多くの人々が我々の 生活における人工知能(AI)の役割に疑問 を呈するきっかけとなっています。

モントリオール大学コンピュータ科学お よびオペレーションズ リサーチ学部の教 授 Yoshua Bengio 博士は、ディープ ラー ニングとして知られる有力な AI の先駆者 の一人です。ディープ ラーニングの背景に ある原理は 1980 年代に最初に開発されま したが、コンピュータ アルゴリズムと処理 能力の最近の改善により、Bengio 博士等 他の科学者が脳の振る舞いを模倣する能 力を持つ機械を構築するようになりまし た。人、言葉、物、その他の多くを認識でき る機械です。

「今日の強力なコンピュータにより、多様 なデータセットを使ってネットワークを 訓練でき、それが性能向上に役立ちます」 と、Bengio博士は言います。「最も目覚まし い進歩は、音声認識および画像ベースの物 体認識システムが上げられます。ディープ ラーニングが広く利用される以前の 2012 年には、標準的なベンチマークの誤差率は 約 26% でしたが、ディープ ラーニング採用 後は約 6% に減っており、これは大きな変 革と言えます」。(Bengio博士)

よりスマートな コンピューティング

Apple 社は、ディープ ラーニングと音声認 識アプリケーションを使って同社のパー ソナル アシスタント アプリ Siri を実現し ています。Facebook 社は、この技術を活用 して写真のタグ付けを自動化し、ニュース フィードをカスタマイズしています。映画 ストリーミング プロバイダーの Netflix 社 は、個人向けにカスタマイズした推奨映画 をユーザーに提供するのにディープ ラー ニングを採用しています。Google 社は、 ストリートビュー、Google Now、Google+ フォトなどのサービスにディープ ラーニン グを適用しています。

このような進展は目覚ましいですが、氷山の 一角にすぎません。この AI 分野の可能性を 理解しているため、世界の大手テクノロジー 企業の中にはディープ ラーニングの専門家 を採用し、さらなる進歩を目指して日々研究 開発を行っているところもあります。

「ディープ ラーニングは、大量のデータの取 り込みと予測において旧世代のアルゴリズ ムよりも効果的です」と、中国の北京に本 社を置くウェブ企業百度(Baidu)社のシリ コン バレー AI 研究所所長 Adam Coates 氏 は語ります。「グラフィックス プロセッシ ング ユニットのおかげで大量の計算を実 行でき、10 年前には想像もつかなかった方 法で非常に大量のデータから学習できる ニューラル ネットワークを作成できます」 (Coates 氏)。

百度社は、ディープ ラーニング機能を利用 して同社のコンテンツ ベースの画像検索 エンジンShiTuを改善しています。2010 年 にベータ版をリリースしたこのシステム は、当初はオンライン顔認識システムとし て設計されました。2013 年、ShiTuは類似し た画像をグループ化し、その画像に関する 情報を提供するように拡張されました。例 えば、識図は類似した花の画像やその種を 識別し、それに対応するオンライン百科事 典情報にリンクできます。

ShiTuは、Microsoft 社の最新のディープ ラー ニング ベンチャー プロジェクト、Project Adamと呼ばれる物体認識システムに似 ています。本プロジェクトはMicrosoft 社 が 2014 年 7 月に発表し、他の AI システム より 2 倍正確で 50 倍高速であると喧伝し ています。例えば、Microsoft 社は Project Adam が 22,000 のカテゴリの 1,400 万枚 以上の画像を含む ImageNet データベース を活用し、独学で特定の犬種を認識するの に成功したと発表しました。

「ディープ ラーニング 技術を使って、会話 音声認識ベンチマーク テストでの誤差率 を 3 分の 1 減らしました」と、Microsoft 社 の会話および対話研究グループ主席研究員 Dong Yu 氏は述べています。「今後数年に わたって、会話処理、画像分類、自然言語処 理、手書き文字認識のさらなる改善に取り 組んでいきます」。(Dong Yu 氏) Microsoft 社は Project Adam の機能をどの ように生かしてビジネス中心のアプリケー ションを提供するつもりかは明らかにして いませんが、同社は拡張現実などの技術を 使って人々の世界との関わり方に革命が起 こる可能性があると予測しています。

広がる用途

ディープ ラーニングにまつわる新たな開 発は、自動車からセキュリティや防衛にま で及んでいます。

例えば、東京に拠点を置く Preferred Networks (PFN)社はトヨタ自動車社と提携し、ディー プ ラーニング技術を使って自動運転車用 の自動操縦システムを開発する方法を検討 しています。また、PFN 社は人の振る舞い をリアル タイムに検出、追跡、予測し、性 別、年齢、衣服、動作などの観点で分類する ビデオ分析ソリューションのプロトタイプ も作成しています。

