Consumer goods & retail

ソーシャルショッピング : 小売業界のデジタルな未来

Jacqui Griffiths
26 October 2013

先進国において PC、タブレット、あるいは携帯電話の利用はほぼ一般化し、小売業界での戦いのルールが急速に変わりつつあります。顧客は、自分が選んだその時、その場所で利用できるアクセス手段を使って、購入方法にかかわらず、均一の豊かなエクスペリエンスを期待しています。そして小売企業は、先を争ってそうしたエクスペリエンスを提供しようとしています。

ネットワーク利用の増大を続けている買い物客のニーズを満たすべく、小売業界は、急速な進化を遂げています。

◦世界中で、消費者の62%が、購買行動の一部としてオンラインショッピングを利用するようになっている(Ernst&Young社、2011年)。
◦英国で25歳から34歳の人の79% が、購入前にソーシャルメディアの影響を受けている(Ernst&Young社/YouGov社、2011年)。
◦米国の携帯電話所有者の40%が自分の携帯でソーシャルネットワークサイトを利用しており(Pew Internet&American Life Project、2012年)、プラスとマイナス両方のショッピングエクスペリエンスを迅速に共有する。

米国を拠点にグローバルなコンサルティングサービスと市場調査を実施している会社、IDC Retail Insights社では、このようなネットワークにつながった消費者のことを「5i」(instrumented、interconnected、informed、in place、immediate=情報機所有者相互接続し、情報を利用し、現場にいて、即時に行動する)の買い物客と呼んでいます。このような「5i」の買い物客が求めるエクスペリエンスを提供するため、小売企業は、「5i」の買い物客が利用するチャネルすべてにわたって、彼らとどのような関係を築くかを理解する必要があります。

力を持った消費者

常につながっている消費者を相手にする場合、小売企業はその振る舞いに最新の注意を払う必要があります。IDC Retail Insights社の調査担当ディレクター、Leslie Hand氏は次のように語ります。「店の窓から絶えずのぞき込まれているようなものです。ブランド、評判、商品を四六時中、誰でもどこからでも見られるよう、展示しているようなものです。」この新しい環境を理解できないと、大きな損害を被る可能性があります。ショッピング・エクスペリエンスは、それが良いものでも悪いものでも、起きてから数分の内に世界中を駆け巡ってしまうこともあるからです。

『The Power of Real-Time Social Media Marketing』の著者、Beverly Macy氏は次のように述べています。「ソーシャルメディアには「真」に力があります。この力をブランドにとって有利になるよう活用する事もできますが、ソーシャルメディアにより、ブランド・イメージに著しく傷付けられることもあるでしょう。」

ブランドとの接点

複数チャネルから顧客に働きかけるすべを理解した小売企業は、「オムニチャネル」のエクスペリエンスを提供し、利益を得ることができます。たとえば米国でファッション小売を展開しているNordstrom社は、ソーシャルメディアに、ショッピングアプリ、商品の場所をその場で把握できる機能、登録不要の取引機能を組み合わせています。しかしすべてが順風満帆だったわけではありません。最近では、店内でスマートフォンの信号を追跡するという実験を、買い物客の抗議を受けて断念しました。それでも、Nordstrom社はオムニチャネル戦略を成功させようとしています。

62%

世界中の、消費者62%が、購買行動の一部として
オンラインショッピングを利用するようになっています。
Ernst & Young

Hand氏は、「Nordstrom社は数年前に、テクノロジーで点と点をつなぐ必要性に気付きました。消費者もそこに向かっており、先手を打つ必要がありました。そしてソーシャルメディアやe-コマースのサイトなどを買収し、個々のバスケットの大きさと収益性を高めたのです」と説明しています。英国のスーパーマーケットTesco社のCEO、Philip Clarke氏は、シンガポールで開催されたWorld Retail Congress Asia Pacificにおいて出席者に、当社を今後成長させるためには、「お客様との関係を構築する方法を変え、デジタル小売業に取り組む必要があります」と述べました。それが韓国での事例で、地下鉄とバスの待合所で仮想店舗を展開したことで、同社が提供しているアプリの登録ユーザー数が76%増加し、Tesco社子会社のHomeplus社の売上高が130%伸びる結果となりました。Clarke氏は「将来的には、アプリ開発は資産開発と同じくらい重要になるでしょう」と語ります。

