eコマースが台頭したことで、人々の買い物のあり方――そして、ブランドの販売のあり方――は変わりました。パッケージ製品(CPG)企業は、かつては製品をほぼ実店舗のみで提供していたのに対し、消費者への直販(DTC:Direct To Consumer)・直送をますます拡大しています。
しかし、DTCモデルが決まって失敗する領域が存在します。それはパッケージングです。
「CPG企業は従来、店頭での小売りを念頭に置いてパッケージング・ソリューションを設計していました」と話すのは、ミシガン州を本拠とし、パッケージングの試験プロトコルと設計基準の策定を行う国際安全輸送協会(International Safe Transit Association:ISTA)で、技術担当バイスプレジデントを務めるEric Hiser氏です。「製品はまとめてパッケージングされ、パレットに載せられます。製品には『数の強み』があり、流通チェーンに存在するタッチポイントは比較的少数です。しかし、DTCのシナリオでは、この状況が一変します」
目的に沿わない現状
DTCモデルでは、移動の回数、つまりは「タッチポイント」の数が4倍に増えるため、破損のリスクが高まります。「従来の小売りでは、依存するタッチポイントの数が平均5つだったのに対し、eコマースでは、その数が20以上に増える傾向があります」と話すのは、ミネソタ州に本部を置く米国パッケージング・環境研究所(American Institute for Packaging and the Environment:AMERIPEN)で、持続可能性アナリスト兼プログラム・マネージャーを務めるKyla Fisher氏です。
「従来の小売りでは、製品はパレットに載せられ、製造業者から小売流通センターにまっすぐ送られます。そこでトラックから下ろされた後、もっと小さな輸送用トラックに再び積み込まれ、小売店に納品されるのです」と、Fisher氏は言います。ところがeコマースの場合、製品は製造業者から流通拠点に送られ、そこで開梱・保管されます。注文が来ると、製品は改めてパッケージングされ、小さなトラックに積み込まれます。その後、いくつもの拠点での上げ下ろしを経て、ようやく受取人の元へ届くのです。
返品が発生すると、タッチポイントはさらに増えます。そして、AMERIPENによる2017年の白書『eコマースの世界に向けたパッケージングの最適化(Optimizing Packaging for an E-commerce World)』によれば、eコマースの返品率は高く、実店舗の9%に対し、30%にのぼるといいます。
Fisher氏は、破損率とパッケージングの不備は密接に関係していると考えています。「パッケージング材を十分に使用しないことが原因で、破損のリスクは大幅に高まっています」と、Fisher氏。「しかし、消費者は破損と同様に、製品の過剰包装にも不満を感じているのです」
「従来の小売りでは、依存するタッチポイントの数が平均5つだったのに対し、eコマースでは、その数が20以上に増える傾向があります」
KYLA FISHER 氏
AMERIPEN持続可能性アナリスト兼プログラム・マネージャー
配送時の破損は、企業の収益とブランドの評判をむしばみます。
「破損した製品を交換するコストは、配送コストの17倍にのぼることもあります。また、製品の破損が原因でウェブサイトに否定的なレビューが載ると、その穴が肯定的なレビューによって埋め合わせられるまでに何カ月もかかりかねません」と、バージニア州に本拠を置く包装・加工技術協会(Association for Packaging and Processing Technologies:PMMI)は、報告書『eコマース市場評価(E-Commerce Market Assessment)』の最新版で指摘しています。
シミュレーションによる問題解決
何かを変える必要があることは明らかです。「eコマースの環境に合わせて、流通とエンドユーザーの視点から、パッケージ全体の設計と評価をし直す必要があります」と話すのは、オハイオ州に本社を置き、プラスチック・パッケージング材の設計・製造を手掛けるPlastic Technologies社で、先進エンジニアリング・サービス部門のバイスプレジデントを務めるSumit Mukherjee氏です。
