ファブ ラボ

ソフトウェア、3Dプリンタ、専門家によるアドバイスにアクセスできる環境が発明を促進

Rebecca Gibson
20 November 2017

製品アイデアを現実化するために必要なスキル、リソース、資金源、製造能力を備えているのが大企業だけであった時代は今や昔です。今日、様々なデジタル・ファブリケーション・テクノロジーや世界中に広がる「ファブラボ」ネットワークのおかげで、ほぼあらゆるもののプロトタイプを個人が作ることが可能になっています。

画期的なアイデアがあっても、ごく限られたリソースしか持ちあわせていない人々が、世界中の場所を問わず、ほぼ一夜にして世界を覆すようなものを生み出しています。
• スペインのバルセロナでは、建築技師と科学者のコンソーシアムによって、消費量の2倍のエネルギーを生成できるエネルギー自給自足型住宅が開発され、賞を受賞しています。
• アフガニスタンでは、カスタマイズ可能な義肢の開発がイノベーターによって進められています。
• ミネソタ州アップルトンにあるフォックス・バレー・テクニカル・カレッジでは、発明家が3Dプリンタを使用して、特殊な子供向けメガネや、障がい者によるドアの開閉を支援するデバイスを制作しています。
• 英国では、野菜の自家栽培を可能にし、サステナビリティ向上につなげるアクアポニックス・システムが一人の学生によって設計されました。

このような大変革はどのようにして起こっているのでしょうか。その背景にあるのが、ファブリケーション・ラボの力です。ファブリケーション・ラボとは、画期的なアイデアのある起業家や発明家が、デジタル・ファブリケーション・ツールやソフトウェアを完備した施設を無料または低コストで利用し、3Dデザインから製造、マーケティングにいたるまでのあらゆるスキルを網羅した、熱心な助言者のネットワークにアクセスして、アイデアを現実化するためのサポートを得ることのできるワークショップのことです。

アイデアが現実化する場所

ファブラボ(ファブリケーション・ラボの一般的な呼称)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)ビット・アンド・アトムズ・センター(CBA)による教育的アウトリーチ活動を構成する要素として2001年に初めて登場しました。ディレクターNeil Gershenfeld氏率いるCBAは、同センターの研究の成果をデジタル・ファブリケーションやコンピュテーションに実地応用する方法の模索に重点的に取り組んでいます。

これまでに、Gershenfeld氏のコンセプトに触発された約1,200の独立系ファブラボからなるグローバル・ネットワークが100か国で開設されており、ほぼあらゆるもののプロトタイプを素早く作成し、投資家に売り込むために必要なデジタル・ファブリケーション・ツールや専門知識へのアクセスを提供しています。

世界的なファブラボ・ネットワークの調整をつかさどるファブラボ協会の会長、Sherry Lassiter氏は次のように述べています。「MITのCBAは、レーザー・カッターやコンピュータ制御のフライス盤、3Dプリンタなどの個人用デジタル・ファブリケーション・ツールが値下がりし、より手に入りやすくなっている傾向を特定しました。そこでファブラボ協会は、その一部を小規模ワークショップに配置することにしました」

Lassiter氏はさらに、次のように述べています。「当協会では、人々にテクノロジーを提供し、その使い方を教えるとともに、新しく発見したスキルを活かして革新的なものを作る機会を提供し、地域社会に還元できるようにしています。今日、教育者、研究者、メイカーからなる当協会のコミュニティは世界中に広がり、地域レベルの発明と起業を支援する世界規模のプログラムは18か月に2倍のペースで拡大を続けています」

メイカーを生み出す環境

メイカームーブメントの高まりとあいまって、ファブラボを利用するイノベーターは難なく見つけることができます。メイカームーブメントの創始者は、2005年にMaker Media社を創設し、雑誌『MAKE』の出版を始めたDale Dougherty氏です。

