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資産運用に イノベーションを : 急激な市況の変化によって新たな方策が必要に

William J. Holstein
19 February 2014

ロンドンを拠点とする金融専門調査企業CREATE-Research社の最高責任者であるAmin Rajan氏は、金融機関全般の仕事をしていますが、特にアセットマネージャーと呼ばれる人たちとイノベーションプロセスの改善を図っています。アセットマネージャーたちは、世界全体で65兆米ドルもの資産を運用しながら、イノベーションの面では時代に遅れをとっています。Rajan氏は最新の調査で、彼らのイノベーションについての課題をテーマとしました。Compass編集部はRajan氏との対談で、この新時代に順応するために推奨される方策を詳しく伺いました。

Compass誌: アセットマネジメントビジネスはどのような状況にありますか。

AMIN RAJAN氏(以下AR): 業界は15年間、危機モードになったままです。著しい弱気市場が2度起きましたが、それらは過去100年間で最悪であった4回の弱気市場のうちの2回なのです。投資家はおびえ、彼らを取り巻く環境はすっかり変わりました。1日24時間ニュースが流れ続けるので、投資家は被害妄想と歓喜に拍車が掛かっています。グローバル化により、ある国で悪いことが起きれば他の多くの国に波紋が及びます。従来のやり方で投資してもうまく行きません。クライアントは、「新しいタイプの商品が必要だ。リーマンショック以来広がってきた、今のような『饗宴か飢餓か』にうまく対処できない」と言っています。

投資家は引退の時期が近づくと、より多くを要求するようになるのですか。

AR: 小口の資産を担当するマネージャーが管理する資産の約75%が引退した人たちか引退間近の人たちに所有されているというのは、まったくすごい数字です。彼らのリスクプロフィールはさまざまなのですが、「運用益が得られてボラティリティー(価格変動性)が低い資産がいい。浮き沈みが激しいよりも確実さを取りたい」と言っています。

そうしたニーズに応えるイノベーションを実現するために、アセットマネージャーは何ができますか。 

AR: 場合によっては、従来の商品の改良型を提案できますが、以前よりも顧客との関わりを大幅に増やす必要があります。市場が混乱すると異常な価格やつけ間違いのような価格が発生します。そうした環境で、ボラティリティーを利益に変えることができます。アセットマネージャーは、投資家が「集団心理」に飲み込まれないように助ける必要もあります。そのせいですっかりだめになったポートフォリオも多数ありますから。

アセットマネージャーは、もっと積極的なスタイルを取り入れるべきだとおっしゃっているのですか。

AR: そのとおりです。以前のやり方は、「決めた投資に取り掛かったら、それでおしまい」でした。ですがボラティリティーのために、そのやり方ではもはやうまく行きません。退職後のプランの作成は、家の購入のように一度決めれば済むものではありません。職が変わり、家族の状況も変わります。それまでよりも賢く順応する必要があります。市場が経済より政治に動かされる時代には特にそうです。

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新商品の開発についてはどうでしょうか。

AR: 新商品を開発するのも、既存の商品を改訂するのもよいでしょう。定額の一時払い終身年金を売る場合は、物価インフレと連動させる手もあります。ドローダウン型の商品(引き出し可能部分がある年金)も考えられます。顧客が終身年金に投資するのはポートフォリオの半分のみにして、残りの半分は、定期的な収入が望まれると共にインフレヘッジのために資金が再投資されるドローンダウン型の商品に投資します。これで卵は、複数のバスケットに分散されるわけです。

新商品の開発に伴うリスクを管理する場合について、アドバイスをいただけますか。

AR: 過去に成功していたやり方は、営業担当者が顧客に会って興味のある商品を聞き出したら、アセットマネジメントチームが実際の商品を組み立てて、それを販売するというものでした。ストレス・テストも市場調査も行わず、ただがんばって販売していたわけです。しかし優れたプロセスならば商品を中心にしたビジネスケースを作成し、概念検証を行います。これは、新しく開発中の車が風洞実験を受けるようなもので、商品はシミュレーションによるテストをするべきです。書類上のポートフォリオを作って6ヵ月間運用し、どうなるか確認すべきかもしれません。

それでは、アセットマネージャーたちは、テクノロジー企業のように十分練り上げたイノベーションプロセスの助けを借りてこなかった、ということですか。

AR: そのとおりです。アセットマネージャーが3Mやジョンソン・エンド・ジョンソンと同じ方向に進む必要があるのは、それが理由です。どんな商品でも市場に出す前に非常にしっかりとしたプロセスを作り上げ、組織のあらゆる部門から出されたアイデアを多数蓄えておく仕組みを作り、集まったアイデアが同僚に評価されるようにする必要があります。そして、良いアイデアを次の段階に進めるのです。

「アセットマネジメントビジネスは ますます産業界を 手本とするようになっています。アイデアとプロセスを 融合する必要があるのです。」

AMIN RAJAN 氏
CREATE-RESEARCH 社最高責任者

しかし金融業界には、解決策を独自に考案することを好む非常に独立心旺盛な人材が集まっているのではありませんか。

AR: 確かにそうですが、アセットマネジメントビジネスはますます産業界を手本とするようになってきているため、状況が変わりつつあります。アイデアとプロセスを融合する必要があるのです。業務の専門技能職的な性質が、プロセスによる統制に取って代わられようとしています。アセットマネジメントはもはや、小集団の技能職がする仕事ではありません。

規制当局の監視が厳しくなると、どのような影響がありますか。

AR: 規制が強化されるということは、アイデアを思いつくだけではダメだということになります。今では、手順をきちんと踏んで承認を得る必要があります。ここ英国では、商品を登録するためには、最終商品に至るまでに検討した事柄をすべて当局側に説明しなければなりません。既存の規制もこれまで以上に厳しく適用されています。規制は諸刃の剣です。ものごとのスピードは抑えられますが、厳正さが高まることも保証されます。

お書きになったレポートでは、イノベーションを妨げるハードル、すなわち「ブロッカー」が存在するとおっしゃられています。具体的に説明していただけますか。

AR: 文化的な面で、「許可の文化」が幅を効かせている組織が見られます。そうした環境では、人は既成の枠から出て考えるのを嫌がります。イノベーション・チームのメンバー間にも、チームの機能不全を引き起こす緊張関係があります。特に、市場のダイナミズムを理解しているポートフォリオマネージャーと、顧客の心理を理解している営業担当者の間に、そうした関係が見られます。スタッフがリアルタイムで協力するのを促進するツールもありません。

それでは、アセットマネージャーたちにアドバイスをいただけますか。

AR: まず、イノベーションのブロッカーになっている要因に取り組んでください。こうした障壁を突き止めるのは簡単です。自分が発案していないアイデアに抵抗感を示す人の行動様式も、障壁の一つです。次に、プロセスが所定の場所に導入される必要があります。わたしは官僚制度が大嫌いですが、商品を完全な状態にするためには所定のプロセスを経なければならないこともわかっています。良いアイデアに対する障壁を取り除き、協力するためのツールをスタッフに与え、プロセスを職場に導入してください。

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