解決策は、ハンドリングの激しさに応じてパッケージングの設計と試験を行うことであるというのが、専門家の共通見解です。そして、コンピューターによるシミュレーションを利用すれば、物理的なプロトタイプを使うよりも適切に、素早く、かつ低コストでそれを実行することができます。ところが最近まで、ほとんどのパッケージングの試験は、物理的なプロトタイプを作って動かすことによって行われてきました。これは、多大な時間とコストを要するプロセスです。
「当社ではその場合、制御された一定の環境下で所定の手順に従って少数の容器を試験することになります」と話すのは、デトロイトに本拠を置くパッケージング・ソリューション企業のAmcor Rigid Plastics社で、先進エンジニアリング部門の責任者を務めるHansong Huang氏です。「ただし、製品の妥当性確認は、試験生産される何万個もの容器が充填ライン、サプライチェーン、そして顧客の手の中でどのようなふるまいを示すのかに完全に左右され、時には当社の顧客のそのまた顧客によって行われることもあります」
このプロセスの問題点について、Huang氏はこう説明します。「妥当性確認フェーズはほとんどの場合、当社で制御することができず、ばらつきが大きく、1つ間違えば大量のコストと時間を費やすことになります」
17倍
輸送により破損した製品を交換するコストは、配送コストの17倍にのぼることもあります。
コンピューターによるシミュレーション・試験技術の最近の進歩は、当て推量の余地をなくします。
「各種のシミュレーション技法は、『どのように』や『どのくらい』で始まる疑問の答えを、科学的な反復を伴う画期的なプロセスで明らかにするために役立つでしょう」と、Mukherjee氏。「ロバスト(頑健)な設計を、正確な材料特性と併せて特定すれば、どのような高温や高圧にさらされる可能性があるのかを想定して、さまざまな輸送のシナリオをシミュレーションすることができます。解決策の空間全体を探索し、最高の性能が得られる最適点を突き止めることも可能です」
Amcor社はすでに、この技術を活用して大きな効果を上げています。
「eコマースに特化したシミュレーションを構築することで、容器を合格させるために必要な物理的要件と実際の要件を素早く理解することができます」と、Huang氏。「当社ではすでにシミュレーションを利用して、ロバスト設計と、物理試験では確実な再現が難しい極端な条件の試験を行っています。シミュレーションがeコマースの環境向けに果たす役割の重要性は、今後数年でさらに高まるものと思われます」
価値ある投資
シミュレーションがもたらすメリットは明白です。「かつてのように既存の試験に代わるシミュレーションを開発するのではなく、シミュレーションを利用して設計・試験手法の開発を主導すれば、所要期間を短縮することだけでなく、広く応用可能な、より優れた方法論を最終的に開発することによって、優位に立つことができます」と、Huang氏。「Amcor社ではすでに、eコマースの要件に合わせて正確なシミュレーションを行うために必要な技術的な基礎とほとんどのコンポーネント――厚み分布予測、材料特性、数値法、検証・妥当性確認、ワークフローなど――を構築し、その妥当性を確認しています。次はこれを拡大して、新たな荷重条件一式を盛り込む必要があります。そして、おそらくはそれ以上に重要なこととして、新たな旅路で待ち受ける新たなレベルの不確実性に対応できるように、当社の方法論を調整しなければなりません」
明るい未来
そのような進歩によってCPG企業は今後、これまでにない画期的な配送手法をより迅速に採用できるようになるものとHiser氏は考えています。「既存のパッケージングの設計について、カーブサイド・ピックアップ(店舗駐車場での受け取り)やドローン、ロボット等々の新たなチャネルを使用した場合の性能をシミュレートすることも可能です。将来のあらゆる種類のシナリオを再現できるのです」と、Hiser氏は言います。
「メリットは非常に大きいでしょう」と、Mukherjee氏は付け加えます。「これらのデジタルツールを活用しない企業は、いずれ取り残されるはずです」
For information on designing the Perfect Package, please visit:
http://go.3ds.com/oVLx