ウェルビーイングを「自然に」作り上げる

ジュヌビエーブ・ベルガー氏 Firmenich社

Rebecca Gibson
7 July 2020

香りと味に対する感覚はどちらも軽視されがちですが、いずれも科学的に測定、開発、設計、最適化できるものです。スイスのFirmenich社はフレグランスおよびフレーバー事業を営んでおり、この分野の非公開企業としては世界最大の規模を持っています。同社は人々の匂いや味に対するエクスペリエンスを、健康とウェルビーイング(身体・精神・社会的に健康で満たされた状態にあること)の向上につなげることに尽力しています。COMPASSマガジンではFirmenich社の最高研究責任者、ジュヌビエーブ・ベルガー(Geneviève Berger)氏に、同社が持つ特殊な科学技術について詳しくお話を伺いました。

COMPASS編集部: Firmenich社でのあなたの役割を教えてください。

ベルガー氏: 私の仕事はFirmenichの科学的な卓越性をもう一段階引き上げることです。私はサイエンスを通じて生活の質を高めることに情熱を注いでいます。そのため、当社が持つ科学力を生かすことで、日々当社と接点を持つ4億人の消費者に喜びをもたらし、製品やソリューションを通じて、彼らのウェルビーイングの向上に貢献しています。

当社は、原材料を起点とし、人間の知覚へと至るまでの匂いと味に関するあらゆる科学的領域をマスターしましたが、その方法は極めて優れているものかもしれません。私たちの研究の基盤となるのは化学ですが、材料科学、バイオテクノロジー、細胞生物学はいずれもその重要性が増していることから、分野横断的なアプローチを採用し、イノベーションを推進し続けています。イノベーションは、専門分野を横断する思考により起こると私は強く信じています。なぜなら、そこはいつも魔法が起こる場所だからです。

消費者向け製品は、生活の質を高めるものだけが成功すると確信されているそうですが、それについてお聞かせください。

ベルガー氏: 健康に関することでは、二通りの貢献方法があります。ひとつは予防、もうひとつは治療や治癒の段階への貢献です。公衆衛生に大きな影響を与えられるという点では、予防において指導的な役割を果たすことが重要だと信じています。私はこれを、消費者が日々の暮らしの中で使用する製品を通じてウェルビーイングを高め、人々に喜びをもたらすことで実践しています。

当社は10年以上前から、ヘルシー志向の強い食べ物や飲み物を美味しくする技術に投資しています。例えば、当社のある最新技術を使えば、味を損なわずに添加された砂糖を最大100%まで違和感なく取り除くことが可能です。昨年1年間だけでも、当社は消費者から愛されているさまざまな製品のカロリーを1兆カロリー分も低減しました。

Firmenich社は「Reinvent the Toilet Challenge(トイレ再発明チャレンジ)」に参加しましたが、ウェルビーイングにどのように貢献しましたか。

ベルガー氏: 悪臭のコントロールにおいて、当社は本当の意味で飛躍的前進を果たせたと思っています。これは、嗅覚受容体を理解していたからできたことです。当社の技術は嗅覚受容体の刺激を中和することによって悪臭を和らげるものであり、悪臭を別の香りで覆う方法とは全く異なります。

世界中で推定45億人もの人々が安全な衛生環境下になく、公衆衛生に計り知れない悪影響が及んでいます。トイレを使う時の最大の障害が臭いであることに気付いた私たちは、この問題解決の一助となることを決断し、トイレの使用経験を「再発明」して保健衛生や公衆衛生環境を改善するために、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とパートナーシップを組みました。現在、当社の技術はバングラディッシュ、インド、南アフリカなどの低所得の消費者のために、手頃な価格で購入できるサステナビリティに配慮したトイレ清掃用品に取り入れられています。私たちは新たなトイレの経済性に関してカギとなるソフトウェアを提供しています。ポジティブな感情には行動を変える力があります。このソフトウェアでは、その方法に関する当社の深い理解に基づく人間中心のアプローチを採用しています。

Firmenich社は農業従事者をサポートする活動を数多くおこなっています。事例をいくつか紹介していただけますか。

ベルガー氏: 私たちのバリューチェーンの中でもっとも脆弱なコミュニティは、当社製品の天然成分の原料、例えば、マダガスカルのバニラ、インドネシアのパチョリ、ハイチのベチバーなどを生産する一部の小規模農家の人々です。彼らだけでなく、NGOや政府などのパートナーとも積極的に連携し、彼らがサステナブルな暮らしを確実に実現できるようサポートしています。

例えば、私たちはこのようなコミュニティに奨励金を提供していますが、このお金は彼ら自身が地域に最も大きな利益をもたらすと考えるプロジェクトに使われます。例えば、ハイチでは学校、マダガスカルでは診療所と給水のための井戸をつくりました。当社では、顧客にもこの取り組みに参加してもらっています。一例を挙げると、このような当社顧客の支援のおかげで、インドネシアにパチョリ農家のための託児所を設立しました。

イノベーションは、専門分野を横断する思考により起こると私は強く信じています。なぜなら、そこはいつも魔法が起こる場所だからです。

天然成分の調達を通じて、当社は世界中で推定25万世帯を超える農家の生活に直接関わっています。この分野での影響力をより高められるように、同じビジョンを持つ企業と共に、2つのLivelihood Funds for Family Farming(家族経営農家の生活向けファンド)に投資しています。

これまで人々の生活を向上するためにサイエンスの枠を押し広げてこられましたが、その中での最大の成果は何だと思いますか。

ベルガー氏: ヴィーガン(厳格な完全菜食主義者)やフレキシタリアン(動物性食品も摂取する柔軟な菜食主義者)向けの食事は、誰にとっても、また地球にとっても望ましいものですが、Firmenich社はその機会の拡充に重要な役割を果たしています。当社が持つ感覚に関する知識を活用すれば、ヘルシーで栄養価の高いサステナブルな食品を、見た目や味、匂いまで良くすることができます。現在、味から食感までのすべてを改善する統合されたソリューションを持つ香料メーカーは当社だけです。もともと植物性タンパク質には味気なさ、苦味、パサつき、食感などの問題点がありますが、当社のソリューションはこれらを克服することで食というエクスペリエンス全体を豊かにします。いまや私たちの技術は、ベジタリアン向け食品やシーフード代用品において、食肉タンパク質の脂肪からあふれ出る肉汁に匹敵する美味しさを実現できます。

将来的には、サイエンスが味わいや香りの世界を変えていくと思われますが、これについてはどのように考えていますか。

ベルガー氏: 次なる未知の領域として現在私たちが取り組んでいるのはデジタル化です。デジタル化はあらゆる業界でビジネスモデルの混乱を招いている一方で、活気に満ちた新たなビジネス機会を生み出しています。その中には、人工知能(AI)の力を利用して、より迅速かつより個別化した消費者エクスペリエンスを提供するものもあります。

当社は昨年、世界トップクラスの技術系大学で当社と緊密な関係を有するEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)の協力を得て、デジタル・ラボ(D-lab)を開設しました。この目的は、AIの最先端に身を置くことで当社の創造力を高め、業界における次世代技術領域をリードするためです。

香りと味の創造はアートであり、サイエンスでもあります。当社の香水やフレーバーの調香師はつねに感性と独創性においてAIをしのぐ優位性があり、これからもあらゆる顧客が求める独特のヒューマニティーを製品にもたらしてくれるでしょう。それでもAIは、調香師達の知識を増強しながら、かつてないスピードで感覚的な経験をカスタマイズして提供する上で役立つものなのです。

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