エネルギー・プロセス産業

めまぐるしく変わるエネルギー産業:変化に時間を要する業界に拍車をかける

Dan Headrick
7 May 2015

評論家は、環境汚染、資源の減少、および原発事故が、石炭、石油、天然ガス、ウランによる発電事業の消滅につながると長期的な予測をしています。

Johannes Teyssen氏は、たとえばドライバーが自家用車(BMW製電気自動車)のバッテリーに太陽光発電で余った電力を蓄えておき、IoTの情報通信機能を介して売電単価が知らされ、価格の上昇時には電気を電力会社に売ったり、下降時には自宅の電気洗濯機を動かしたりできる設定も可能になる、とみています。

2014年11月、ドイツ大手電力会社のE.ON社 CEO、Teyssen氏は、同社の中核をなす原子力と化石燃料による発電・送電事業を分離独立させるという大胆な計画を発表しました。ただし、これらの事業の売却は、評論家が予測してきた、こうした燃料が危険で汚染源になるとういう理由からではなく、めまぐるしく変わるエネルギー産業市場ではもはや生き残ることが難しいという背景のから売却されたのです。同氏は、この売却から得た利益を、スマートメーターの導入、コンサルティングサービス、再生可能エネルギーの供給など「顧客ソリューション」に向けようとしています。

分散型発電

アナリストは、電力会社主体の配電システムと、消費者主体の成長を続ける数々の制御システムおよびエネルギー管理テクノロジーの接点を、「グリッド・エッジ」と呼んでいます。E.ON社は「グリッド・エッジ」を、急速に変化するエネルギー市場においてもっとも競争に適した分野と位置付けています。

米国に本拠を置くHarris Williams & Company社の資本・買収顧問、Andrew Spitzer氏は次のように語っています。「活発な動きを見せていなかった業界としては、とても活力に満ちています。電力会社がどのように対処するのかが、まさに今後の見どころとなるでしょう。電力業界はこれまで、かなり低迷しており、調整にも時間を要していました」

文中囲み「活発な動きを見せていなかった業界としては、とても活力に満ちています」

ANDREW SPITZER氏
Harris Williams & Company社、資本・買収顧問

今まで変化に時間を要していたエネルギー産業の急速な変化は潮流といえます。分散型エネルギー技術の向上、二酸化炭素の排出規制、インターネットに接続されたスマートグリッド等が次々と実現し、グローバルな投資戦略は再生可能エネルギーに向かってシフトしたことで、化石燃料や原子力で実績のある電力会社のビジネス環境が変わってきています。

Google社やApple社のような知名度の高いハイテク企業も、電力の収益化を狙い新たに参入してきています。たとえば、2014年にGoogle社は、インターネットに接続してエネルギー使用量を管理できる家庭用室温制御装置(サーモスタット)の製造開発元、Nest Labs社を買収しました。ボストンに拠点を置いてエネルギー産業向けにインテリジェンスソフトウエアを販売するEnerNOC社は、顧客が使用量データを分析して節電できるようにするために、カナダのスタートアップ企業、Pulse Energy社を買収しました。Apple社のHome Kitは、家庭や企業におけるエネルギー需要管理をターゲットにしています。

新たなエネルギー戦略

エネルギー市場に適用されるルールもまた、新規参入企業による新しいコモディティ取引に対応するかたちで変化しています。こうしたルールには、各種手順や法的な権利、価格設定条件、また方針や明確に定められた原価配分などがあります。ルールが変わるにつれて、電力会社や規制当局はこれまでにはなかったビジネスモデルやマーケットプラットフォームを試し始めています。

たとえばデンマークとオランダで実施されているパイロットプログラムでは、ローカルのエネルギー市場を通してほぼリアルタイムで取引する、ピアベースのエネルギーグリッドを実際に試しています。どちらの国のプログラムも、マイクロCHP(熱電併給)システムやスマート家電、スマートメーター、電気自動車、屋上用太陽光発電システムを活用しています。マーケットプラットフォーム用のソフトウエアシステムも導入され、分散クラスタ内の需要と供給のバランスを取っています。

また、ドイツやイギリス、ニュージーランドでは、規制当局が配電システムのコストを抑えるために、価格設定や奨励金の新たな制度を実験的に実施しています。米国テキサス州オースティンでは、送配電ロス、発電量、送電・配電量、環境保全上の利点に対する影響を含めて、太陽光電力を送電網に供給する際の正味価額を反映するために設けられた太陽光発電買い取り制度を採用しました。

With help from government subsidies and a supportive regulatory environment, alternative energy installations such as wind and solar can be put into service quickly. (©f9photos/istock)

ヨーロッパ諸国の多くでは、かなり前からさまざまな電力供給事業者から電力を購入できるようになっています。一方で、米国で電力事業に競争原理が働くようになったのは比較的最近の出来事です。総人口3億2,000万人の米国では、現在、24の州で1,300万人以上の消費者が、規制は有るものの競争原理が働く電力小売市場を通じて電力供給を受けています。効率的で持続可能なリソース利用の促進を目指している非営利研究・教育財団、Rocky Mountain Instituteによると、こうした市場は規制当局が適切な奨励金を出せば、送電網で価額ベースの取引を行える分散リソース用プラットフォームを提供できるようになります。言い換えれば、さまざまな役割を持つ複数の関係者の間で、情報、電力、取引が多方面にわたって流れるようになります。発電、配電、消費、エネルギー価格、電力の品質、送電網の信頼性は、こうしたすべての関係者の動向によって左右されるため、政府が新しい料金政策や規制、奨励金を導入してすべての当事者の間でコストのバランスを取ることが前提となります。

代替エネルギーは新参者

今のところ代替エネルギーは、単に目新しいというだけで恩恵を受けているという見方は否めません。

米国に拠点を置く非営利電力研究所(EPRI)で先進原子力技術プログラムのシニア・テクニカル・リーダーを務めるAndrew Sowder氏は、次のように語っています。「再生可能エネルギーのコストには強力なバックボーン、つまり雲の状態や風の強さなど気象条件が変化した時にも確実に電力を供給してくれるインフラが含まれていません。再生可能エネルギーに関しては、引き続きその電力の品質について憂慮する段階にあります。そのため電力貯蔵技術、すなわちバッテリーが必要なのです。燃料電池やバッテリーの技術は進歩しています。これからも進歩し続けると考えるのは当然のことで、投資家はそれを見極めて勝負しなければなりません。うまくいくかもしれませんが、うまくいかなかった場合はどうなるのでしょう。」

文中囲み「再生可能エネルギーのコストには強力なバックボーン、つまり雲の状態や風の強さなど気象条件が変化した時にも確実に電力を供給してくれるインフラが含まれていません」

ANDREW SOWDER氏
電力研究所(EPRI)、先進原子力技術プログラム、シニア・テクニカル・リーダー

Sowder氏によると、こうした状況では、従来の原子力や石炭などの発電施設が、不安定な再生可能エネルギーのバックアップとしての役割を果たすことになります。

今日のエネルギー産業は急速に変化しており、電力会社にとっての大きな課題はテクノロジーのレベルではなく、その先にあります。電力会社はエネルギーの変革をリードするために、さらに進歩する必要があり、そうしなければ市場に参入できず、ただ傍観しているだけになります。「課題は、適切なリスク選好度で人々の関心を集めることです。商業的な側面からの魅力も必要で、それは電力会社が投資対効果をどう見るかということです」とSowder氏は語っています。

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