3Dデジタルモデリングの力が、より速やかな発見、品質の向上、設計と製造の簡素化、距離や部門を超えたコラボレーションと理解につながることを、これまで世界中の企業が証明してきました。現在では、フランスにおける「産業の未来(Industry of the Future)」イニシアティブに見られるように、職場や研究室での成功のためには、3Dテクノロジーの知識がますます欠かせません。このイニシアティブは、モノのインターネット(IoT)ともつながっている科学的に正確な3Dを用いて、一つの工場から都市全体までにわたる設備・施設のあらゆる側面をシミュレートし、管理することを目指しています。
3Dのトレーニングを受けた社員や研究者への需要拡大により、教育と研究の両方に3Dをどのように適用できるかの実証に向けた試験プロジェクトの機運が高まり始めています。プロジェクトの過程では、3Dが数百人の学生に向けた学習プログラムに取り入れられ、最も専門的なコースでさえ、3Dの利用によって楽しめるものになっています。同時に研究者には、世界的な課題に対する解決策の探究において、強力な新しいツールが与えられることになります。
フランスの社会的、経済的に恵まれない学生に教育、トレーニング、就業支援プログラムを提供する教育機関、Apprentis d’Auteuil校のテクノロジー教員であるJean-François Thoorens氏は、「3Dテクノロジーは、公的な学習機会から外れた学生を教室に呼び戻すという、興味深い非常に重要な役割を果たしています」と述べています。
Thoorens氏の生徒は、同校の三年目のクラス(高校に相当)で、他校の生徒が開発した車とのレースに参加するミニチュアカーを設計し、製作しています。
Thoorens氏は次のように述べています。「生徒はプロジェクトを構成するさまざまな段階全てに携わります。これには車の3Dデジタルモックアップの設計だけでなく、車そのものの製作も含まれます」さらに、生徒はマーケティング資料を作成し、競技会で車を披露するためのブースも設計して、競技会の審査員に自分たちの作業についてのプレゼンテーションを行います。
「3Dテクノロジーは、公的な学習機会から外れた学生を教室に呼び戻すという、興味深い非常に重要な役割を果たしています」
Jean-François Thoorens氏
Apprentis d’Auteuil校テクノロジー教員
プロジェクトベースの学習課題によって、生徒は「さまざまな部門が協力して、設計上の選択肢や技術についてアイデアや意見を共有する方法と、現実の状況で実行する必要があり、生徒が就職市場に参加するときには習熟しておくべき全ての活動を経験する」のだとThoorens氏は述べています。
3D設計ツールの利用は、作業に対する生徒の熱意を呼び起こし、学生が成功を収める可能性を高めています。
「3D設計ソフトウェアを使って車を作るのが本当に好きです」と述べたのは、Thoorens氏のクラスに在籍する生徒のAlassane Gueye氏です。「グループとして他の人と協力してアイデアを共有し、設計が3次元で実物のようになるのを見るのは楽しいです。私は現在、卒業したらどのようなキャリアをたどるかを決める過程にいるため、このようなプロジェクトはとてもやる気をかき立てられるし、新しい将来の見通しが開けてきます」
Thoorens氏のクラスに在籍する別の生徒、Alexandre Petit氏は、他の人とどのように協力して共通の目標を達成するかを学べることが、このプロジェクトの貴重な側面だと述べています。「私は、将来自分がやりたいことはこれだ、と確信しています。このプロジェクトはエンジニアになる方法を教えてくれましたが、何よりも、チームで仕事をする方法を学びました」(Petit氏)
製作し、測定し、学習する
Base 11は米国カリフォルニア州を拠点とする組織で、その主な目標として、より多くの学生が科学、テクノロジー、工学、数学(STEM)の分野のキャリアを選択すること、または学生が起業家となって独自に会社を始めることを奨励しています。Base 11は、STEM分野でのトレーニングを受けた従業員不足を深刻にとらえている米国の多数の産業界と共に、学費不足の学生がSTEM分野のトレーニングを通して各自の潜在能力を十分に発揮し、高給与の職を見つける機会を作り出すことに注力しています。
