成功の秘訣

集中して素早く学ぶことで製剤の設計-生産期間を短縮

Jacqui Griffiths
21 June 2018

互換性のないITインフラ、言葉の壁、異なる手法など、こういった問題は製品やプロセスのナレッジを開発から製造へ伝える作業を困難にしている原因の一部に過ぎません。Compassでは、優れた製剤を市場に投入できる秘訣について、英国のCentre for Process Innovation(CPI)のNational Formulation Centre責任者、Graeme Cruickshank氏にお話を伺いました。

COMPASS: 企業はなぜ技術移転を難しいと感じるのでしょうか。また、National Formulation Centreはこの課題の解決をどのように支援しているのでしょうか。

GRAEME CRUICKSHANK: 大企業の組織や部署間でナレッジを1つにまとめようとすると、文化も言葉も違うさまざまな地域のチームが関わってくることがあります。最初に共通点を見いだして、お互いが何を考えているのかを理解し合わなければ、誤解や混乱が生じて何も前に進まなくなってしまいます。

同じ組織の中でさえも、ソフトウェアシステムが互いに連携していないことは多々あります。コスト削減が求められているということは、企業はシステム全体を入れ替えたくはないということです。入れ替えたとしても、今度は社外システムとのコミュニケーションという課題に直面することになります。

基本的には、こうした企業の多くは既存システムを統合する必要があるのですが、このような場合に役に立つのが、誰でも利用できる最先端の製剤の設計・製造に対応したイノベーション・センターです。National Formulation Centreでは、たとえば、業界のナレッジ、研究、テクノロジーを統合して提供することで、企業は製剤を迅速に製品化することができます。

パーソナライズ化などのトレンドにより、技術移転に関する課題はどのように増していくのでしょうか。

GC: パーソナライズ化は、層別化医療から、コーヒーショップで売られているさまざまな飲み物、スーパーマーケットのランドリー用品売り場に並ぶ、粉末、液体、固形、混合などのあらゆる種類の洗剤に至る、ほぼすべてのカテゴリーに存在します。そのため、企業は状況に応じて変化していく消費者の要求に対応するために少量生産を目指すようになり、生産のフラグメンテーションが進み、製剤のスケールアップが特定の地域で行われるようになります。

こうした環境では、研究開発システムと複数施設の製造システムの間で、シームレスに情報を伝達することが今まで以上に重要になります。それによって、1つの拠点で得たナレッジを他の拠点でも利用することができます。

「技術移転を成功させるには、適切な情報を適切な人と共有する必要があります」

GRAEME CRUICKSHANK
英国のNational Formulation Centre責任者

他のセクターからのナレッジは生産実現のための地ならしとして有効でしょうか。

GC: この業界のセクターであれば、最も手っ取り早い方法の1つが異なるセクターのソリューションを使うことです。処方に関する課題のほとんどは幅広い製品の間で共通しているのに、企業は必ずしもそれを認識しておらず、独自のソリューションを作り出そうとしてきたのです。たとえば、デオドラント製品の問題は塗料の問題と類似しています。どちらも、物に素早く均等にスプレーする、素早く乾燥させてベトつかないようにする、自己修復することで利用者がスプレーできなかった部分を補うなど、共通した課題があります。競争が非常に激しい業界では、こうした組織間の水平的な技術移転が一般的です。それによって、ソリューションを発見できる一方で、競合企業または部門間の技術移転に伴う知的財産の問題や防御メカニズムを回避することができるからです。

予測モデリングが果たす役割について教えてください。

GC: 私たちはさらに予測ツールの開発を進めており、優れたデータ収集システムもあり、ナレッジからより多くの成果を得ることができるため、製品を適切にコントロールできます。ただし、やらなければならないことはまだたくさんあります。たとえば、流れて混ざり合う液体やペーストは時間や温度に敏感で加工しづらいこともあり、結果のコントロールや予測は容易ではありません。

設計から生産までのスムーズな移行を実現するための秘訣はありますか。

GC:重要なのは、少しずつ、素早く、徹底的に学ぶことです。結局のところ、技術移転を成功させるには、適切な情報を適切な人と共有する必要があります。そのスキルの多くは、どの属性を測定する必要があるのかを探り当て、質の高いデータを手に入れ、その情報を共有することです。大企業は今、中立的な試験を実施できる場所を探しています。こうした場所であれば、保有するすべてのテクノロジーの優位性を迅速に選別し、どれに的を絞ってスケールアップすべきか客観的に判断できるからですが、費用のかかる大規模な試験を、どれだけ多く実施できて、どれだけ多くを学べるのかには限界があります。ただし、低容量のサンプルを使用するハイスループット・ロボット・システムを活用すれば、数千という規模のデータポイントを生成できます。このようなレベルのデータ密度とデータ品質があれば、それを利用して予測モデルを作成し、次世代の製品に活かすことができます。

誰でも利用できる最先端の製剤の設計・生産に対応したイノベーション・センターにより、企業は製剤を迅速に製品化することができます。(Image © Hero Images / Getty Images)

プロクター・アンド・ギャンブル社

コラボレーションをベースにした技術移転の成功

消費財を扱う多国籍企業のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社は、業務全般でイノベーションのニーズを満たすために、「コネクト・アンド・デベロップ」プログラムを通して個人の発明家や中小企業、大手多国籍企業と提携しています。

英国のP&Gでイノベーションとテクノロジーを統括するEuan Magennis氏は次のように語ります。「我々にはコネクト・アンド・デベロップの強化を専門に扱うグローバル・チームがあり、イノベーションを探求し、有望なパートナーと協力してP&Gや市場に画期的なイノベーションをもたらしています」

しかし、こうしたすべての開発元からアイデアを市場へと移そうとすると協力プロセスが複雑になる、とMagennis氏は語ります。

「技術移転の起点となるのは優れたインサイト、発明、アイデアなどですが、それをサポートする協力関係があって初めて達成することができます」

「そのためには、事業目標や重点分野、有望なパートナー、組織構造に関する重要な問題に取り組み、P&G側で入念に準備する必要があります」

「その後は、経営陣や社内の文化がこうした仕事の進め方をサポートし、報いる必要があります。問題を明確に定義することも重要です。これを十分にやらなければ、たくさんのエネルギーを無駄使いしたあげくに行き詰まってしまいます。また、知的財産がどのように扱われることになるのかをあらかじめ把握しておくことが非常に有効です」

こうした基本的なことが整っていれば、最新のテクノロジーによってチームや拠点全体でイノベーション、学習、コミュニケーションを最適化することができます。

「新しいテクノロジーの迅速かつ効率的な開発や技術移転プロセスには、最新のモデリング技法やバーチャルラーニング機能が必要不可欠です。こうしたツールや技法の利用は、あらゆるイノベーション・プロセスで重要な要素となります」と、Magennis氏は語ります。

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