Energy, process & utilities

スマートグリッド

Dan Headrick
28 April 2015

姿を現してきたインターネットベースの制御技術を利用して、さまざまな供給源で発電される電力と密接に融合されるス マートグリッドにより、エネルギー効率と環境の改善が見込まれます。同時に電気の消費者には、自分が使っている電気に ついてより多くの情報が提供され、さらに電力管理の機能も提供されます。

地中海沿岸付近では、天気の良い夏 の日には仕事のため、またはアウ トドアを楽しむために、人々は家 を留守にします。その一方、屋根の上の太陽 電池パネルは、誰も使わない電気を作りだ しています。こうした一連の状況は、「ス マートグリッド」とは何であるかを説明す る際にも役立ちます。 

スマートグリッドは、電気について考え直 すこと、つまり、電力の生成、測定、収益化、 消費、制御、保存、交換、伝達、売買、取引を 行う方法について考え直すことと同義で す。グリッド(送電網)が、より効率的に電 力の需要と供給に対応できるように、ソフ トウェアやセンサー、電子メーター、イン ターネットを使って情報を総括的に管理す ることを、「スマート」グリッドといいます。

フランス地中海地域のニースの近くにあ るカロという古い地方自治体では、プロ ジェクトの立案事業者が太陽光発電シス テムとエネルギー貯蔵設備を国の送電網 に統合した、ヨーロッパ初のスマート リッドを導入した町を作ることに、約200 人の住民と10社強の企業が協力してきま した。

ニース・プロジェクトの中心にあるのは、 「グリッドの背後にある頭脳」というこれ までに例のないNEM(ネットワークエネ ルギー管理)だ、と語るのは、Alstom Grid 社でスマートグリッドソリューション部 門のバイスプレジデントを務めるLaurent Schmitt氏です。Alstom Grid社は、ニース・ グリッドを含め、世界各地の約30ヵ所でス マートグリッド実証プログラムに取り組 んでいる世界的エネルギー企業です。

Schmitt氏は次のように述べています。「焦 点を当てたのは、エネルギー貯蔵先の統 合と、発電および送電の分散化でした。電 気自動車も貯蔵ソリューションの一部に なっています。プラグイン・ハイブリッド 車は、緊急事態が起きたらグリッドに電気を供給できます」

 NEMが強力なのは、太陽光発電量と負荷の データを収集し、予測を行い、地域の負荷 削減要請を考慮に入れ、グリッドの制約条 件と過電圧のリスクを計算し、供給業者に 電力調整の必要性を通知し、最適な需要対 応とエネルギー貯蔵の柔軟性について計 算し、スケジュールを伝達し、サイクルを 稼働させるからです。

NEMのような実証プロジェクトは、国によ る再生可能エネルギーの目標達成に貢献す るうえで決定的に重要です。太陽光や風力 による電力は汚染を伴わずにエネルギーを 提供しますが、家電製品を壊す場合もある 瞬時の電圧上昇などの異常な事象も生み出 します。スマートグリッドでは、しばしば 不安定なこれらのエネルギー供給源からの 電力の増減と季節的変動を管理しなければ なりません。 

スマートグリッドの開発は、世界のどの 地域で行うかによって異なってきます。 Schmitt氏は、たとえばヨーロッパでは政 策命令で要求されていると述べています。 米国では、送電インフラの老朽化が重要な 推進要因となっています。東南アジア地域 の計画事業者は、僻地や離島の住民への電 力供給を目的としています。

GRID4EU

ニース・グリッド・プロジェクトは、Grid4EU 構想の六つの実証プログラムの一つで、 信頼性が高く障害からの回復力のあるス マートグリッドの技術的、社会的課題を評 価するために実施されています。

国有企業エレクトリシテ・レゾー・ディスト リビューション・フランス(ERDF)社のプロ ジェクトマネージャーChristophe Arnoult 氏は、次のように述べています。「われわれ は、配電網の計算を監視して負荷需要を予 測し、電圧抑制を事前に察知した上で、負 荷を移す必要があればアグリゲーター(需 要家の節電量を取りまとめる中間事業者) にその情報を送信するといったことを、中 央コンピューターで実現可能かどうかテ ストしています。われわれは顧客と顧客の 行動に頼るため、使用状況をモニターする ためのiPadを顧客に渡しています。」

ニースでは、住人と事業者が、配電網の信  頼性向上を目指して三つの運用モードの 実証利用を進めています。具体的には、需 要を管理すること、エネルギー移行計画に よって瞬時の電圧上昇を減らすこと、マイ クログリッドの「アイランド化」実験を行 うことの三種類のモードです。アイランド 化の基盤になるのは、必要になるまで余剰 電力を保持するエネルギー貯蔵技術です。