「ディープ ラーニングは、 大量のデータの取り込みと 予測において 旧世代のアルゴリズムよりも 効果的です」

Adam Coates 氏、
百度(Baidu)社シリコン バレー AI 研究所所長

「このソリューションにより、小売店が顧 客の購入パターンを観察したり、GPS と車 載センサーを組み合わせて道路交通管理を 最適化したりすることができます」と、PFN 社の設立者で副社長の岡野原大輔氏は語り ます。このソリューションは今年発売され る見込みです。

一方、オーストラリア最大の通信および技術 研究機関、国立 ICT オーストラリア(NICTA) は、対象となる物体を一定期間追跡できる ディープ ラーニング ベースのリアルタイム 視覚追跡システムを開発しています。

「この技術は、人間とコンピュータの相互作 用、画像検索、高度道路交通システム、さら には網膜の機能を模倣して重度に視力が低 下した人の視力を回復させる人工の目の作 成にも使えると考えています」と、NICTA の 上級研究員兼キャンベラにあるオーストラ リア国立大学の非常勤主任研究員の Yi Li 氏は述べています。

一方、米国カリフォルニア州サンフランシ スコに拠点を置く新興企業 Pacific Enlitic 社には、ディープ ラーニングによる健康管 理関連の計画があります。これはディープ ラーニング技術を活用し、医者が一般疾患 や複合疾患をより迅速かつ正確に診断でき るようにする画像とデータをベースにした 統合システムの開発を目的としています。

「当社のソフトウェアでさまざまな兆候を 医者に提供し、その兆候を組み合わせたと きに患者がある疾患を患っている可能性を 示すようにしたいのです」と、Enlitic 社の上 級データ サイエンティスト Ahna Girshick 氏は語ります。「例えば、スキャンで患者の 肺の増大が示されたら、このソフトウェア はスキャンで類似の異常をもつ患者の例 に加え、その症状の詳細、検査結果、性別、 成功した治療計画を特定します。これは、 医者が患者の命に大きな影響を及ぼす、情 報に基づいた迅速で正確な判断を下すの に役立ちます」(Girshick 氏)

未来に目を向ける

これらの多くのディープ ラーニング アプ リケーションはまだ研究開発段階ですが、 人間が機械と人間社会の両方に関わる方 法を大幅に変革する可能性があります。

「今日のセンサーは状況を簡単に測定で き、コンピュータは独学で物体を視認でき ますが、認識の問題を解決するには、まだ 程遠い状態です」と、Bengio 博士は言いま す。「もっと多くを期待でき、機械が人間の ように見たものを本当に認知、理解できる 段階までにディープ ラーニングが到達す るのはまだまだ先の話です。その段階まで 到達したら、商用アプリケーションの可能 性は無限に広がります」。(Bengio 博士)

依然として残る慎重論

世界の著名な科学者の多くは、インテリジェントなコンピュータが管理する世界 に関して注意する際には、サイエンス フィクションは当たらずといえども遠から ずとなる可能性があると警告しています。

理論物理学者の Stephen Hawking 氏は、2014 年に BBC で次のように話してい ます。「完全な AI の開発は人類の終わりを告げる可能性があります。AI が自力 で活動し、加速度的に自らを設計しなおします。遅々とした生物学的進化に制限 された人間は太刀打ちできず、AI に取って代わられるでしょう」

2015 年 1 月、Hawking 氏は世界中の大学や組織の複数の他の科学者、教授、 研究者(Facebook 社の Yann LeCun 氏、Google 社の Geoffrey Hinton 氏や Peter Norvig 氏を含む)と結集し、AI 分野の新たな研究優先順位を求める公開 書簡に署名しました。

公開書簡「堅牢で有益な人工知能のための研究優先順位」では、AI システムの 潜在的メリットは「莫大」であることを指摘しつつ、潜在的な落とし穴を避けなが ら「メリットを享受する方法を研究し」、AI 技術が人類のためになるように機能す ることを保証することが重要であると警告しています。付属の研究優先順位文書 では、AI の社会的、経済的、健康上のメリットを最大化するのに役立ちながら、 依然として「堅牢かつ有益で、人間の利益に合致する」ことを保証するさまざま な研究プロジェクトの例を提示しています。また、この文書には、「かなり多くの 知性と自立性を具現化するシステムの開発は重要な法的および倫理的問題を引 き起こす」という警告も含まれています。

Tesla Motors 社および米国宇宙輸送会社 SpaceX 社の設立者で CEO の Elon Musk 氏もこの書簡に署名しており、非営利団体 Future of Life Institute(FLI) が 運営する世界的 AI 研究プログラムに 1,000 万ドルを出資しています。「ここにい る一流の AI 研究者の全員が AI の安全性が重要であると言っています」と、Musk 氏は語ります。「私は彼らに賛成なので、人類にとっての AI の有用性を維持する ことを目的とする研究をサポートするために 1,000 万ドルを投じています」 (Musk 氏)

FLI は助成金の大部分を AI 研究者に与え、残りを経済、法律、倫理、政策などの 他の分野に関わる AI 関連の研究に与えます。

See Google Deep Learning
https://www.youtube.com/watch?v=JBtfRiGEAFI

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