「埋め込み型」の電子部品

タッチテクノロジーがボタンを滑らかで目立たないコントロールパネルに置き換える

Rebecca Lambert
12 August 2020

家電のスマート化、コネクテッド化、タッチ式対応は止まりません。射出成形構造エレクトロニクス(IMSE:Injection Molded Structural Electronics)のおかげで、まもなく車のアームレストからドアロックなども同等の機能を持つようになるでしょう。IMSEは電子回路と機能を3D構造の一部として取り込むもので、機械式のボタンやスイッチを廃しながら、同等の機能を備えた流線形のエレガントなプロダクトデザインを可能にします。

スマートロックのメーカーである PassiveBolt社のおかげで、住宅の所有者はもうすぐタッチするだけで開錠できるようになります。米ミシガン州アナーバーに拠点を置くPassiveBolt社は、自動車グレードの技術を利用して既存のデッドボルト型の錠前をタッチ式デバイスへと一新させました。PassiveBolt社のShepherd Lockは、その工学および設計品質により コンシューマエレクトロニクスショー(CES:Consumer Electronics Show)2020のスマートホーム部門でイノベーションアワード を受賞し、今年発売予定です。

米PassiveBolt社のShepherd Lockキーレスエントリーシステムは、競争の激しいスマートホーム部門でCES 2020イノベーションアワードを受賞しました。構造と電子機能を兼ね備えた見た目のよいスマートカバーサーフェスには、静電容量式タッチ制御、外部接続用の導体パッド、ロック状態を示すLEDが含まれています。(Image © TaktoTec)

Shepherd Lockでは、キーレスカーエントリーと同様に、スマートフォンやポケットにバーチャルキーがあれば、住人はスマートサーフェスを触るだけでドアの施錠・開錠ができます。また、モバイルアプリでロックの状態を調べることもでき、不審者が侵入しようとしたりロックを解除しようとしたりすると、デバイスが住人に警告し、ロックが解除されないようにします。

このスマートロックの滑らかでシンプルなデザインは、フィンランドのオウルにある TactoTek 社が開発したインモールドエレクトロニクス(IME:In-Mold Electronics)技術のおかげで可能になっています。TaktoTek社はIME技術をIMSE(Injection Molded Structural Electronics:射出成形構造エレクトロニクス)と呼んでおり、この技術は従来の方法では不可能であった箇所に電子部品を配置し、タッチに反応する薄い射出成形プラスチック内に機能を封入します。その結果、振動、砂塵、湿気から保護され、厚さと重さを大幅に削減した滑らかで上品なスマートサーフェスになります。

「このようなシームレスなデザインを実現するには、タッチセンサーとフィードバッグLEDをカバーの表面に埋め込むしかありません」と、PassiveBolt社の共同創設者Kabir Maiga氏は語ります。「IMSEは、このようなデザインを引き出す解決策だったのです」

IMSEによる新たなデザインの可能性

子供が車の窓開閉ボタン周りにこぼしたクラッカーのくずを掃除しようとしたことがあるなら、従来の機械式制御のデメリットはご存じでしょう。デザイナーも機械式制御は嫌いです。邪魔な上に、滑らかでゆったりした空間が乱雑に見えるからです。IMSEはタッチ対応制御を薄い滑らかな表面の下に隠すため、くずがたまることも乱雑に見えることもありません。これにより、従来の電子構造を収めるには薄すぎた車のドアトリムやカバーパネルなども、タッチひとつで表示ライトやその他の電子機能を制御できる美しい表面に変わります。

「IMSE部品はスマートな成形構造なので、電子装置が構造そのものの一部になります」と、TactoTek社のマーケティング部門シニアバイスプレジデントDave Rice氏は述べています。「通常は2~3.5ミリ(0.07~0.13インチ)の厚さで、一体化した3D部品ひとつとして射出成形されます」

IMSEにより、PassiveBolt社のようなメーカーは以前には不可能だった、スタイルと機能の両方を備えた画期的な製品を生み出せます。

「IMSEにより、メカトロニクス設計を簡略化できます」と、PassiveBolt社のMaiga氏は言います。「電子部品と機械部品を1つに統合できるので、機械的な積み上げをかなり簡単に表現し、製造しなければいけない部品数を削減し、設計の選択肢が大幅に増えます」

