Energy, process & utilities

気候変動

Dan Headrick
22 May 2016

2015年パリ気候会議(COP21)に対する関 心のほとんどが、法的拘束力のある協定を 締結し、世界的な気候変動の課題に取り組 むことに集中していました。いっぽう科学技 術者の動きは素早く、実績ある技法を幅広 く実践することを強く要求していました。

2015年に開催された第21回気候変 動枠組条約締約国会議(いわゆる COP21)では、195ヵ国が、世界初の法 的拘束力のある世界的気候協定を採択しま した。しかし、英ブルネル大学ロンドンの工 学部長であるStefaan Simons氏は、協定よ りも、講演を行ったイベント会場に収まりき らないほどのオーディエンスに目を奪われ ていました。熱意を持って集まった技術者た ちは、気候変動との闘いに対する答えの多く は既にあると確信していたのです。

"Simons氏は、各政府が今後数十年間で二酸 化炭素(CO2)排出量の大幅な抑制を約束し
たCOP21について、以下のように述べまし た。「参加者の間には、この課題にボトムアッ プで取り組もうという意欲が見られました。 技術者から成るネットワークを代表した数 多くのグループが存在し、『そうだ、我々には 技術がある。ぐずぐずせずにやるべきことを やろう。我々は実務を得意としているからこ そ、きっと実行できる』といった発言が続き ました。これについて懐疑的に思えるかもし れません。多くの人も同様に感じるでしょう が、COP21では、ぐずぐずせずにやるべきこ とをやらなければならないという認識が共 有されたのです」"

アイデアの世界

的確な解決策を実現することで、人類が地 球に及ぼす影響をいかに小さくできるかと いう示唆的な例が、世界各地で出現してい ます。

一日の気温が1.6~40℃まで大きく変化する アフリカ・ジンバブエの草原では、シロアリ は小高い蟻塚を作って、自らが食料とする菌 類の培養に必要な内部気温を維持していま す。同国最大の都市であるハラレに作られ た複合商業施設であるイーストゲートセン ター(Eastgate Centre)では、建築家と技術 者が施設の設計に際し、こうした蟻塚の自己 冷却や自己発熱を参考にしています。この構 造だと、エネルギーの消費量は、同じ規模の ビルで従来必要とされた量の10%未満で済 みます。温室効果ガスを大幅に削減できる ほか、同地域の従来のビルと比較した場合 に、同等のスペースで賃貸料を20%軽減で き、オーナーは毎年、非常に多額の空調費用 を抑えることができます。

View of the metropolitan cable railway linking El Alto with La Paz in Bolivia (Image © Delkoo / Fotolia)

海抜4,100メートルを超えるアンデス山脈に あるボリビアの都市エル・アルトは、首都ラ パスを500メートル下に見下ろす高地に位 置しています。農家が農作物の販売と生活
必需品の購入のためにバスで首都へ移動す るのに、1時間かかることもあります。ここに ロープウェイを新設することで、移動時間を 10~17分に短縮でき、列車やバスに比べて 費用も大幅に削減できます。
一方、スペイン・バルセロナの活気に満ちた 通りでは、モノのインターネット(IoT)を活用 している都市プランナーが、バス、バス停、自 動車、駐車場、街灯に設置したコンピュータ やセンサーを、ダイナミックな中央管理シス テムと統合し、交通渋滞のリスク削減、自動 車の排ガス低減、電力およびエネルギーコ ストの削減、ゴミ収集の改善、緊急対応の最 適化を図っています。

中心となる都市の役割

「都市は成功を左右するポイントであり、経 済活動の中心、気候変動問題の中心です」 と、アラップ(Arup)グループのBrian Swett 氏(シティ&サステイナブル・リアルエステー トディレクター、南北アメリカ)は強調します。 アラップグループは、都市の設計、計画、エン ジニアリング、コンサルティングおよびエン ジニアリング・サービスをグローバルに展開 する企業です。前述のハレルでシロアリから 着想を得たイーストゲートセンターを設計し たアラップは、最近、C40世界大都市気候先 導グループとの共同調査を発表しました。そ の調査では、66の都市および大都市が既に 着手している、気候変動に影響を及ぼす具 体的な対策について詳しく説明しています。

「市長たちはさらにリーダーシップを発揮し ており、COP21の会議では主導的な地位を 獲得しました。COP21は、各国代表が集う最 大の場であるとともに、各市長が集う最大 の場でした。これは驚異的なことです」と、 Swett氏は続けます。

