物流の「ラストワンマイル」――商品 がフルフィルメントセンターから 顧客への配達地点までを移動す る道のり――には、小売業にとっての課題 とチャンスが数多く存在します。「消費者は インターネット通販、インストア・エクスペ リエンス、宅配、クリック&コレクトといった サービスに関して、ますます自分なりのシナ リオを選びたがるようになっています」と述 べるのは、キャップジェミニと、Consumer Goods Forum(グローバルな消費財流通 業界のネットワーク)が発行した報告書、 『Rethinking the Value Chain(バリュー チェーン再考)』の著者たちです。「それと同 時に、新たな物流モデルが矢継ぎ早に登場 しています。アマゾンのような企業により、 業界はラストワンマイルの物流モデルの再 考を迫られているのです」
小売業が購入品を送り届け、消費者ひとりひ とりの要求を満たすのに最適な方法を見き わめるには、その土地の文化、地理的条件、 気候、運賃などの要素を考慮する必要があ ります。テクノロジーに関する世界的な市場 調査・コンサルティング会社、ARC Advisory Group(本社:米国)でサプライチェーンお よびロジスティックス部門のシニア・アナリ ストを務めるChris Cunnane氏によれば、米 国におけるラストワンマイル配送の主な課 題はコストであるのに対し、それ以外の国で はインフラや郵便サービスなどが重要な課 題であるといいます。「インドでは、宅配を実 行可能なものにするためのインフラを見つ けることが難題です」と、Cunnane氏はARC 社のブログ「Logistics Viewpoints(ロジス ティックスの視点)」で述べています。「トラッ クは混雑した街路を進むのに苦労している 状況で、郵便サービスは配達が遅いことで 知られています。インドにおける新たな選択 肢の一つは、Flipkart、Snapdeal、Amazon Indiaで購入された商品の配送に、宅配業者 を利用することです」
効率の最適化
小売業にとっても消費者にとってもコストは 重要な問題です。配送距離が長い場合はな おさらです。「ラストワンマイルは平均して輸 送コスト全体の30%近くを占めます。この比 率を下げるのは非常に困難です」と、サプラ イチェーン・コンサルタントのBrittain Ladd 氏は、国際的な最適化ソフトウェア・分析ソ リューションの専門会社であるOrtecに対 し、こう語っています。
小売業は、ラストワンマイルを短縮して効率 を上げながら、消費者エクスペリエンスも高 められるような柔軟な物流モデルを構築し、 この課題に対処しようとしています。各地域 の倉庫と革新的なテクノロジーを組み合わ せるというモデルは、配送経路計画を最適 化すると同時に、購入と受け取りの方法の選 択肢を増やすことで、消費者の利便性を向 上させるのに役立っています。たとえば、米 国の中西部と東海岸の24地域で営業を展 開するオンライン食料雑貨宅配サービスの Peapodは、各地の市場の規模と密度に応じ て3種類の異なる形態の倉庫を運営してい ます。顧客は、通勤・通学途中の駅などにあ るバーチャルな食料雑貨店で商品を購入す ることができます。Peapodは家庭やオフィ スへの宅配を行うだけでなく、顧客が自分 で品物を受け取りに行くことのできる場所 も便利な立地に用意しています。
物流のデジタル化
小売業は革新的なテクノロジーを活用し、 的確な計画と需要の変化に素早く対応でき る柔軟性を組み合わせることによって、ラス トワンマイルを最適化しようとしています。 インドのあるスーパーマーケット・チェーン は、一定額以上の注文については無料で宅 配を行い、サードパーティの宅配業者に配 送サービスを外注しています。同社では、あ る配送センターのワンフロアを丸ごとロジ スティックス・センターに改造することによ り、品揃えの倍増を実現しました。また、リ アルタイムに在庫状況を把握し、効率的な ピッキングを可能にするEコマース・システ ムを導入することで、商品の在庫と配送の両 面で顧客の期待を確実に満たすようにして います。
ジョン・ルイス・パートナーシップ(英国の小 売業グループ)の食品部門であるWaitrose は、サプライチェーンの計画と最適化をデジ タルで行うソフトウェアを導入することで、 同社のすべての物流センターと支店の輸送 計画、発送、ヤード管理の一元化を実現しま した。さらに、支店が中央システムとやり取 りをして工数を配分できる要員計画ソリュー ションを採用することで、計画担当者がさま ざまなシナリオや仮定に基づく案を試行し、 各地域レベルでビジネスチャンスを最大化 できるようにしています。
メッセージの届け方
物流のラストワンマイルでは、予期せぬ避 けられない遅延が発生し、消費者を失望さ せることもあります。車両やドライバー・テク ノロジーは、トラックが目的地から一定の距 離に到達したときにGPSを利用して自動メッ セージを生成する手段としてコスト効率に 優れていますが、必ずしも最大限に活用さ れているわけではありません。「顧客は荷物 を配送センターまでは追跡できますが、そこ から配達先までの移動中には追跡できなく なるのが通例です」と話すのは、英国のディ スカウントストア・チェーンのオーナーであ り、自社の宅配サービスの方法を模索して いるNizam Sacranie氏です。「そうした配送 の最終段階で顧客とコミュニケーションを 取るのは、遅延に関する情報を随時伝える ためだけではありません。荷物が届いたと きにちょうど顧客が出かけていたり、呼び鈴 が聞こえなくなるようなことをしていたりす る可能性を低くするためでもあります」
デジタルにつながった今日の世界では、サ プライチェーンのラストワンマイルにおける コミュニケーションを通じて小売業が付加 価値を提供できるチャンスが増えつつあり ます。RFIDラベルは、荷物自体がWiFiや携帯 電話の基地局を介してコミュニケーションを 取るのを可能にします。また、オムニチャネ ルのアプローチは、消費者が使いたいチャ ネルを通じてコミュニケーションを行うのを 可能にします。たとえば、米国のUPSやドイ ツのDHLのような企業は、輸送中の荷物の 配達時間や配達先を顧客がインターネット やモバイルアプリで変更できるようにしてい ます。
「ラストワンマイルは平均して 輸送コスト全体の30%近くを占めます」”
BRITTAIN LADD氏
サプライチェーン・コンサルタント
「消費者は、配達の時間やオプションについ て硬直的な対応を求めていません」と述べ るのは、ドイツのロジスティックス企業であ るDHL Consumer Solutions & Innovation と、グローバルなI T 関連調査会社である IDC Manufacturing Insights(本社:米国) が共同で発行した報告書『Omni-channel Logistics(オムニチャネル・ロジスティック ス)』の著者たちです。「消費者はまた、ウェ ブやモバイルアプリの枠にとどまらない、コ ミュニケーション・チャネルの柔軟性をも求 めています。WhatsAppやVchat、その他の 体系化されていないチャネルでも同様にロ ジスティックスに関する情報にアクセスし、 やり取りすることを望んでいるのです。ロジ スティックス企業と小売業にとっての課題 は、あらゆる顧客サービス・チャネルの単一 のビューを作成し、それを維持することによ り、シームレスで効率的なコミュニケーショ ンを可能にすることです」
つまるところ、物流におけるラストワンマイ ルは、商品が移動する距離よりもはるかに 広い範囲を包んでいるのです。競争の激化 にともない、新たな物流モデルと革新的な テクノロジーによって洞察力を磨き、計画の 精度を上げ、フルフィルメント、人員配置、輸 送を最適化することが可能になりつつあり ます。理想的なソリューションは、小売業ご とに、また市場ごとに異なるでしょう。いず れにしても、しかるべき最適化を実現してこ そ、真の価値を顧客の手元に届けることが できるのです。◆