過去30年間にわたり、インターネットは人と情報をつなげてきました。今後30年間は、人、データ、プロセス、マシン(都市からや自動車、ウェアラブルまで)を情報とつなげるためにインターネットが使われるようになります。
シンプルだが奥深いこのシフトにより、企業間の競争の土俵が今後劇的に変化し、製造業者をはじめ、ほぼあらゆる業種の企業がモノのインターネット(IoT)の影響を受けます。製造業者の仕事は、物理的な製品をつくることではなくなり、製品の原動力となるソフトウェア、ソフトウェアと連動できるその他のスマート・デバイス、そしてソフトウェア、接続性、コラボレーションを組み合わせたときに実現する顧客体験を生み出すことへとシフトします。ネットワークに接続したインテリジェントなマシンは、コミュニケーションを通じてプロセスを改善し、自動運転車/電車/飛行機/船舶などの新しい分野で応用されるようになるほか、監視や警備をインテリジェントに行ったり、重いものの持ち上げや掃除といった日常的な仕事でも人々を支援するようになります。
リスクと恩恵
当然のことながら、商機にはコストとリスクが常についてまわります。従来型の製造業者にとって、変化の激しい市場でハイテク企業として生まれ変わることは決して容易ではありません。また、ソフトウェア業務の経験がほとんどない、あるいはまったくないために、このシフトで失敗している企業も少なくありません。これまでは、サプライヤーはソフトウェアを製品の構成要素として提供するのが一般的でしたが、これからはそれだけでは不十分です。たとえば、予期せぬ副次的な影響を避けるために、「システム・オブ・システムズ」の概念を理解していなければなりません。
アーリー・アダプターの失敗から学ばなければならないというのは、どの業界にも共通して言えることですが、自動車業界では特に顕著です。消費者にとってすでに重要な決定要因となっているインフォテインメント・システムについて、自動車メーカーは、今後ハッカー対策を施す必要性を苦い経験により思い知らされました。
BMW社、GM社、メルセデス・ベンツ社はいずれも、Wi-FiやBluetooth技術を使用したスマートフォン・アプリがハッカー攻撃の被害に遭っています。FCA(フィアットクライスラーオートモービル)社は、同社のインフォテインメント・システムの脆弱性を突かれ、ハッカーによって車両が乗っ取られたため、リコールにまで追い込まれました。
専門家のアドバイス
インターネット・セキュリティの専門家の間ではよく知られているこれらのハッカー攻撃をソフトウェアが防げなかったのは今後自動車以外の業界の製造各社がIoT市場への参入をあわてて進めるに伴い、今後も繰り返し起こることが必至です。自動車メーカーの失敗を繰り返さないために、企業は自分たちがソフトウェア事業を始めようとしている事実を認識しなければなりません。IoTによってリスクは増大の一途をたどります。ソフトウェア・セキュリティはセーフティ・クリティカルなシステムの主軸として扱い、最初から設計に組み込む必要があります。
企業各社、特にエンジニアリング企業は、ソフトウェアの信頼性とセキュリティを向上させるアプリケーション・ライフサイクル管理(ALM)ツールを開発した、エンタープライズITエキスパートのアドバイスに耳を傾けるべきです。ALMは、プロジェクト管理、要求管理、テスト管理、リリース管理などを網羅しており、ソフトウェア・プロジェクトの進捗度合いをリアルタイムでトレースし、可視化します。規制環境下では、当初の要求事項、変更理由、変更者、変更のタイミングなどを記録するトレーサビリティが不可欠です。
ALMを製品ライフサイクル管理(PLM)システムと統合することは、次の重要なステップです。こうすることによって、複数のエンジニアリング分野にわたってソフトウェア資産をトレースできるようになり、ソフトウェアの複雑性を管理して革新性を高めることが可能になります。
今後の方向性
テクノロジーそのものが助力となる可能性もあります。たとえば、半導体メーカーは今、ハードワイヤード式セキュリティ・フックをチップに組み込むことで、深く埋め込まれたセキュリティ機能を実現しています。一部の3Dプリンターでは、これと同様のセキュリティ機能を3D製造コンポーネントに直接埋め込むことが可能です。ただし、様々な種類の装置が使用される生産的なIoT環境を確立するためには、IoT各社がプロトコルと品質基準の点で合意することが何よりも重要です。
IoTのビジョンを実現する商機は必ずあります。ソフトウェアが難題として立ちはだかることも考えられますが、今日までの発展の度合いを見れば、こうした困難にもかかわらず、ビジョンを実現できることは一目瞭然です。
マイケル・アゾフは、英国に拠点を構えるOvum社のインフラストラクチャ・ソリューションズ・グループで主席アナリストを務め、基礎/応用研究およびコンサルティング分野における20年以上の経験をIT業界にもたらしています。今日重点的に取り組んでいる分野には、ソフトウェア開発とライフサイクル管理、アジャイル・プロセスとDevOpsプロセス、エンタープライズITモバイル開発、機械学習などが含まれます。プロフィール