自動車業界のCO2削減の取り組み

EV、軽量化の技術、市場への働きかけ等で多角的に排出量削減を目指す

Jacqui Griffiths
22 July 2020

欧州で乗用車を販売する全ての自動車メーカーは、2021年までに、新車全体の95%に対して、走行1キロメートルあたりの二酸化炭素排出量を95グラム未満に抑える必要があり、違反した場合は数十億ユーロに上る罰金を科される可能性があります。各社はCO2排出量削減目標を達成する方法を模索しつつ、また、イノベーションを通じてより環境に優しい輸送・モビリティ業界の一員として繁栄する機会も探っています。

わずか1年で新車全体の二酸化炭素(CO2)排出量を20%削減するというのは大がかりな取り組みですが、ドイツの自動車メーカーBMWのCEO、Oliver Zipse氏は実現できると確信しています。

Zipse氏は2020年初めに行われた業界の集まりで次のように述べました。「当社は欧州において今年だけで20%近い削減を達成します」

このコミットメントの大きな原動力になっているのが、目前に迫るEUの2021年のCO2排出量削減の期限と、2021年以降もさらなる規制の厳格化が続くとの見通しです。規制は自動車メーカーに次の3つからの厳しい選択を迫ります。

市場のニーズに応える

BMWは電気自動車(EV)のラインナップを着々と増やしており、これがCO2排出量削減目標の達成に重要な役割を果たすことになるでしょう。同社は今後数年でEVの販売を急速に拡大する予定だとZipse氏は言います。EVは、EUにおける同社の2019年の新車販売全体の8.6%を占めましたが、2021年までに25%、2025年までに30%、2030年までに50%に増やす計画とのことです。

「製品が特定の目的を果たすためには、顧客がそれを望み、欲し、使用しなければなりません。したがって、当社は地球の住民でもある顧客が将来望むものは何か、ということに重点を置いています」

BMW社CEO Oliver Zipse氏

今日の市場でEV技術の訴求の促進に注力しているのはBMWだけではありません。たとえば、トヨタはハイブリッド車戦略をほぼすべてのマーケットセグメントに展開しようと取り組んでいます。一方、ルノー・日産・三菱アライアンスは大衆向けの手頃な価格のEVを実現すべく多額の研究開発費を投じています。

とは言え、馬力のある大型車の需要は健在なので、各社のCO2排出量削減戦略に内燃機関も考慮する必要があります。たとえば、BMWでは向こう1年間の目標の3分の1を内燃機関の効率化によって達成し、3分の2を電動モーターで達成することを目指しています。

この現実的なアプローチこそが、低排出ガス車を普及させて効果を確実にするための唯一の方法だとZipse氏は言います。

Zipse氏は2019年のフランクフルト モーターショーで次のように述べています。「私たちは、世界の温室効果ガス排出量を減らすのに最も有効な技術は何か、という問題に重点を置いています。私たちが重視しているのは真の効果を得ることです。製品は、顧客がそれを望み、欲し、使用してのみ、目的を果たすことができます。したがって、当社は地球の住民でもある顧客が将来望むものは何か、ということを重視しています。顧客はどのようなドライブトレイン、テクノロジー、サービスを望んでいるのか?その要求に応えつつ、同時に環境保護の面で最高の成果を達成するにはどうすればいいか?こうした視点で取り組んでいます」    

正しいバランスを見つける

イノベーションを駆使してより燃費の良い車を開発すれば、今日の多くの市場で支持を得られるかもしれませんが、製造する場所の選択が、これまでの環境面の努力を全て帳消しにする可能性もあります。

EVを専門とするコンサルティング会社EV-volumes.comでシニアアドバイザーを務めるNicolas Meilhan氏は次のように述べます。「EUのCO2排出量削減目標を達成する方法は2つあります。自動車の電動化と小型軽量化です。いずれもかなりのコストがかかります。電気自動車のバッテリーは生産コストが高く利益率が低いため、一部のメーカーは生産拠点をコストが低い国に移していますが、そうした国ではCO2排出量の多い石炭火力発電による電気を使用しています。これは結果的に、自動車の製品寿命を通して得られる環境上のメリットを大幅に減らすことになりかねません」

2010年以降、世界のCO2排出量の最大の増加を招いているのは電力業界ですが、SUVはそれに次いで2番目です。重工業やトラック、航空業界よりも排出量の増加の要因となっているのです。

国際エネルギー機関 『World Energy Outlook 2019

自動車の小型軽量化が解決策になるかもしれませんが、市場では大型で重量のあるスポーツ用多目的車(SUV)が好まれるという事実が、この解決策の妨げになっています。

Meilhan氏は次のように述べます。「これまで行われてきた軽量の素材や部品の開発は、車の重量を維持したまま大型化することを目的としていました。過去20年間、動力伝達装置の改善や部品の軽量化、空気力学的な改善によって達成してきた効率化はすべて、車体の重量が毎年平均10キログラム増してきたことによって相殺されてきました」