Base 11のCEOを務めるLandon Taylor氏は次のように述べています。「女性とマイノリティーの登用が進まないことが、米国のSTEM分野における人材供給の流れのギャップを広げていますが、私どもBase 11の使命は、そうしたこれまで登用しきれていなかった人材を、産業界と米国が切望してやまないスキルを持つ労働力へと転換することです。私たちは、2020年までに、STEM分野のトレーニングを受けた卒業生を11,000人生み出すことを目標としています」
学生がSTEM分野の学術研究を進め、自分のキャリア形成に向けて準備する上で、3Dソリューションは助けになっている、とTaylor氏は述べています。「3Dが有効なのは、他の学生と協力して作業し、私たちが教えている事柄を実際に最後までやり抜くこと、すなわち、製作し、測定し、知識や技能を身につけることが実際にできるようになるためです。仮想環境で作業する機会があれば、(作成途中のモノを)いじり回して修理することができます。学費が払えない学生にとって、通常、そのような機会がありません。モノを壊してしまえば、それをもう一度作り直す機会はないのです。その結果、彼らは後れを取ります。3D仮想環境で作業することによって、繰り返して、習得し、測定して、成長する力が得られるのです。それが彼らのモチベーションと自信を高めることになり、それゆえに、スキルセットも向上することになります」(Taylor氏)
Base 11はカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の工学部と提携し、低所得ながら学力が優れている学生がUCIで学べるようにしています。
「3Dが有効なのは、他の学生と協力して作業し、私たちが教えている事柄を実際に最後までやり抜くこと、すなわち、製作し、測定し、知識や技能を身につけることが実際にできるようになるためです」
Landon Taylor氏
Base 11、CEO
工学部で「アクセス&インクルージョン」(訳注:より広い層への機会の提供、ならびにその受容)の業務を担当する副学部長のSharnnia Artis氏は、次のように述べています。「この提携によって、彼らには工学、設計、そして問題解決において実践的経験を積む機会が与えられます。当校の学生の多くは、入学したときに、世の中にはどのような種類の3Dテクノロジーがあるか、まったく分っていません。ですので、産業界で使用されている3Dのテクノロジーとツールを自由に使えるようにするだけで、刺激を受けて学習意欲が高まります」
UCIとBase 11は、自律システム工学アカデミー(Autonomous Systems Engineering Academy)という研究室を設けて、学生に実践的なプロジェクトベースの学習機会を提供しています。
Artis氏は次のように述べています。「この研究室で、学生はアイデアを製品化することができます。設計段階では、自分のアイデアを3Dで概念化することができ、その後は、それを3Dプリント可能な形式にして、用意されているレーザーテクノロジーを使用して形あるものにするのです。学生は、卒業するときには既に、産業界で使用されているのと同じツールの使用方法を熟知しているので、職場の一員になったときには手間取らずに業務を始めることになります」
Gregory Washington博士は、UCI工学部の学部長です。
「昨年このプログラムに参加した最初の学生のグループは感動していました。彼らは3D CADを使用して設計と工学の原理を利用し、自律型のドローンを製作する方法を学びました。この過程を通して、学生は航空力学の原理、コンピュータ科学、基本的な電子工学を学び、このようなマシンを文字通りゼロから製作しました。少々熱意に欠け、少し不安げに加わった学生たちが、『私はできるんだ、これは実行可能なんだ』とわかって卒業するのを見ると、大きな満足感を味わえます。3Dツールがなければ、将来のエンジニアに期待される成果を得ることはできません」(Washington博士)
臨床治療に向けて
