2012年2月の凍てつくようなある日、スウェーデン・リンシェーピングの要人たちが新規プロジェクトの起工式に参列し、写真撮影のために氷にショベルを入れました。同国の設計事務所プランタゴン社が設計した、南向き17階建てのガラス張りの施設、「プラントスクレイパー」の建設です。この施設は近隣の工場で生じる余分な熱と二酸化炭素を受け取って、クローズドループの室内栽培プロセスを作り出します。施設の南側で作物が育ち、日の入らない北側のオフィススペースで人々が仕事をします。総工費4,000万米ドル(3,550万ユーロ)のこの施設は2021年に開業予定です。
2012年は、サンフランシスコ・ベイエリアを拠点とするスタートアップ企業、クロップ・ワン・ホールディングス社の創業年でもあります。クロップ・ワン社は現在、エミレーツ・フライト・ケータリング社との共同事業として、アラブ首長国連邦ドバイに世界最大の垂直農場の建設を計画しています。総工費4,000万米ドル(3,550万ユーロ)、面積13万平方フィート(1万2,077平方メートル)で、室内環境をコントロールしたこの施設では、毎日6,000ポンド(2,722キログラム)の青果を生産することが期待されています。採れた作物は100を超える航空路線の機内食と25の空港ラウンジで提供される見込みです。
この2つの例が示すように、環境問題と世界の人口増加に刺激されて、自然と建築を融合する大胆な設計が生み出されています。いわゆるアグリテクチャーと呼ばれる成長分野です。その最も有名な事例の1つが、二酸化炭素を吸収する二重らせん型の20階建てのタワーマンション、台湾・台北の陶朱隠園です。設計では、このマンションにはニューヨークのセントラルパークにあるのとほぼ同じ本数の木々が植えられます。
58億米ドル
垂直農業の市場規模は、2016年から2022年までに年複利成長率で24.8%拡大する見込みです。 マーケッツアンドマーケッツ社, インドを拠点とするマーケティング・調査コンサルティング会社
インドを拠点とする国際的な調査コンサルティング会社、マーケッツアンドマーケッツ社の推計によると、世界のアグリテクチャー――またの名を垂直農業――市場の規模は、2016年から年率25%近いペースで成長し、2022年に58億米ドル(51億6,000万ユーロ)に達する見通しです。つまり、起業家、作物科学者、データアナリストたちの力で、食料の生産方法、人々への供給方法、土地の利用方法、サプライチェーンの管理方法が再発明されているのです。
より狭いスペースで、より多くの食料を
一年を通して環境を制御できる室内の垂直型スペースで、赤/青スペクトルのLED照明を使い、土壌なしで作物を栽培する。これは魅力的な提案です。ある種の作物は、害虫がおらず水の使用も極力抑えた環境で、精密に計算した少量の栄養剤を使って風味豊かに育てることができます。垂直農場の場合、通常の土の農場よりも単位面積当たりの収量を増やせます。さらに、都心の近くで作物を育てることによって長い流通網が短縮されるため、食品廃棄量や輸送時の炭素排出量を減らしつつ、より新鮮な作物をより迅速に食卓に届けられます。
室内農場を開発するフリート・ファームズ社を2010年に共同創業したJon Friedman氏は、意欲的なアグリテクチャー事業者に向けて「あ の市場で一番需要が大きい作物から始めましょう」とアドバイスします。「モジュラーとして設置できるので、市場に合わせて変えられます」
技術的な壁の克服
室内農業は、理論的には素晴らしいものに聞こえます。しかし実際には課題だらけです。ここ数年、室内農業の有望なスタートアップ企業が数多く倒産しています。電気代や人件費が高額になるかもしれません。都市部では地価も高いため、市街地の倉庫をハイテク農場に変えるという提案は経済的に難しいかもしれません。室内農場の適切な規模を見極めることも、大きな課題の1つです。
プランタゴン社、クロップ・ワン社、そしてシリコンバレーの新興企業プレンティー社など、一部の企業は規模拡大を進めます。プレンティー社はシアトル近郊に3万446平方フィート(2,829平方メートル)の垂直農場倉庫の建設を計画中で、これはわずか2年前に開始した世界最大のアグリテクチャー事業、ニュージャージー州を拠点とするエアロファームズ社の2万1,300平方フィート(1,979平方メートル)の農場を上回ります。
小さな規模を維持する企業もあります。ボストンを本拠とするフリート・ファームズ社は、40×8フィート(12.2×2.4メートル)の貨物コンテナを、装置を完備した自給自足型の自動栽培ユニットに改造します。最低138平方フィート(12.8平方メートル)の水平な区画があれば、どこでも設置可能です。同社は米国、カナダ、カリブ海地域、欧州、中東、東南アジアに栽培ユニットを展開しています。
インディアナ州ポーテージを拠点とするグリーン・センス・ファームズ社のオーナーで創業者のRobert Colangelo氏は、「ゴルディロックス(丁度よい)」デザインを見つけたと考えています。レタス、葉物野菜、ハーブを育てる6,100平方フィート(567平方メートル)の施設にはそれぞれ、より多くの電力と生育期間を要する作物(トマト、キュウリ、ピーマンなど)の温室が隣接しています。
グリーン・センス・ファームズ社は、この一対の栽培施設を都市郊外に――何百もの食料品店に食品を配送する既存の食品流通センターや、大量の食事を提供する企業キャンパスや機関がある地域に――設置します。Colangelo氏は、少なくともアグリテクチャーの将来が明確になるまでは、この隣接型のオペレーションが現実的だと考えています。
農業の未来予測
室内農業は建築家、エンジニア、科学者、都市計画家、起業家たちの心を捉えてきました。しかしアグリテクチャーが世界の食料供給に有意義な貢献ができるかどうかはまだ分かりません。
室内農業の事業者は、その答えが出るのを待ちつつ、生産規模や栽培方法の最適解を求めて実験を進めています。現時点では屋内で育つ作物は限られています。新たな種類の作物の研究は続けられていますが、たんぱく質の豊富な作物が明らかに不足しています。