地下深くから冷気を取り込んで循環させるシロアリのアリ塚に着想を得た、ジンバブエのハラレにあるショッピング センターとオフィスビルの複合施設イーストゲートセンターでは、従来の同じ規模のビルで必要としたエネルギーの 10%未満で済む。(Image: © Arup)

専門家によれば、地球の人口は2050年まで に95億人を超え、その70~80%は都市に居 住することになると予測されています。都市 は世界の陸地のわずか3%にすぎないもの の、世界の温室効果ガスのうち最大80%を 排出し、全天然資源の75%を消費し、世界 の廃棄物全体の半分を発生させています。 「我々の世代でこの問題を解決しなければ なりません」と、Swett氏は述べています。

気候へのスマートな対処

スマートホームからスマートカーまで、技術 とそれを利用する人は既に、わずかではあ るが何百もの点で気候改善の取り組みに貢 献しているといえます。ここで大切なことは、うまく機能している技術を大規模に展開す ることであると、専門家は指摘しています。

「スマートホームやスマートビルディング は、デジタル技術を用いてエネルギー消費 を削減し、再生可能エネルギーへの適切な 統合を図っています。世界中の数多くの公益 事業が、電気自動車の開発や分散資源など の再生可能エネルギーによる充電に非常に 積極的な役割を担っていることについて考 えてみてください」と、IDC Energy Insightの アソシエートバイスプレジデント兼EMEA地 域の責任者であるRoberta Bigliani氏は述 べています。

“「まさに議論している規模の変化を 起こすためには、3つの大きな 『てこ』を利用する必要があります。 技術、資金調達、政策の3つです」”

JOEL MAKOWER氏
米カリフォルニア州に拠点を置くGreenBizグループの 会長兼編集責任者

たとえば、米カリフォルニア州のSan Diego Gas & Electric社では、2025年までに150万 台の無公害車を普及させるという州の目標 の一部として、電気自動車(EV)に接続する 充電ステーションを3,500基設置することを 計画しています。「公益事業は社会の脱炭 素化において基盤となる役割を果たしてい ます。そうした事業は、消費者の行動にポジ ティブなインパクトを与えるのに一役買うこ とができます」と、Bigliani氏は加えます。

エネルギー革新によって、農業も農場から都 市へと移行を進めており、輸送の必要性が 低下し、それに伴って炭素放出量も減ってい ます。例を挙げると、シンガポールは2015年に果 物と野菜の90%を輸入していますが、パナ ソニックファクトリーソリューションズ アジ アパシフィックは、屋内で土壌を使用したハ イテク野菜栽培を開始しました。シャープも 同様の事業を展開し、ドバイでイチゴを育 てています。ソニー、東芝、富士通はそれぞ れ国内の半導体工場を転用し、従来の田畑 での二倍以上の生産速度で、地方市場向け の水耕野菜栽培を行っています。米国では、 Green Sense Farmsが、日光、土壌、雨、農 薬、除草剤を必要とせずに、インディアナ州 の約2,800平方メートルの倉庫で、レタス、 ケール、ルッコラ、ハーブなど年間26種の野 菜類を生産しています。「中国に100ヵ所、米国に50ヵ所の農園を 計画しています。屋内栽培であるため、天 候や日光を考慮する必要がなくなりまし た」と、同社の創業者兼CEOであるRobert Colangelo氏は説明しています。

途上国にとっての解決策

南西インドのマラバル海岸沿いにあるケラ ラ州の農民は何世紀もの間、海面より低く 位置するために塩分を含んだ水田で稲作を 行ってきました。ケララ州に居住する電気技 師で公益事業の専門家であるC.M.A. Nayar 氏は、まさにそうした光景から、自国の政府 と企業経営者に向けて海面が上昇している という緊急提言に駆り立てられたのです。

“「都市は成功を左右する ポイントであり、経済活動の中心、 気候変動問題の中心です」”

BRIAN SWETT氏
シティ&サステイナブル・リアルエステートディレクター、 南北アメリカ、アラップ・グループ

都市と遠方農村地域の住民、発展途上の産 業経済、経済成長、人口増加とを連携させる ことによって、いよいよインドにも二酸化炭 素回収技術、バイオマスおよび廃棄物発電 のプロセス、水素燃料を活用する時機が訪 れると、同氏は確信しています。