英国シェフィールド大学の研究者たちは、3Dテクノロジーを利用して医療研究に突破口を開こうとしています。具体的には、3Dでのモデリングとシミュレーションを通して、臨床上の処置の結果を予測します。
計算生体力学の講師であるAlberto Marzo氏は次のように述べています。「計算モデリングとバーチャル・リアリティは、工学、医療、生物学、テクノロジーの多くの側面に取り入れられつつあります。3D仮想モデルではモデルデータの文脈付け(外部ソースなどへのリンク付け)が行われるため、工学と医学の分野を橋渡しする助けになります。こうしたリンクがあれば、非工学分野の関係者にモデルデータの利用を広めることができます」
その他のプロジェクトの一つとして、Marzo氏とそのチームは、頭蓋内動脈瘤と呼ばれる脳血管の状態の治療法について研究しています。
「頭蓋内動脈瘤は、深刻な結果が生じる可能性がある異常な血管の膨張で、破裂すると出血を脳内に引き起こし、最悪の場合では死に至ります。学生は3Dのバーチャル・リアリティを利用し、コンピュータによる各患者に合わせた臨床手技の開発を通じて患者の解剖学的構造を理解し、実際に患者に対してその治療を実行する前に治療の結果を予測します」(Marzo氏)
シェフィールド大学とシェフィールドの私立病院(Sheffield Teaching Hospitals NHS Foundation Trust)との間のイニシアティブである「Insigneo Institute for in silico Medicine」は、新しい3Dテクノロジーを、医療機器の設計や病気の治療に適用しています。
「私たちは、新しい学生が将来エンジニア兼研究者になるようにトレーニングすることをめざしています」
Damien Lacroix博士
シェフィールド大学、メカノバイオロジー教授
シェフィールド大学メカノバイオロジーの教授であり、Insigneoの研究部門ディレクターも務めるDamien Lacroix博士は次のように述べています。「私たちは、新しい学生が将来エンジニア兼研究者になるようにトレーニングすることを目指しています。そうすることで、臨床状況で新しいテクノロジーを実際に使用できるようになります」
Insigneoの研究助手であるKyle Murdock氏にとって、3Dは研究と教育の両方に役立っています。
「3D世界では、さまざまなオブジェクトや概念を同時に分析できるコラボレーション領域が作り出され、バーチャル・リアリティの中で教えることで知識が深まるために、授業の取り組みの中でもより詳しく教えることができます。もし3Dを利用できない、となると、医師や学生と複雑な生理学的概念について議論できる手段は限られてしまいます」(Murdock氏)
3Dは、臨床医がより多くの情報に基づいて決断を下すことにも役立ち、それが患者にとってより良い結果を生むとMarzo氏は述べています。
「非常に高度なバーチャル・リアリティ環境で、3Dシミュレーションモデルを使用して病気の診断、処置、または監視を行えば、臨床医はどの治療法が各患者にとって最適であるかについて、経験的プロセスではなく工学原理を頼りにして、より多くの情報に基づいた決定を下すことができます。医療を一変させる潜在力は相当なものです」(Marzo氏)
この記事で取り上げたプロジェクトは全て、ダッソー・システムズの基金であるラ・フォンダシオン・ダッソー・システムズ (La Fondation Dassault Systèmes) から、教育または研究の助成金を受けています。 ラ・フォンダシオンは、学校、大学、研究センター、およびその他の非営利組織が3D仮想テクノロジーを自らの組織のプロセスに適用し、同じ分野の他の人たちと学識を共有する際に支援を提供し、学習と研究のエクスペリエンスに変革をもたらすことに貢献しています。ラ・フォンダシオンの目標は、学習エクスペリエンスに変革をもたらすこと、教育者が科学、テクノロジー、工学、数学を教えることに対する全体論的な3Dベースのアプローチを通して卒業生の雇用適性を高めることを支援すること、そして、研究や知的遺産のプロジェクトに3Dを適用することで、知識の限界をさらに広げることです。 詳細情報: http://3ds.one/lafondationLa Fondation Dassault Systèmes