最大限の柔軟性を得るため、地域の太陽 光発電グリッドには三つのレベルのエネ ルギー貯蔵設備が統合されました。地域 への高電圧送電線と町への配電線の間に は、560 kWhのエネルギーを約30分間蓄え る中央管理型の1 MWバッテリーが配置さ れています。二番目のレベルは家庭内に あり、3kWの太陽電池システムと、過電圧 が発生する状況で余剰エネルギーを吸収 する4-kW/4kWhAのバッテリーが備えつ けられています。3番目のレベルでは、太 陽電池システムを備えた三つの産業拠点 で、33kW/100kWhのバッテリーに加えて、 250kWhのバッテリーを使用します。

300億米ドル

Navigant Research社によれば、 アジア太平洋地域全体での マイクログリッドへの 累積投資額は、 2023年までに合計300億米ドルに 上ると予測される

併用されるこれらのバッテリーは、電力平 均分配と、主要高電圧送電線からニース・ グリッド全体の切り離しを可能にする「ア イランド化」を行うために使用されます。

「家庭や企業への情報はすべて、中央コ ンピューターに接続されたスマートメー ターを通してデバイスまで送信されます」 とArnoult氏は語ります。2015年末に終了 するこのプロジェクトは、住民の協力に依 拠してきました。

「冬には、顧客は需要を調整するよう求 められます。夏には、屋上パネルからの太 陽光発電量が多すぎて消費が不十分にな り、電圧が高くなりすぎます。そのため、 負荷のモデルを予測する必要があり、中央 コンピューターはその情報をアグリゲー ターに送信して、負荷を移さなければな りません。これは最初のステップにすぎ ませんが、非常に正確に機能しています」 (Arnoult氏)。

ドイツ、スウェーデン、スペイン、イタリア、 チェコの同種のGrid4EUのテスト拠点では、 インテリジェントな監視、高度な制御、 生 可能エネルギー、電気自動車のグリッドへ の統合方法に関して、その他の運用上の課 題に対する解決策のテストが進められてい ます。

アジア太平洋地域: 僻地/離島向けのマイクロ グリッド

シンガポール本島沖8 kmのところに、主に 本島の四ヵ所のごみ焼却炉から出る焼却 灰の受け入れに使用されている、埋め立て 地のセマカウ島があります。そこでは赤道 の太陽の下で、作業員たちが熱帯地方最大 のハイブリッド型マイクログリッドの第1 フェーズの建設に従事しています。

REIDS(Renewable Energy Integration Demonstrator-Singapore)は、この地域の 独特な気候を前提として設計された、太 陽光、風力、潮力、ディーゼル燃料、蓄電、 Power to Gas(電力から水素ガスへの転換) の各技術を統合するための試験台です。そ の目標は、従来の配電システムがカバーす る範囲を越えた場所に住む、僻地や離島の 住民の需要を満たすことができる分散型の 技術を開発することです。

シンガポール経済開発庁(SEDB)局長の Chee Kiong Goh氏は次のように述べてい ます。「シンガポールは600万人超の市場を 対象とし、特にその中の三分の一は電気が 利用できない場所で生活しているのでマイ クログリッドにはとてつもないチャンスを 見出していす」

米国コロラド州を拠点とする、市場調査 およびコンサルティング企業のNavigant Research社が出した2014年の報告書によ れば、アジア太平洋地域全体でのマイクロ グリッドへの累積投資額は、2023年までに 合計300億米ドルに上ると予測されていま す。シンガポールは、農村人口向けのマイ クログリッド開発の分野において地域の 頭に立っていますが、都市用のスマートグ リッド・インフラにも巨大な投資を注ぎ込 んでいます。アナリストの計算によれば、 シンガポールはそうした投資によって、中 国と共にこの分野における世界のリーダー となっています。

「家庭や企業への情報はすべて、 中央コンピューターに接続された スマートメーターを通して デバイスまで送信されます。」

CHRISTOPHE ARNOULT氏
ニース・グリッドを管理する エレクトリシテ・レゾー・ディストリビューション・ フランス社のプロジェクトマネージャー

米国ワシントンの市場戦略情報企業 Northeast Group社によれば、2013年には、 中国が初めてスマートグリッドへの支出で 米国を上回りました。同社は、今後10年間 にわたるスマートグリッドへの投資の伸び が顕著となる場所は、米国とヨーロッパか ら、成長を続ける東南アジア、特にタイ、イ ンドネシア、マレーシア、フィリピン、シン ガポールへ移ると予測しました。

皮肉なことにインドネシアは、太陽光発電 関連機器の価格が、通常の発電用燃料以下 になる「グリッドパリティ」のレベルまで下 落した最近まで、太陽光発電を推進する国 ではなかったとGoh氏は指摘しました。「大 きな問題は、どのようにスマートグリッド 技術 利用してグリッドを監視するかで す。シンガポールは、この地域で実現性を テストし、実証作業を行うための出発点な のです。 きた実験室と言えるでしょう。」 (Goh氏)。

