1)業界の将来を見据えて、新しいツールやアジャイルな働き方を導入している。先進的な企業が拡張現実や仮想現実などの最先端ツールを導入している確率は、後進的な企業のほぼ3倍であり、プラットフォームなどのソフトウェアを実現技術として活用している確率は2倍です。また、デジタル・トランスフォーメーション・グループを確立し、多分野にわたるチームで「アジャイル」手法を取り入れている確率も5倍となっています。
2)新参ベンダーとの関係、パートナーシップ、エコシステムを築いて、その力を活用している。先進的な企業は、拡張エコシステムを発展させることによって、自社提供物の構想から設計/エンジニアリング、IoTに基づく機能向上、次回の反復作業に至るまで、エンドツーエンドのオペレーション・プロセス全体を完全に可視化しています。このエンドツーエンドの可視化とデジタル化によって、お客様要件に関連したコンテキスト、サポート、インプットが製造オペレーションにもたらされ、優れたカスタマー・エクスペリエンスを実現する製品とサービスを開発・製造することが可能になります。これらのエコシステムでは、製品開発段階で既存の企業とスタートアップ企業が仮想的に連携して、お客様のニーズをデジタル形式でくみ取り、物理的な納品に進む前に、3Dモデルとデジタルツインを活用したデジタル・クリエーションとバーチャル・テストを実施しています。
3)革新的な付加価値サービスと新しいビジネス・モデルを通じて新たな収益源を創出している。新たな収益源に含まれるのは、機器や設備の従量課金モデルとサブスクリプション・ベース・モデルだけではありません。IoT接続製品を介して収集されるデータやインサイト、AIを利用して得られるディープ・ナレッジ(知的財産、すなわちIP)とノウハウ(IPの応用)、そしてデジタルツインとバーチャル世界から収益と利益を抽出するビジネス・モデルも含まれます。
「パイロット・トラップ」の危険性
ところが、工業IoTに秘められた可能性が大きく期待されているにもかかわらず、多くの企業が「パイロット・トラップ」の状態に陥っていることがマッキンゼーの調査結果で明らかになっています。パイロット・トラップとは、大掛かりなパイロット(試作)活動が進行しているものの、有意義な利益の計上にはまだ至っていない状態を指します。つまり企業は、試作や概念実証から脱却できずにおり、組織全体を根本から変える包括的なデジタル・トランスフォーメーションへのスケールアップ(いわゆる「インダストリー・ルネサンス」)を遂げられていません。
「広い視野で物事をとらえずに製造現場をデジタル化しても、工場とそれがサポートする企業や顧客との間を隔てているサイロは凝り固まる一方です」
KAREL ELOOT氏
マッキンゼー・アンド・カンパニーシニア・パートナー
このパイロット・トラップを逃れ、デジタル・テクノロジーから価値を引き出して持続させるために、企業は次の6つの成功要因に重点を置く必要があります。
1. デジタル・マニュファクチャリング・ソリューションがどのようにオペレーションの課題に対応し、競争優位性を確立し、利益の増加に役立つかについて明確に理解することから始める。
2. 事業機会の規模と性質を明確に定義し、ITおよびオペレーショナル・テクノロジー(OT)のアーキテクチャ要件とリソース要件を正確に把握したうえで、段階的なロードマップを策定する。
3. 目標とするテクノロジー・スタックを特定する。
4. テクノロジー・パートナーで構成される集中型エコシステムを構築して先導する。
5. 経営トップによるトランスフォーメーション推進体制を確保する。
6. 人材の能力開発とイノベーションの促進を同時進行する環境を整備する。
端的に言って、インダストリー4.0プロジェクトが価値をもたらすためには、それが、拡張エコシステムを含む企業全体を対象とした、包括的なデジタル・トランスフォーメーション計画に根差した取り組みでなければなりません。広い視野で物事をとらえずに製造現場をデジタル化しても、工場とそれがサポートする企業や顧客との間を隔てているサイロは凝り固まる一方です。
Karel Eloot氏は、グローバル規模の経営コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーの上海オフィスでシニア・パートナーを務め、同社のアジアIoTグループに加え、アジア・オペレーション業務を共同指揮しています。中国およびアジア諸国の工業部門(ハイテク、自動車、航空宇宙、先端産業、基盤素材)におけるデジタル活用型の成長やテクノロジー対応ビジネス・トランスフォーメーションを中心に、スマート・マニュファクチャリングとプラント設計、デジタル製品開発/調達、サプライチェーン4.0、バック・ミドル・フロントオフィスのプロセス自動化、IoTアーキテクチャとインフラストラクチャなどのプロジェクトに取り組んでいます。プロフィール