IMEの産業化

長年にわたる開発の後、IME技術(電子回路と熱成形や成形を統合するための一般的な業界用語)は、いよいよ消費財、家電製品、自動車の領域に進出しています。

「IMEで作られた部品を設計、製造、または統合できることは、世界中の多くの企業にとって戦略的なノウハウおよび能力となります」と、英国のマーケットリサーチ会社IDTechEx社は2019年のレポート『In-Mold Electronics 2019-2029: Technology, Market Forecasts, Players(インモールドエレクトロニクス2019-2029:技術、市場予測、主要企業)』で述べています。

IMSE技術を使った自動車用オーバーヘッド制御パネル。静電容量式タッチ制御、受動的触覚、表示ライトを備え、厚さ3.5mmで重さがたった200グラムのシームレスな成形パッケージ。(Image © TaktoTec)

しかし、それを実現するにはデザイナーとエンジニアが適切に統合された部品の設計方法を学ばなければいけませんと、TactoTek社のRice氏は述べています。

「市場で成功するには、IMSE技術が予測可能で、信頼性があり、経済的でなければいけません」と、Rice氏は語ります。「それには、IMSE部品で使われている材料と電子部品、IMSE製造工程での相互作用、さらにはそれらを使用するための設計規則について深い知識が必要です」

そのために、TactoTek社はIMSE Builderというものを提供しているとRice氏は言います。「テストと分析を通じて、有効な設計規則、材料と部品、製造工程制御、テストおよび品質保証手法を作成して文書化しています。TactoTek社は、IMSE部品を量産する他のメーカーに特許とノウハウの使用許可を与え、各メーカーがIMSE技術を使用してできることを理解する手助けをしています。各社は、それぞれの設計ビジョンと創造性を活用して実現しています」

増えてきた用途

その結果、OEMメーカーやデザイナーは、TactoTek社の技術を利用して革新的な新製品や高付加価値の差別化されたユーザーエクスペリエンスを開発し始めています。

「当社の顧客の主要な用途は制御パネルです。タッチボタン、直線式および回転式のスライダ制御、デバイスを『起動』する近接センサー、アイコンや状態の表示とスタイリングのための表示ライトなどです」と、Rice氏は述べています。「コーヒーメーカーから食洗器、工業用制御から車のオーバーヘッド制御パネルにいたるまで、このようなマンマシン・インターフェースはとても人気があります」

例えば、フィンランドのスポーツウォッチメーカーSuunto社は、同社のMovesense活動量計にTactoTek社のIMSE技術を使っています。Movesense活動量計は、直径36.576ミリ(1.44インチ)、重さ9.92グラム(0.35オンス)のセンサーで、衣服、靴、スポーツ用品、さらには犬の首輪にも埋め込んで活動を追跡できます。Suunto社は、薄い構造、耐久性、コストパフォーマンスによりIMSEを選びました

「Suunto社では、このセンサーが10,000回の屈曲(当社の試験装置ではセンサーは70,000回以上持ちこたえた後に壊れました)と50回の洗濯に耐えなければいけないと規定しています」と、Rice氏は言います。「これは、エンジニアがIMSE技術にもたらしている創造性の一端を示しています」

まもなく、自動車市場におけるTactoTek社の顧客企業は何百万台もの車に搭載される予定のIMSE部品を公開するでしょう。「この事例や、その他の大きく異なる事例がありますが、これらはおそらく今後2、3年で量産車に登場するでしょう」と、Rice氏は語ります。「このようなソリューションの大半は、機能とスタイリングのための表示ライト、静電容量式タッチ制御、電気回路、そして場合によっては接続のためのプリントアンテナを含むマンマシン・インターフェースです」

集まる熱視線

近い将来にはさらに多くのIMSEデザインが期待できます。CAD開発者は設計ソフトウェアにIMSE技術のサポートを組み込み始めており、デザイナーとエンジニアが製品にIMSEを組み入れやすくなり、IMSE技術の認知度をさらに高めます。

IMSE技術は、木目表面上に静電容量式タッチ制御と表示ライトを備えた表面を実現します。(Image © TaktoTec)

一例として、PassiveBolt社はIMSEがどのようにしてスマートホーム市場を劇的に変化させ、製品の差別化に役立てるのかを調べ続けています。

「IMSEを使うと、設備を変更することなく顧客のブランド戦略に基づいてスマートサーフェスを簡単にカスタマイズでき、時間と費用を節約します」と、Maiga氏は述べています。「また、近日発売のいくつかの製品でスマートサーフェスデザインを活用する予定です。IMSEは、よりシンプルなデザインとユーザーエクスペリエンスの改善に役立ちます」

ダッソー・システムズのISMEソリューションに関する詳細

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