「既成概念にとらわれずに考え、CO2のリサ イクルや水素経済への移行が可能になる研 究開発を通して革新的な解決策を見つける ことができるどうかに、大きくかかっている でしょう。これは、国連気候変動枠組条約の

最優先項目となるべきです」と同氏は述べ ています。しかしながら、こうした計画の費用を誰が負 担するのかが大きなハードルです。『World Energy Outlook Special Briefing for COP21』によると、COP21の提言を達成する ために、エネルギーセクターだけで今後15 年間で13兆5千億米ドルの投資が必要とな ります。そのうち8兆3千億米ドルは輸送、ビ ル、産業の効率改善に回されるのに対し、残 りは電力セクターの脱二酸化炭素化に回さ れます。

インドにとって、Nayar氏の提言は以下のよ うにクリアなものです。 ◦ 再生可能エネルギー資源からの発電を促 進し、従来の火力発電所による電力の少 なくとも3分の1を供給する ◦ バイオマスや廃棄物発電の計画に投資 し、CO 2を回収する ◦ 自宅や企業にグリーンエネルギーシステ ムの設置を消費者に求める法的枠組を実 施する ◦ 全国各地、特にへき地の村落に分散型エ ネルギー電力供給システムを開発する ◦ 精炭および二酸化炭素回収の技術に投資 し、既存の公益事業が設備を改修できる ようにする

同氏は続けます。「これは非常に困難な仕事 に見えるかもしれません。ですが、廃棄物処 理と発電に対して統合的なアプローチを取 れば、可能になるでしょう。インドが気候変 動に対処できるかどうかも、他の途上国と同 様、貧困国が必要とする資金と技術を持って いる富裕国にかかっています」

第三世界の可能性

米カリフォルニア州に本拠を置き、「Stateof Green Business(グリーンビジネスの現 状)」という年次報告書を作成している GreenBizグループの会長兼編集責任者であ るJoel Makower氏は、パリ会議の期間中、 多くの企業のCEOと面談しました。企業があ まり豊かでない国の環境保護推進を支援す る必要があるだけでなく、そうした取り組み によって経済的な見返りが得られるようにな ると、確信しています。

「アジア、アフリカ、南アメリカの村にまで及 ぶ非常に長いサプライチェーンを持つ企業 も多くあるため、米国や欧州、日本で購入す るものの中にはそうした地域で製造された ものもあります」と、同氏は述べています。そ れらの市場は、将来の市場を示す世界経済 のピラミッドの底辺を形成しています。同氏 は続けて、「何十億もの人々が、米国からで はなく、アフリカ、インド、東南アジアから、中 流階級に加わっています。そうした人々の生 活を向上させることで、将来の市場が発展す るのは明白です」

パリ会議は過去のイベントとは大きく異なっ ている点ひとつありました、と同氏は続けま す。「過去の会議では、費用がどれくらいかか るかが中心でした。今回のポイントは、いつ 始めるかということです。まさに議論してい る規模の変化を起こすためには、3つの大き な『てこ』を利用する必要があります。技術、 資金調達、政策の3つです。技術や資金調達 には障害がないように思えるので、政策こそ 取り組まなければならない重要な分野です

残り時間はあとわずか

COP21の参加者が帰国してから1ヵ月がた ち、米国ローレンスリバモア国立研究所の 科学者は同会議の仕事に対する緊急性を高 め、1865年以降人間が排出した熱量の半分 に等しいエネルギー量を、このわずか18年 間で海が吸収していると報告しています。こ れは人為的な温度負担で、広島に投下され たものと同じ型の爆弾が75年間連続で毎秒 爆発しているのに相当するものです。海は人 為的な熱エネルギーの90%以上を吸収して

いるがそれ以上は無理であると、CBCカナダ から発行された論文の中でローレンスリバ モアのチームは主張しています。パリ会議に参加した各国は、COP21の中で 議論された排ガス削減案を再検討するため に、2018年に再び召集されます。しかしなが ら、世界中の科学技術者の共通認識は、解 決策の多くは既に存在しているというもの です。そうであるならば、地球規模でその解 決策を実行に移そうとする意志こそが、世界 で最も必要とされているのです。

C40 Cities blog at:http://bit.ly/C40

CitiesReport World Energy Outlook 2015 at:http://bit.ly/WorldEnergy

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