全体像の把握

小売企業にとって、オムニチャネルの顧客行動の全体像を把握することは重要な課題です。Hand氏は次のように述べています。「顧客の購買行動は、友人とソーシャルサイトでのやり取りから始まることもあれば、店舗内でスマートフォンを取り出して、他店の商品と比較することから始まる場合もあるでしょう。買い物中に起こる出来事は何であれ、すべてが購入という意思決定に影響も及ぼすため、たとえそれが購入につながらなかったとしても、等しく重要なのです。」小売企業は、顧客が利用するすべてのチャネルから情報を吸い上げ、分析し、対応できるようにしておく必要があります。Nordstrom社の事例は、プライバシーと個人情報の収集に関する顧客の懸念に対し、十分に配慮することがいかに大切であるかを明示しています。ただし、デジタルメディアやソーシャルメディア、店頭で消費者と良好な関係を築くことができている小売企業であれば、そうしたノウハウの多くはすでに利用できる状態になっています。「人々がソーシャルプラットフォームで自分自身について自由にやり取りしている情報に加え、アプリ、ネット、モバイルデバイスを使ってやり取りされるデータを収集して理解することがきわめて重要です。一部の企業は、この種のデータを収集するシステムを使用し始めており、集めたデータを、小売企業を支援する『知恵』に変えています」(Macy氏)。

「ソーシャル メディアには 真の力があります。 この力をブランドにとって 有利になるように 利用することもできますが、 ソーシャルメディアにより ひどい痛手を負い、 ブランド・イメージに 傷がつくこともあるでしょう。」

BEVERLY MACY 氏
『The Power of Real-Time Social Media Marketing』著者

顧客との共同作業

デジタルメディアやソーシャルメディアの情報が双方向に流れる中、小売企業は、「5i」消費者がブランドとの共同作業を求めていることに気付き始めています。多国展開を進める英国の小売企業、Marks&Spencer社でオンライン&デジタルマーケティング部門の責任者を務めるLou Jones氏は、「Facebookページの導入によって、当社のマーケティングは単なる顧客への同時発信から、顧客との双方向対話型へと進化しました」と語っています。一方、世界的ファッションブランドのBenetton社は、3Dモデリング、インフォメーション・インテリジェンス、コラボレーション機能を備えたソーシャルアプリを利用し、工場、サプライヤー、デザイナーから「5i」消費者にいたる、あらゆるグループから上がってくる情報と並行して、消費者との関わり合いを取り入れています。この方法でコラボレーションを拡大することによって、同社は新しいトレンドや顧客の要望への対応に要する時間とコストを削減し、新しいコレクションをより迅速に開発できるようになりました。Ernst&Young社は2012年に公表したレポート(『This time it’s personal:from consumer to co-creator』)で、「組織は、消費者とのコラボレーションをすすめるため、バリューチェーン全体を調整する必要があります。顧客とのコラボレーションは、イノベーションには欠かすことのできない要素です」と指摘しています。新しいチャネルが出現し続けている現在、デジタルメディアとソーシャルメディアの課題に立ち向かうことは、常に新しい経験を伴います。しかしTesco社、Nordstrom社、Benetton社などの先見の明のある小売り企業は、「5i」消費者を獲得するための知識を獲得しつつあります。「肝心なのは対応力とコミュニケーション力を高めることです。どのようにして、企業としてのプレゼンスを拡大し、個人に合わせた仮想マーケティングを構築し、消費者との関係をいかに築くかが、買い物客の心をつかみ続けるための方策です」(Hand氏)。

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