卓越した性能とアートの融合

想像もしなかったドライビング体験を

Dora Laîné
25 October 2012

Gillet Automobiles社の設立者であるTony Gillet氏は、自動車レースのチャンピオンから、多くの人々から「車輪付きの芸術品」と評価されているスポーツカーのデザイナー兼ビルダーに転身しました。同社の象徴的なモデルであるVertigoにより、Gillet氏とそのチームは、ドライビングに情熱を注ぎ、かつGillet社の自動車を所有するだけの余裕のある顧客に向けて、高性能で流麗なスタイルの製品を提供してきました。

Gillet Automobiles社の設立者であるTony Gillet氏は、1970年代のビンテージ・カーによるベルギーのヒルクライム・レース選手権で何度も優勝し、パリ-ダカール・ラリーにも参戦した経験を持っています。高性能車に情熱を傾けてきた彼は次のように述べています。「最初のレースに使った車は、自分たちで組み立てたベルギー製のMeanというモデルでした。レース・キャリアを通して、世界最速の車や極めて馬力が大きい車を運転する機会を得られたのは光栄なことです。」

高性能と完璧さを常に求めてきたGillet氏には、1982年にレース・キャリアを終えたときにモーター・スポーツから離れるという選択肢はありませんでした。レース界から離れる代わりに、ロータス・スーパーセブンにならったスタイルを持つオランダ製スポーツカー、ドンカーブート(Donkervoort)のベルギー初の輸入業者となり、ドンカーブートをキットから組み立てる業務を行いました。「15年の間、Donkervoort Automobielen B.V.社のためにドンカーブートのようなスポーツカーを組み立てていたのですが、同社は事業を再編し、オランダ国内で車を生産することになりました。」そこでTony Gillet氏は、自分の発想と経験を活かし、自分が現役レース・ドライバーであったときに感じたのと同じスリルを他の人に提供しようと決心したのです。

そして数年後、Gillet Vertigoがその輝かしいデビューを飾りました。

Tony Gillet氏は、ベルギーを拠点とするGillet Automobiles社を1992年に設立し、各種の賞を獲得したVertigoを生み出しました。Vertigoという名前は、アルフレッド・ヒッチコックの同名の映画(邦題「めまい」)にちなんでいます。当時Gillet氏の娘が大学で映画の勉強をしており、アイデアを提供したのです。それぞれのVertigoは世界に1台しかなく、運転の習慣や道路条件から、インテリアのレイアウトとボディ・スタイルに至るまで、顧客の好みに合わせて100%カスタマイズされます。どのVertigoも完全にハンドメイドで、10人から成るチームによって製造されます。車には画期的なサウンド・テクノロジーが組み込まれ、好ましくないノイズをすべてキャンセルする高度なヘッドホンが装備されます。このスポーツカーは、世界中のレースファンが楽しむゲームソフト「Gran Turismo」(グランツーリスモ)にも登場しています。

忘れられないドライビング体験

「20年前に、Vertigoの最初のプロトタイプを製作しました。複合素材でできた完全なハンドメイドの超軽量スポーツ・クーペです」とGillet氏は語ります。0-100km/hの加速タイムではギネスの世界記録を14年間保持し、FIA GTチャンピオンシップのG2カテゴリーで3度の世界チャンピオン(2006年~2008年)など、多数の賞を獲得した後、Gillet氏とそのチームは5つのバージョンのVertigoを製作してきました。最新バージョンであるVertigo.5 Spiritは2011年3月に発表され、マセラティのV8エンジンを搭載しています。現在では、Vertigoは世界に30台存在しています。「多いとは言えませんね」とGillet氏は現状を認めたうえで、「しかし、どの車も完全にハンドメイドで、顧客の要望に応じてカスタマイズされています。当社は小さなチームなので、1台製作するのに最長で2年かかる場合もあります。しかしそれは、それぞれの車が世界に1台しかなく、最高の性能を発揮できるようにするための選択でした」と述べています。

Gillet氏は、Vertigoのオーナーたちを、他のタイプの高級スポーツカーを所有していて、さらに独自性や新鮮味を求めている人たちだと説明しています。「顧客が当社に目を向けるのは、フェラーリやランボルギーニはすでに持っているからです。Gilletはおそらく3台目、4台目の車です。顧客の中には著名人もいます。たとえば、当社の車をパリでの一連のコンサートに使ったフランスのロック歌手、ジョニー・アリデー氏や、実際に運転をしているモナコのアルベール2世公がいます。また、Vertigoのカスタム・バージョンを、1989年の事故で障害を負った元F1レーサー、Philippe Streiff氏向けに製作しました。彼の車はオートマチック・トランスミッションを搭載し、ジョイスティックでコントロールする仕様になっています。」この車のレーシング・バージョンは、彼にちなんで「The Gillet Vertigo Streiff」と名付けられました。「Vertigoをテストしたジャーナリストの中には、公道ではこれまでで最高のドライビング体験であったとコメントした人さえいました。」

「以前は部品を手描きでスケッチし、 その図面を持って部品加工業者のところに行っていました。 今では3Dモデルを共有しているので、 数値制御などの関連した作業も大幅に簡単になっています。」

Tony Gillet氏
Gillet Automobiles社設立者

テクノロジーに裏打ちされた技能

Vertigoは、ベルギーのナミュールにある1,000平方メートルの工場で製造されています。この小さな工場を訪れると、人の手による技能と最先端テクノロジーの組み合わせに驚かされます。「つい最近、日本から来たグループに、Vertigoの生産工場に連れて行くよう頼まれたのですが、ここがその工場だと伝えると、とても驚いていました。日本のメディアに大きく取り上げてもらえたのは言うまでもありません」とGillet氏は語ります。Gillet氏が車を製作し始めたころには3Dソフトウェアがありませんでしたが、その後、実務研修で来た学生が、3D CADをインストールしたラップトップを持ってきました。「部品を何点か設計できるか聞いてみて、アプリケーションの機能に非常に感心しました。その学生には正社員の職を提供し、それ以降はあらゆる設計作業に3Dを使い始めました。」

「サプライヤーとの連携は次のレベルに進みました。遠く離れているサプライヤーもあるため、手書きのスケッチでこちらの要望を説明するのは困難です。3Dデータを使用すれば、デジタルで表したものを簡単に送信することができ、効率が高まります。全員が、理解しやすい共通言語を話しているわけです」と語るGillet氏は、すでに将来のことを考えています。「私は、数年後には間違いなく職を退くつもりです。しかしそのときには、これまで蓄積してきたノウハウと専門知識が、この素晴らしい事業を続ける人たちの役に立つようにしたいと考えています。私が知る限り、このノウハウを活かし、それを次世代に伝えるうえで、3Dこそが最良の方法なのです。」そして、知識の伝達が確実に行われるように、Gillet Automobiles社はこの先ずっと、強烈なドライビング体験を提供する車を作り続けることでしょう。  

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