IBM社の消費財業界ソリューション・ポートフォリオ担当ディレクターである、David McCarty氏は、同社において、消費財業界向け戦略を統括し、業界固有の課題を解決するソリューションの開発と展開に取り組んでいます。McCarty氏はほぼ25年にわたり、新製品開発、商取引の促進、サプライ・チェーン管理における技術的ソリューションのコンサルティングと導入を行ってきました。
Compass: ソーシャルメディアにより、現在のパッケージ製品(CPG)企業にどのようなビジネス・チャンスがもたらされるとお考えですか?
D. MCCARTY: IBMでは最近、1,700人以上のマーケティング統括責任者(CMO)を対象に調査を実施しました。大半のCMOが、マーケティング分野で起きている大きな変化に、準備不足のためうまく対処できていないと感じています。82%が今後3~5年の間にソーシャルメディアの利用を拡大する予定だと回答する一方で、ブログを継続的に閲覧し、マーケティング戦略に生かしていると回答するCMOは26%に留まりました。トップクラスの業界アナリストの予測によると、今日のような初期導入段階ですら、ソーシャルメディア・ベースの手法を使うことで、企業は市場調査費用の20~40%、従来型の宣伝広告費用の40~60%を削減できるのです。CPG業界は、「力を持った消費者」の台頭とともに、転換期を迎えています。
ソーシャル、モバイル、ローカリゼーションの各技術により、ターゲットとする消費者と直接コンタクトをとる、かつてない機会が消費財メーカーにもたらされています。ソーシャルテクノロジーで消費者にリーチし、マーケティングやブランド活動を宣伝し、消費者と1対1の関係を築くことが可能となるのです。
CPG企業による、従来の広告宣伝からデジタル・メディアへのマーケティング予算の移行をよく耳にします。たとえばP&G社は、今年初めにマーケティング予算を2016年までに10億ドル削減する予定を発表しましたが、低コストのデジタル・マーケティングに軸足を移していることが大きな理由です。
ソーシャルメディアというとマーケティング関連でよく耳にしますが、新製品開発(NPD)にはあまりなじまないように思われるかもしれません。しかし、非常に良い事例がいくつかあがっています。ソーシャルメディア技術は、企業が製品開発に利用できる重要な知見を集める助けとなります。消費財企業は、NPDに効率よく情報を提供する手段として、ソーシャルメディアをぜひとも活用する必要があります。ソーシャルメディアは企業に、新しいアイディアやイノベーションをゼロから生み出す手段を提供します。IBMが2012年にCEOを対象に行った調査では、大多数のCEOがオープンでコラボレーション可能な職場環境を作ることに関心があることがわかっています。
イノベーティブな企業が、NPD分野でできることとは何でしょう?
D.M.: NPDプロセスは、改善を推し進める絶好のチャンスとなります。市場で新製品が成功を収めるには多くの課題があることを考えると、非常に興味深い分野でもあります。ソーシャルメディアは、消費者のニーズをより深く理解し、埋もれているニーズを素早く特定し、有望な市場やカテゴリー・セグメントを見極め、迅速で低コストな方法でアイデアを試す手段を提供してくれます。ソーシャルメディアをNPDに適用すれば、商品化のスピードアップと新製品の開発コストの削減につながるのです。
企業はより適切な製品を開発するために、ソーシャルメディアをどのように活用していますか?
D.M.: Vitamin Water社が良い例です。同社の「Connect」というフレーバーは、Vitamin Water社のFacebookページのファンたちによって開発されました。Facebookに登録した200万人以上のVitamin Waterファンが、オンライン・コンテストに参加し、1人のファンが、開発プロセスで役割を果たし、5,000ドルを獲得しました。コンテストでは、フレーバー選びからパッケージのデザイン、製品の命名に至るまで、製品開発のあらゆる側面でファンの協力が求められました。
82%
のCMOが今後3~5年の間にソーシャルメディアの利用を拡大予定、と答えています。 (IBM社の調査による)
NPD分野でソーシャルメディアを使用すれば、商品化のスピードアップと新製品開発コストの削減に役立つとおっしゃいましたが、 実際にそれを試したCPG企業はありますか?
D.M.: 業界の調査によれば、ソーシャル・プラットフォームで消費者と直にやりとりし、製品や機能に対し消費者が何を言っているか観察するという方法は、フォーカス・グループや世論調査を使う従来のリサーチと比較して、5分の1の費用しかかからないと報告されています。ソーシャル技術から得た情報を利用して製品のアイデアを試し、クラウド・ソーシングを通して外部からアイデアを募り、短期間に商品化にこぎつけた素晴らしい例がいくつか公になっています。その1つはKraft社です。Kraft社は、健康や栄養に関するオピニオン・リーダー150人と、減量に励む消費者150人を含むオンライン・コミュニティを作りました。Kraft社はオンライン上での会話を観察するうちに、一日を通じて食生活を管理することは女性にとって容易ではなく、24時間を通じ、食事と間食のダイエット要件を満たすパッケージ食品がもとめられていることがわかりました。この結果、従来の開発方法よりもはるかに短い16か月間で開発されたのが、South Beachシリーズです。
ソーシャルメディアの利用に関心のある企業がすべきことは何でしょうか?
D.M.: ソーシャルメディアに関心のあるCPG企業は、実験や独創的な考えを恐れてはいけません。業界カンファレンス等を通じて、ベストプラクティスについての情報を得ることができます。しかし、ソーシャルメディアが主流となるにつれ、いずれは全社レベルでのアプローチの構築が必要となるでしょう。