『MAKE』誌は、テクノロジーの影響を大きく受けるDIYコミュニティが生まれるきっかけとなりました。もの作りを趣味とする人たちをルーツに持つこのコミュニティは、インターネット、そしてより手頃な価格で入手でき、使いやすくなったファブリケーション・テクノロジーを原動力とするマーケット・エコシステムへと成長を遂げています。今日、何千ものメイカースペースやオンライン・メイカー・コミュニティが世界各地に存在し、地域および国際レベルのメイカー・フェアが毎年開催されるようになっています。たとえば、2017年9月には、世界メイカー・フェア・ニューヨークに9万人以上が参加し、そのうち初参加者が占める割合は45%でした。

Dougherty氏は次のように述べています。「私たちの目標は、もの作りが社会にとっていかに有意義なことであるかを人々に認識させ、自分自身をメイカーとみなせるようにすることです。もの作りとは考え方の一つであり、学問の世界と仕事の世界の橋渡しをするスキル・セットを提供するものです。人々がもの作りから学んだことは、将来の就職活動に役立てたり、もしくは起業につなげたりすることができます。メイカースペースとファブラボは、世界を変えるために連携するメイカー・コミュニティを発展させるという共通のミッションを掲げているという点で非常に似通っています。一部のファブラボの間では、独自のメイカー・フェアを開催する動きも広がっています」

コラボレーション・センター

多くのファブラボでは、イノベーターが発明仲間や専門家とともに作業するため、ブレインストーミングを行ったり、テクニカル・サポートやビジネス・アドバイスを得たりしながら、プロトタイプの試験や改良を進めることが可能です。

フランス国立応用科学院トゥールーズ校でエンジニアリングの研修を受けたLaurent Bernadac氏は、受賞歴を誇る一流音楽家でもあります。人間工学に基づく軽量エレクトリック・バイオリンを3Dプリンティングすることを構想したBernadac氏は、あるファブラボの助けを借りて、このプロジェクトに必要な光造形方式の産業用3Dプリンティング・パートナーを見つけ、クラウドファンディング・プラットフォームKickstarter向けの投資キャンペーンを立ち上げました。

今日、自身で作ったバイオリンを商業用に販売しているBernadac氏は、次のように述べています。「個人や小規模企業を下請業者に紹介したり、大規模組織の有益な人脈につなげたりすることによって道を開いてくれる、このファブラボのアプローチは大変素晴らしいものです。このプロジェクトにあたっては、実に多くの企業が私を支援してくれました。レーザー・カットのような専門性の低い作業には、今でも時折ファブラボを利用しています」

2017年の世界メイカー・フェアではんだ接合を試す少女(Image © Patricio Jijon)

ドイツのFab Lab Berlinでマネージング・ディレクターを務めるDaniel Heltzel氏は、ファブラボがイノベーターと専門家を引き合わせる効率的な場所であるという意見に賛成しています。

Heltzel氏は次のように述べています。「起業家は、高度なトラブルシューティングとビジネス・アドバイスを利用して反復型開発を迅速に進め、成功の可能性に関するタイムリーで率直なフィードバックを仲間から得ることができます。一方、既存の企業は、新手のイノベーターと知り合いになったり、協同研究チームによる斬新な製品開発アプローチを観察したりする場としてファブラボを利用できます。ファブラボで見聞きしたことに基づいて、社内の製品開発プロセスを変更する企業も少なくありません

広がる影響範囲

ファブラボは、プロトタイプの設計と作成を迅速化、容易化、低コスト化することによって、特に発展途上国に利益をもたらす、様々な現代コテージ・インダストリー(家内制手工業)を生み出しています。

たとえば、東アフリカでは、FabLab Rwandaがデジタル・ファブリケーションを利用して、設計、エンジニアリング、電子機器、ファブリケーション、ハイテクの各分野における同国の競争力強化を図っています。これまでのところ、このラボは、ソーラー・カーのプロトタイプやドローン、顔認識ロボットの構築をはじめとしたプロジェクトにおいて、約30人の起業家を支援しています。

