賢者の眼

Farid Baddache氏(BSR マネージング・ディレクター)


12 June 2019

持続可能なリーダーシップを発揮する責任は何十年もの間、ほぼ政府のみに委ねられてきました。しかし、市民の要求と目が厳しさを増したことを背景に、環境・社会・ガバナンス(ESG)上のさまざまな問題が浮き彫りになる中で、これが政府だけに負わせるには重すぎる責任であることが判明しつつあります。

多大な資本、市場支配力、そして金銭的動機を持つ企業という存在は、問題を構成する要素であると同時に、解決策を構成する要素でもあります。企業は今、より持続可能な未来の創出に貢献することへのかつてない重圧にさらされながら、雇用と富以上のものを生み出すことを期待されています。市場のニーズに見合い、顧客が買いたいと思うような、より持続可能な解決策を創出しなければならないのです。しかも、市場の期待は目まぐるしく変化しています。

のしかかる重圧

多くの調査結果が示すように、顧客はESG問題に対応した解決策をますます求めるようになっています。投資家もまた、そうした要因をこれまで以上に重視するようになりました。

例えば、業務上、二酸化炭素を大量に排出している企業は、社会のあらゆる側面でどんどん受け入れられにくくなっています。どのような業界であれ、妥当で低炭素かつ手頃な価格の解決策を提供できる競合他社がほかに存在すれば、顧客は二酸化炭素排出量が多い解決策をあえて選ぶはずがないのです。さらに視野を広げて持続可能性の観点から見ると、生物多様性の低下や水についても同じ理屈が難なく当てはまります。

この理屈は社会・経済問題にも敷衍することができます。例えば、適正賃金や職業訓練、雇用全体の質のようなトピックが、いかにビジネスの命運を握る問題であるか考えてみましょう。従業員と企業の関係を希薄化させる大規模なデジタル・トランスフォーメーションが進みつつあり、品質とナレッジのマネジメントが顧客満足を左右している世界において、利益とイノベーションの鍵を握るのは人です。企業の競争力は今後、進行中のデジタル革命を最大限に活用できるかどうかだけでなく、人材に投資し、人材を定着させることができるかどうかによっても変わってくることでしょう。

企業には、ある新しいビジョンを採用する以外に選択肢はないのが現実です。そのビジョンとは、企業はプラスの変化を促す力、つまり、天然資源を保護し回復させ、人間の尊厳と公平性を守り、透明な経営を行うことができる力であるべきだというものです。

出典:BSRによる2017年発行のレポート“The Future of Sustainable Business: New Agenda, New Approach, New Advocacy(持続可能なビジネスの将来:新たな課題、新たなアプローチ、新たな主張)”

企業のレジリエンスに影響を及ぼす要因は数多く存在しますが、持続可能性が競争力向上のために果たす役割が今後十年間でますます大きくなることは間違いありません。したがって企業は、環境・社会問題に影響を及ぼすディスラプション(創造的破壊)や急激な変化に素早く対応できる必要があります。

大局の理解

企業のアジリティは、デジタル・トランスフォーメーションを成功させられるかどうかに左右されるでしょう。デジタル化は、利用できるより高度なデータの量を大幅に増やす絶好の機会です。そして、そのようなデータは、持続可能性に関する実績を幅広く調査するために利用することができます。

例えば、気候と水の関連性を探ったり、地元のインフラと児童労働の間にある点と点を結んだり、社会監査の結果を分析してリスク予測を改善したりすることが可能です。デジタル化は間違いなく、大規模なデータ収集と持続可能性実績のモニタリングを体系化する上で役立つはずです。

ただし、データだけを重視しすぎると、そのこと自体のリスクが生じます。というのも、持続可能性実績が同じでも文脈が異なれば、導き出されるビジネス上の決定は変わる場合があるからです。分かりやすい例の1つが水です。マリやメキシコのような国では、水不足の問題が比較的深刻ではないカナダやスウェーデンのような国に比べて、水に関する適切な慣行の重要度が全体的にはるかに高いはずです。したがって持続可能性は、基本的に定性的なアプローチであることに変わりはないため、データが何を語ろうとしているのかを見極めるために必要な現実世界の専門知識なくしては成り立ちません。

成功に向けた見直し

結局のところ企業は、企業のあるべき姿として人類に求められているような持続可能性分野のリーダーになろうとするならば、さまざまな要因に対する取り組み方を見直す必要があります。つまり、デジタル・ツールとデータを思慮深く利用し、本当の意味で持続可能なサービスを生み出す製品・サービスを提供し、イノベーションを着実に進めることによって最低限の認定を取得するだけにとどまらない慣行を開発し、持続可能性というレンズを通してビジネス・パートナーを選び、政策の変更を求めて政府に働きかける際には環境・社会的な優先事項を念頭に置くようにしなければならないということです。

どれを取っても厳しい注文に思えるかもしれません。しかし、持続可能な未来を作るという、さらに差し迫った課題を解決するためには必要なことなのです。今後はおそらく、順応してレジリエンスを高めることのできる企業だけが、生き残りと成功を実現できることでしょう。

プロフィール

BSR(Business for Social Responsibility)は、250社以上の会員組織とその他のパートナーからなるネットワークを生かし、公正で持続可能な世界の構築を目指して活動するグローバルな非営利組織です。アジア、欧州、北米にオフィスを構え、コンサルティング、調査研究、分野横断型コラボレーションを通じて、持続可能なビジネス戦略とソリューションを開発しています。

BSRのマネージング・ディレクターを務めるFarid Baddache氏は、持続可能なビジネスの分野で培った20年の経験を生かし、BSRのコンサルティング・サービスとさまざまな業界の企業からの委託業務を統括。直接携わったプロジェクトは100件以上にのぼります。また、BSRのグローバル・マネジメント・チームの一員として、メンバーシップ戦略とオペレーションの監督にも寄与しています。BSRに加わる前は、テクノロジー、製造および採掘業界のCSR戦略・経営コンサルタント兼プロジェクト・マネジャーを務めていました。数冊の著作もあり、そのうち1冊は2006年にビジネス書の賞を獲得。2つのMBA(1つはクリーン・テクノロジー専攻)に加え、組織社会学の博士号を取得しています。

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