COMPASS: 課題とは、主にどのようなもので すか?
AMIN RAJAN: 2008年以来、市場 が過敏になっていることから、顧客は投資に 不安を抱いています。さらに、経験豊富な顧 客が高齢化しつつあります。引退の時期が近 付いている彼らには、過去の損失を取り戻す 時間がありません。そうした穴を埋めるため に、規制当局は新たな法律を導入するととも に、既存の法律の執行を強化してきました。 その結果、資産運用会社は、テクノロジーと 商品の新たなイノベーションについて考え なければならないという強大なプレッシャー にさらされるようになったのです。
そのような課題に対処するうえで、顧客中心 主義に集中することはどれほど重要なので しょうか?
AR: 必要不可欠です。なぜなら、この業界に はもはや、顧客がいることを当たり前とみな す余裕はないからです。顧客のニーズとリス ク許容度を理解し、顧客が求めるものを提 供する必要があります。かつて、資産運用業 界は供給主導型でした。しかし、今では需要 主導型に変わりつつあります。というのも、 資産運用会社に対する顧客の疑念が大きく 高まっているからです。顧客をかなり重視し なければ、資産運用会社の多くは苦労する でしょう。
顧客中心主義を実現するうえで、イノベーショ ンはどのような役割を果たすのでしょうか?
AR: イノベーションはこの業界に不可欠で す。なぜなら、顧客のニーズは常に変化して いるからです。顧客のニーズを満たすため には、新たな商品、新たな資産配分ツール、 新たなリスク・アプローチが必要になるで しょう。 浮上しつつあるトレンドの一つは、資産の配 分、ファンドの選定、リスクの監視といった、
かつては資産運用会社にしかできなかっ た作業を、顧客が自らオンラインで行える ようにする、セルフサービス型のデジタル・ ツールへの移行です。このようなデジタル・ イノベーションは、資産運用業界ではまだ 揺籃期にあります。しかし、今後2020年まで に、デジタルに精通した新世代の投資家が オンラインに登場するにつれて、そうしたイ ノベーションが業界の力学を変える可能性 は大いにあります。顧客は以前よりもはるか にうまく主導権を握ることができるようにな り、仲介業者はより優れたサービス、アドバ イス、付加価値を提供する必要に迫られる でしょう。この課題に対処しようとしている業 者は、バリューチェーンの上流に向かって進 みながら、競合他社が満たすべき基準を引 き上げようとしているということになります。
資産運用会社や証券会社は、他の規制業界 の製品開発プロセスをどのように利用できる でしょうか?
AR: そのようなプロセスがどちらの分野に も関係するのは確かです。資産運用会社は、 商品をいかに早く市場に投入でき、マーケ ティングにいかにコストをかけられるかとい う点で、競争圧力に直面しています。それに 対して証券会社は、プランニングの管理を 改善し、市場投入までの期間を短縮し、全社 的なコラボレーションを強化する必要があ ります。これらの領域では、他業界の製品開 発プロセスがいくつか実際に取り入れられ ています。
例を挙げていただけませんか?
AR: 現時点でも、データを集約したり、デー タを即時に分析したり、データから何らか の知見を引き出したりできる資産運用会社 は、わずかながら存在します。しかし多くの 企業では、ネットワークに接続されていない レガシーな(従来型の)情報技術(IT)システ ムが使用されていて、それがいまだに前進 を阻む大きな障壁となっています
“INNOVATION IN THE INDUSTRY IS ABSOLUTELY VITAL BECAUSE CLIENTS’ NEEDS ARE CHANGING. MEETING THOSE NEEDS WILL REQUIRE NEW PRODUCTS, NEW ASSET ALLOCATION TOOLS AND NEW RISK APPROACHES.”
AMIN RAJAN
CEO, CREATE-RESEARCH
資産運用会社は、イノベーションの成果を改 善するためにテクノロジーをどのように活用 できるでしょうか?
AR: マネジャーは、顧客のニーズとウォンツ を把握する最初の段階から、アイデア出し、 開発、改良、規制当局による審査、市場投入、 さらには市場の進展に応じた再設計の段階 に至るまで、イノベーションをいかに育むべ きかを定めた、イノベーションに関する確固 たる戦略を必要としています。 私たちが調査した結果によれば、資産運用 会社の40~50%は、自社がそのようなプロ セスを有していると考えています。しかし、そ のプロセスは多くの場合、他の業界で見ら れるプロセスほど厳格なものではありませ ん。規制上の要件により、資産運用会社が商 品を長期的に管理する必要性はいっそう高 まっています。現在、このプロセスは手動の システムを使用し、十分な品質保証を欠く状態で行われている傾向があります。この領域 ではイノベーション、とりわけテクノロジー のイノベーションが、多大な改善をもたらす 可能性があります。
将来の資産運用・証券業界を形作るのはイ ノベーションは、どの領域のものでしょうか?