「私たちは、起業のためのスキルを人々に与えるだけでなく、ルワンダをモノのインターネット時代に近づける、クリエイティブで生産的なエンジニアを輩出するための支援も行っています」

MIRIAM DUSABE氏
FABLAB RWANDAゼネラル・マネージャー

FabLab Rwandaのゼネラル・マネージャーであるMiriam Dusabe氏は、次のように述べています。「ルワンダは今、人的資源に投資することによって経済の立て直しを図っています。こうした中、当ファブラボは、革新的なアイデアを製品化するために必要なハードウェア・スキルとソフトウェア知識を学生や起業家にもたらすという、重要な役割を果たしています。私たちは、起業のためのスキルを人々に与えるだけでなく、ルワンダをモノのインターネット時代に近づけることによって国の経済発展に拍車をかける、クリエイティブで生産的なエンジニアを輩出するための支援も行っています」

次世代のエンパワーメント

ファブラボはまた、プロジェクト・ベースのハンズオンSTEM(科学・技術・工学・数学)教育向けプラットフォームとして、学校や大学にも導入されるようになっています。たとえば、FabLabシンガポール・ポリテクニックでは、シンガポール・ポリテクニック大学の学生がデジタル・ファブリケーションの様々な用途を探り、仕事に役立つ専門スキルを習得できるようにしています。

同ファブラボのマネージャーであり、シンガポール・ポリテクニック大学の上級講師でもあるSteven Chew氏は、次のように述べています。「アイデアの創出と将来の課題への対応のために、デジタル・ファブリケーションを自信を持って利用できるような、発想豊かなメイカー・コミュニティを当大学の学生と職員で形成したいと考えています」

「また、高校生向けトレーニングや、外部の成人学習者向け再教育コースも提供し、業界企業との連携も行っています。これまでに、義歯、インドネシアにおけるマッシュルームの栽培条件を最適化するインターネット・ベース・ソリューション、地域のコンテストで優勝した低コストの水中無人搬送車をはじめ、イノベーターによる様々な開発活動を支援しています」

パーソナル・デジタル・ファブリケーションの新時代

連続テレビ・ドラマ「新スタートレック」の登場人物は、レプリケーターを使って、物質を目に見えない形態に変えてから、食料、衣服、機械部品など、望みどおりのものに再変換しました。MITのGershenfeld氏によれば、現実世界の科学者の能力がこのレベルに達するのはまだまだ先の話ですが、個人が有形物を設計・製造するためにオンデマンドで利用できるパーソナル・デジタル・ファブリケーション・テクノロジーはすでに存在しています。

MITが最近着手した研究活動は、「ものを作る機械」から「機械部品を作る機械」に製造を進化させ、さらに自己複製機械、デジタル・マテリアルの段階を経て、最終的には自己組織化が可能なプログラマブル・マテリアルを実現することを目標に掲げています。この目標を達成するため、科学者は、個々の原子と分子を望みどおりの構造にすることのできるファブリケーション・プロセスの開発に取り組んでいます。このプロセスでは、多数の構成部品を作成して組み立てるのではなく、完全に機能する製品をワンステップで構築できるため、たとえば、ドローンの完成品を3Dプリンティングして、すぐに飛行させることが可能となります。

Gershenfeld氏は、2017年11月に出版された新著『Designing Reality』の中で次のように述べています。「ファブリケーションの世界は今、第3のデジタル革命を迎えています。最初の2つの革命では、通信技術と計算技術へのアクセスが急速に拡大しましたが、今回の革命では、ほぼあらゆるものを誰でも作れるようになります。第3の革命は、データの世界のプログラマビリティを原子の世界にもたらすという意味で、最初の2つの革命よりもさらに重要な意味を持つようになります。デジタル・ファブリケーションを象徴する新たな考え方である、パーソナル・ファブリケーションにより、消費者は大量生産された製品を購入するのではなく、地域レベルでもの作りを行えるようになります」

For more information
3ds.one/3DEXPERIENCELab
3ds.one/FabFoundation

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