REIDS(Renewable Energy Integration Demonstrator-Singapore)は、太陽光、風力、潮力、ディーゼル燃料、蓄電、Power to Gas(電力から水素ガスへの転換)の各技術を統合して、 僻地や離島の住民に電力サービスを提供できるマイクログリッドを作り出すための試験台です。(Image: ©シンガポール国立ナンヤン理工大学)

サイバーセキュリティ: スマートグリッドは ばかげたアイデアか

しかし多くのセキュリティ専門家が、イン ターネットベースの要素が混在したスマー トグリッドの制御技術は、ハッキングが容 易で保護できないのではないかと懸念して います。スマートメーターは結局のところ、 インターネットにつながれたコンピュー ターにすぎないのです。

「われわれはハッキングが大きな脅威だと 見なしていて、私は脅威があることは紛れ もない事実だと考えてます。グリッドの設 計方法に関して、サイバーセキュリティが 重要な要素になるでしょう」とGoh氏は述 べています。

ドイツのマックス・プランク研究所Dynamics and Self-Organization部門の、物理学者の Benjamin Schafer博士が、スマートグリッ ドのアーキテクチャーと、それを保護する 方法の研究に取り組んでいます。主流に なっているのは、消費者が使用する電気に 関するすべてのデータを中央サーバーに収 集されるという考えです。この集中化によ り、管理性が向上する一方で、ハッカーに とっては大変魅力的なターゲットが出現す ることになります。

「グリッドの設計方法に関して、 サイバーセキュリティが 重要な要素になるでしょう」

CHEE KIONG GOH氏
シンガポール経済開発庁局長

しかし、集中制御が必要でなければどうな るでしょうか。Schafer博士が率いるチーム は、分散制御(発電を分散させることも含 む)の場合に攻撃に対する脆弱性を下げら れるかどうかを研究しています。制御機能 を個々のスマートメーターに置いた場合に スマートグリッドを効率的に機能させられ るのか、グリッドの中心に中央制御システ ムがなくてもネットワークの安定性は維持 されるのか、などが研究課題です。Schafer博 士のチームが理論のテストを行い、世界各 地のシステム設計者が、セキュリティを強 化するための他のアイデアを検討します。

Schmitt博士は、サイバーセキュリティこそ が、ニース・グリッド実証プログラムを管理 するNEMが「階層型制御システム」とし 設計された理由だと述べています。

制御と自覚

スマートグリッドに批判的な人たちの懸 念にもかかわらず、高分子科学者で、新規 企業の立ち上げを支援する技術マニアであ ることを自認しているLynn Yanyo氏は、ス マートグリッドの信奉者です。米国ノース カロライナ州にある彼女の自宅では、太陽 光発電シ テムで、年間を通じた電気使用 量の約70~80%が発電されています。

Yanyo氏は次のように述べています。「太陽 電池で発生中の電力をいつでも、今までの 発電記録まで表示できるインターネット ベー のツールを使っています。動作中の 家電製品を確認したり、何が最も電気を消 費しているかを確認したりすることもでき ます。見 のがかなり楽しいツールなので、 何かの電源を切る回数は以前よりも確かに 増えていますが、毎日こうした情報を追い かけているわけではありません」

Eric Larson氏は、2月の寒い曇りの日に、キッ チンカウンターに立ってノートPCに表示さ れた発電量のレポートを調べていました。 彼は、Yanyo氏の地域から遠くない、ノース カロライナ州の郊外型住宅の南側の屋根に 太陽電池パネルを据え付けることを決めた とき、それほど省エネはあまり意識してい ませんでした。しかし、パネルを設置して発 電状況を監視することで、エネルギーにつ いての考え方が変わったと述べています。

Larson氏は「あのようなパネルを付けたこ とで、何を使用するかをもっと意識するよ うになりました」と語ります。たとえばこの ような曇りの日には、18枚の太陽電池パネ ルはわずか約3 KWしか発電しませんが、普 段は一日平均で、Larson家の一日の電力使 用量に等しい18~20 KWが作りだされてい ます。「私は電気代を節約していて、それが 家の価値を高めています。さらに、かっこ よく目立つ理由にもなっています。この地 域でパネルを設置しているのは私だけで あと9枚分のスペースがあります」

自覚することが肝心なのです。 家庭や企業 に太陽電池パネルを設定するNC Solar Now 社のオペレーション・マネージャーである Karl Stupkay氏は、「お客様とは、制御と自覚 について積極的に話し合っています」と述 べています。「注意を払わなければなりませ ん。絶えず変化がある分野なので、刺激的 な環境です。携わって成長が見込める仕事 のような気がしますし、この業界に自分の 将来をかけるつもりでいます」

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