COMPASS: 多くのファッション関連企業にとって、デザインや商品開発のプロセスは煩雑なものです。Fossilグループの場合にはどのような課題が見られましたか。
BRAD BOLLINGER: 当グループでは、同じことをするために、非常にたくさんのレガシーツールや複雑なプロセス、様々な手法がありました。かつては企業規模も小さかったため、はるかに迅速かつ機敏にやってこれましたが、いまや開発サイクルが18ヵ月にも達し、これは許容できないということになったのです。例えば、当グループではライブラリを一元管理していなかったので、デザイナーたちは自分のデスクトップ上で個々にライブラリを構築しており、作成されるエクセルのスプレッドシートも全社で共有されていませんでした。また、同一の商品ラインで異なるコンポーネントを使用し、本来であれば過去に自社で作ったコンポーネントが活用できるのに、(それを把握していないために)新しいコンポーネントの調達が必要だと判断してきました。時間もエネルギーも経費も無駄づかいしていたのです。
33年間、グループとして拡大を続けてきたことは、今回の課題にどのように役立ちましたか。
BB: これまで新たな製品カテゴリー、自社ブランド、世界中のクライアントのために開発し管理する製品ポートフォリオを追加してきました。各々のブランドやカテゴリーは個別事業として管理され、製品開発プロセスにそれぞれ独自のアプローチを採用していたのです。この状況を維持したままでは、成長は望めませんでした。
そうした問題にどのように取り組みましたか。
BB: 自社の現在の位置と、今後目指すべき場所を理解すること、それから、目的を遂行できるよう適切なソフトウェアを見つけることが重要です。私たちは情報の一元管理を全員に提供できる、柔軟な製品ライフサイクル管理(PLM)ソリューションを選択しました。皮革製品やアクセサリーのプロセスと、もう少し工学的側面が中心になる時計の生産の両方を支援するのに必要なすべての機能を提供できることが重要でした。また、インスピレーションやイノベーションから開発プロセスを始め、製品のライフサイクル全体の中で各プロセスがすっと流れていくことも重要でした。この変革は意義深いものだとわかっていたので、各商品カテゴリーや関係部署から強力な幹部担当者を選出し、人事部門とIT部門とともに取り組みました。現在では透明性とコラボレーション環境が確保され、いっそうの効率化を追求できます。商品ラインの企画から季節ごと、地域市場ごとのライブラリまで、PLMシステムですべてを行います。
克服しなければならない、何か独特な課題はありましたか。
BB: 私達のビジネスにおいて、デザイナーはさまざまな面でクリエイティビティの源泉となりますが、その一方で、彼らは変化を好みません。私たちは、デザイナーが自分たちの好みのデザインソフトウェアパッケージであるAdobe Illustratorで引き続き仕事ができるようにする必要がありました。しかし、あるシステムで作業をしてから別のシステム用に情報を移しかえる方法では、時間が余計にかかり、気の進まないデザイナーたちへの研修も必要となり、しかもヒューマンエラーが生じる可能性が高まります。したがって、2つのシステムを統合するのがよいという結論に至りました。これは複雑なプロジェクトでした。Adobeは最後まで残っていた部分の1つで、2016年に新システムに移行しました。
現在、当グループのデザイナーは、作品をAdobe IllustratorからPLMシステムにスムーズに移し、そこで製品開発チームが原価計算や素材の調達、利用可能性、スケジュールなど、製品として実現するのに必要なすべてを検討します。私たちは素材を追跡して、それがどこに使われるか、他に使えるところはあるかを把握したり、原価計算を確認して最善の価値を実現したりできます。
デザインした商品のヒット率や、商品のサンプル数は、ファッション業界の共通の課題です。これらの改善という点では、どのような予想をしていましたか。
BB: 当グループでは1つのデザインに対して平均3つのサンプルを作成します。そのため、採用前に作成するデザイン数を減らすことは、サンプル作成コストと市場投入までの時間を大幅に削減する可能性もあるのです。例えば、ある時計ブランドでは、1ヒット当たりのデザイン数を45%減らす(たとえば、これまでで8~9のデザインを展開していたものを、5に減らす)ことができると分かりました。この規模で減らせるならば、より大きなブランドでは1年間にデザイン数を300減らし、そのためのサンプル数を1,000近く減らせることになります。しかしそれには、各プログラムに関する改善の余地と適切な比率を見つけるために、それぞれのブランドの比率をモニタリングできる必要がありました。
デザイナーの反応はどうでしたか。
BB: 当グループのデザイナーは、デザインを完成させてからそれをどのように製造するかを考えるのではなく、(デザインの)数歩先を考えて素材とコンポーネントの一元的ライブラリを利用しています。どの基本的コンポーネントが必要かを考え、既に確保されている素材を使うチャンスや、過去の製品を将来の製品に活かす可能性を探っています。また、商品ラインをより広い観点から企画するという意味で、自分の製品やデザイン比率の改善を検討することもできます。
この種のプロジェクトが長期的にどのようなチャンスをもたらしうると思いますか。
BB: このプロジェクトは単なる実装ではなく、変革でした。グループ全体に関わることであり、グループとしてどう未来に向かうのか、ということでした。1つのツールやプロセス、知識を手に入れることで、格段に効率が向上することがあります。ヒットに対するデザイン数の削減は、サイクル時間の短縮に役立ちました。現在は、開発日程の短縮を模索しています。取り組んでほぼ1年になりますが、私たちの開発サイクルは1年につき5回あるので、全日程の短縮までには時間がかかると思います。しかし、これまで18ヵ月かかっていたことを考えれば、既に大きく改善しています。現在はこれらの日程を徐々に短縮する方法を練る段階です。