1968年、カウンターカルチャー華やかなりし頃、米国の犯罪捜査TVドラマシリーズ『モッズ特捜隊』が、ある画期的なコンセプトを初めて採用しました。それは、社会からはみだした反抗的なヒッピーの若者たちをいかに説得し、警察のために働かせるかというものです。「時代は変わりゆくものだ」とは、その若者たちをスカウトした、厳しくも優しい警部のセリフ。「彼らは、われわれには無理な場所へ足を踏み入れることができる」
それから50年後。警察が仕事を片付けるために世慣れた若者を求める代わりに、今度は鉱業・エネルギー・石油・ガス企業が、収益の停滞、電力市場の競争の激しさ、規制の強化、世評の悪化、そして高齢化し引退を目前に控えた労働者の多さに悩まされている産業へと、テクノロジーに精通した若い世代を引き寄せようとしています。
労働者の引き寄せ
これは陳腐な例え話に聞こえるかもしれませんが、課題は深刻です。コンシューマーの行動の変化、環境意識の高まり、若い世代の求職者がキャリアに対して抱く期待の進化を受けて、エネルギー部門の企業は、人的資源への取り組み方を再考せざるを得なくなっています。
「人材の採用と定着に関しては、絶えず難しい状態にあります」と話すのは、トルコの金属・鉱業企業Yilmaden Holding社のCEOを務めるAlp Malazgirt氏です。Malazgirt氏は近年、一連の買収を通じて同社の事業を6カ国に拡大するための舵取りに寄与しました。「いかにして人材を引き寄せ、定着させるべきか。それは、世界的な問題として常に存在しているように思われます。そして、この問題は、限られた人材で事業をいかに成長させるかという課題を提起しているのです」
例えば、Nuclear Industry Institute(原子力産業研究所)の報告によれば、世界全体の電力の11%を生産している世界の原子力発電産業は、代替電力供給業者、厳しさを増す規制、安全性に対する世間一般の根強い懸念といった、多方向からの圧力にさいなまれています。しかし、同研究所の報告によると、原子力エネルギー企業の経営幹部が真に恐れているのは、世界の原子力発電産業で働く人の40%近く――公益産業全体では50%もの労働者――が、今後数年で引退を迎えてしまうということ。その穴を埋めるために、企業は今後4年間で2万人を採用する必要があります。ところが経営幹部たちは、優秀な若者の多くが公益部門で働きたいとは到底思わないのではないかと危惧しているのです。
業界のある販売担当幹部は、オンライン産業フォーラムのEnergy Centralに、「ミレニアル世代はこうした業界を、古くて堅苦しく創造性に欠けると考えている」と投稿しています。
今日の若者の多くが公益産業を、環境に無関心で、文化的に硬直し、利益ばかり追求していると白眼視していることについては、人事担当幹部も業界アナリストも認めるところです。つまり、多くの若者にとって、公益企業で働く可能性は倫理的にありえないのです。
62歳のKen Ester氏は、米国を拠点とする世界最大手の公益企業Duke Energy社のIT通信部門に24年間勤務しました。「採用されたときは、すごいことだと思いました」と、Ester氏。「給料と手当は申し分なく、30年働けば引退できるのです。現代のミレニアル世代には、そのような意識はありません。それは、いかに素晴らしい企業であろうと同じです」
むしろ若い従業員は、同じ会社の中やさまざまな組織の間で職を転々とすることによって、スキルを磨きキャリアを積む傾向があるとEster氏は述べています。Duke社で全12人のチームをマネジメントし、2016年に早期退職したEster氏は、そうした意識に適応する術を身に付けました。ただし、それには代償が伴ったといいます。
40%
世界の原子力発電産業において、今後数年間で引退を迎える労働者の割合。
「若い働き手は新しいアイデアを実行したがりますが、マネージャーは安定性を保たなければなりません」と、Ester氏。「そのことに若者は不満を覚える可能性があります。マネージャーとしての私の理念は、部下があちこち動き回りたいならそうさせるべきだというものです。しかし、そうさせると必ず効率が落ちます。スピードが上がるまでには時間がかかるのです」
鉱業企業のCEOであるMalazgirt氏も、同じ意見です。例えば、Malazgirt氏の会社による何件かの複雑な買収をマネジメントしたチームはいずれも有能な財務の専門家から構成されていましたが、これらのチームは離職率が社内最高レベルでした。「そうした人材は意欲的ですが、ひとたびプロジェクトが終わると、次の刺激的なプロジェクトに移りたがるのです」
採用の前にまず時代に適応すべし
世界的なコンサルティングファームであるデロイト社は、7回目となる「デロイト ミレニアル年次調査」において、優秀な若い人材の採用を目指す企業が理解しなければならないことを明らかにしました。それは、若い世代全体はテクノロジーに精通している一方で、インダストリー4.0やロボット工学、人工知能、環境悪化、社会的不平等、政情不安を目の当たりにして、将来に不安を抱いているということです。
同調査によれば、企業は新世代の人材にアプローチするために、これまでにない方法に目を向けつつあります。SAP社の公益事業担当バイスプレジデントを務めるLloyd Adams氏いわく、多くの公益企業は、文化的多様性に重点を置いているとのこと。中には、Jack Welch氏がGE社のCEOを務めていた1990年代末に世に広めた、リバースメンタリングを検討している企業も存在します。Welch氏は当時、トップ経営陣に対し、若手従業員とパートナーを組んでインターネットについて学ぶことを求めました。また、テクノロジーは日進月歩であるため、絶えず新しい知識を習得しなければなりませんが、そうすることによって従業員の好奇心と創造性を活用する機会も生まれます。
「いかにして次世代を引き寄せ、定着させるべきか」と、Malazgirt氏はあえて問うように語ります。「それは容易なことではありません。しかし、私自身の離職率は社内で最低です。なぜなら、私はトレーニングと、私が『デジタルスキルアップ』と呼ぶことに時間をかけているからです。うちに来て働いてくれる人を見つけるのは、今よりも昔のほうがずっと難しかったと思います」
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