AR: 資産運用業界を形作ると考えられる重 要なイノベーションの領域は三つあります。 まず、さまざまな種類の資産にどう資金を振 り分けるかという、資産配分のアプローチが 変化するでしょう。次に、投資家が企業に対し て直接融資を行うことを可能にする民間債の ような商品の人気が高まっているため、将来 的には同様の新たな商品が生まれるはずで す。最後に、顧客のエクスペリエンスを向上さ せるデジタルDIYツールが登場することで、投 資家にできることが今以上に増え、投資のや り方が分かりやすく簡単になるでしょう。
これらの変化は徐々にではあるものの、確 実に起こるはずです。こうした現象はまだ始 まったばかりで、企業同士の激しい競争は 今のところは見られません。しかし2020年ま でには、現時点での各社の取り組みの影響 が川下に及ぶにつれて、そのようなことが 次々に起こるでしょう。テクノロジーの力は 強大なので、最終的には資産運用業界の勢 力図が塗り替えられると考えられます。 同じように証券業界でも、支払いや決済な どのいくつかの重要な領域でイノベーショ ンが起こり、ブロックチェーンのようなテクノ ロジーによって国際送金のスピードとコラ ボレーション性が急速に変化しつつありま す。また、ビッグデータを活用して資産運用 の「データ・インテリジェンス」を強化するこ とが、資産関連サービス会社の焦点領域と して浮上しています。今日、資産運用会社は 資産関連サービス会社によるビッグデータ・ サービスを求めているため、近いうちにこれ は資産関連サービス会社にとっての競争上 の強みにもなるでしょう。最後に、金融商品 の開発とライフサイクル管理で見落とされ がちな点を大幅に改善するような、他の業 界で使用されているテクノロジーを各社は 採用し始めています。これは、規制圧力を緩 和し、顧客中心主義を強化するためにも役 立つでしょう。◆
テクノロジーのイノベーションを新商品のイノベーションに応用するという点で金融業界 をリードしている企業の一つが、BNPパリバ証券です。同社はグローバルな企業グループ BNPパリバの完全子会社で、法人顧客向けの有価証券保管・清算・決済業務を専門とし ています。同社は金融サービス機関としては初めて、航空業界やライフサイエンス業界で 使用されている高度な製品開発システムを利用し、規制の厳しい業界において複雑な新 商品を素早く市場に投入するとともに、それらの商品の管理と改良を市場と顧客のニー ズの変化に応じて行っています。 「私たちの企業文化においてイノベーションは、新たなソリューションや新たな商品を競 合他社よりも一足先に売り込むことによって抜きん出ることを可能にする重要な要素で す」と話すのは、BNPパリバ証券で清算・決済・保管商品担当リーダーを務めるPhilippe Ruault氏です。 BNPパリバ証券が新商品をより素早く市場に投入するためには、34の拠点全体で効率的 にコラボレーションする必要があります。「私たちは数多くのアイデアとイニシアチブを抱 えています」と、Ruault氏。「そうしたイニシアチブのすべてについて認識を統一すること と、それらのイニシアチブを銀行全体のグローバルな戦略に一致させることはきわめて重 要です。数ある商品やサービスのカテゴリーをもれなく参照し、そのすべてを一カ所で文 書化することは、非常に煩雑な作業になってきています」 そのような課題に対処するために、BNPパリバ証券は自動化された商品開発テクノロ ジーを活用しています。これは、イノベーションに対する同社のこだわりを支えながら、新 たな商品やサービスを市場に投入するまでの所要期間を短縮することを可能にする、先 駆的な行動です。 このコラボレーション型のプラットフォームは、BNPパリバ証券が情報を把握し、新商品 の設計、開発、検証、管理を行うために役立っています。そして、事業ライン、商品、プロ ジェクト・フェーズを横断した、あらゆるステークホルダーによるリアルタイムのコラボレー ションを可能にすることで、同社のグローバルなチーム間の協力によるイノベーションを 支えています。経営陣は進行中の全プロジェクトを、その現状や可能性、さらには同社の 銀行業務戦略への準拠性を含めて、完全に視覚的に確認することができます。BNPパリ バ証券はまた、商品カタログをデジタル化することで、既存のサービスや要素を組み直 し、顧客ごとに新たなソリューションを作り出すことも可能になっています。その結果、開 発サイクル全体が短縮され、同社はソリューションをより素早く市場に投入することがで きるのです。 「このイニチアチブは、あるアイデアやコンセプトの周りに全員を集め、そのビジネス・ケー スを検証させ、それに投資すべきかどうかを判断させることを可能にします」と話すのは、 BNPパリバ証券で商品ライフサイクル管理担当リーダーを務め、このイニシアチブを主 導するSébastien Messean氏です。「新商品の検証・開発と、既存商品の展開・メンテナン スを支えるものです。私たちは最終的に、商品開発プロセスにお客様を組み込みたいと 考えています。そうすれば、お客様のニーズをより効率的に、迅速に、なおかつ革新的な 方法で満たすことができるようになるでしょう」 BNPパリバ証券が使用しているソリューションの詳細については、http://bit.ly/ SecuritiesServicesをご覧ください。BN BNPパリバ証券