つまり、メーカーが取り組むべき課題はより軽い車を作ることだけでなく、消費者に小型車の長所を納得してもらうことでもあるのです。「効率化による環境上のメリットを生かし、乗用車のCO2排出量を大幅に減らすには、より小型で軽い車が市場のトレンドになるよう働きかけていくことが重要です」とMeilhan氏は言います。

新しい価値を生み出す

Meilhan氏はフランスの自動車メーカーGazelle Techが手本になると言います。「Gazelle Techは複合材料のみで車を作ることにより、重量と燃費を半分近くまで減らしつつ、あらゆる安全基準を満たしています」と同氏は言います。

Gazelle Tech社はバーチャル・プロトタイピングのソフトウェア開発会社と提携することで、複数の物理的なプロトタイプ作成にかかっていたコストが不要になりました。その結果、10個の部品からなり、手で簡単に組み立てられる複合材料のフレームが出来上がりました。

同社のビジョンの中心にあるのはアクセシビリティです。欧州市場向けには電動モーターを使用していますが、新興国向けに内燃機関モデルも用意しています。また、カープール(相乗り)に対応するためコネクティビティ機能も搭載しています。

Gazelle Tech社は製造を効率化するため、顧客拠点の近くに短期間で設置できるモジュラー式のマイクロファクトリーを開発しました。これにより、エネルギー消費量がさらに減り、現地市場に合わせたクルマづくりができるようになりました。

同社のウェブサイトには、マイクロファクトリーについてこう記されています。「自動車産業を築きたい新興国に特に適しています。これらの製造ユニットを導入する際には、現地固有の要件に合わせた車を作るための技術移転も行います」

米国の新興EVメーカーCanooがデザインした車の外装(Image © Canoo)  

米国のスタートアップ企業Canooの取り組みも参考になります。同社はテクノロジー業界と自動車業界の人材を集め、月額制のサブスクリプション サービスに登録することによってEVを個人または営利目的で使用できるビジネスモデルで「自動車業界のNetflix」の座を狙っています。「車輪のついた都会のロフト」と表現されるCanoo社の最初の車は7人乗りで、コンパクトカーほどの大きさでありながら大型SUVに匹敵する車内空間を実現しています。

今後の展望

EUのCO2排出量削減期限に向けて各社が取り組みを進めるなか、イノベーションの行き詰まりを解消し、顧客を巻き込んでいくためには新しいテクノロジー、手法、提携が必須であることが浮き彫りになっています。

ロンドンを拠点とするコンサルティング会社PA Consultingは2018年のレポートにこう記しています。「メーカーは事業のあらゆる面を革新する必要があります。まずは研究開発に注力し、戦略的にパートナーシップを組み、アジャイルな手法を用いることで、要件を満たした製品を開発することから始めなければなりません」

自動車業界が困難に挑戦するなか、刺激的で革新的なコラボレーションがいくつか生まれる可能性があります。

英国ウェールズのカーディフ大学ビジネススクールの教授でビジネスとサステナビリティを専門とし、同スクールの自動車業界研究センター長を務めるPeter Wells氏は述べます。「自動車業界はいつの時代も非常に実利主義でしたし、この先もそうあり続けるでしょう。テクノロジー業界、エネルギー事業者、カーシェアリング事業者、その他電動化に伴う家電業界などからのさまざまな新規参入企業といった相手との、従来の業界の垣根を越えたコラボレーションが自動車業界の未来にとって重要になるでしょう」

また、企業に対する規制当局や消費者の監視の目がますます厳しくなるなか、透明性も不可欠な要素になってきます。

「自動車メーカーは社会、政治家、投資家、規制当局の信頼を維持しなくてはなりません。気候変動と炭素排出量のプレッシャーが高まるとともに、循環型経済への関心が芽生えるなか、業界とその製品やサービスの根本的な正当性が注目を集めています」とWells氏は言います。

一方、輸送・エネルギー分野のコンサルタントであるMeilhan氏は、メーカーの取り組みを支援していく上で、規制による広範囲なサポートが次の重要なステップになると考えています。

「市場の方向性を変えるため、重量のある車を販売するメーカーにペナルティーを科し、罰金として得た資金を使ってより軽い車の生産と販売を奨励し、助成するのも一つの方法だと思います。これを自動車の電化促進にも拡げ、カーボンフットプリントの基準を設け、自動車の生産に排出量の多い電力を使用するメーカーにペナルティーを科し、低炭素地域で製造するメーカーを助成する仕組みを作ってもいいでしょう」

輸送のゼロ・エミッションを実現するまでにはまだ長い道のりがあります。しかし業界全体がEUの目標に向けて取り組みを進めるなか、業界のコラボレーティブな努力が、車と環境の関係だけでなく、ネットワーク、ビジネスモデル、ひいては車の製品としてのライフサイクル全体にわたるカスタマー・エクスペリエンスも変える可能性があります。

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