未来に対応できる働き手

急速に変化する市場で必要なスキルを持った人材を獲得したい企 業のための6つのステップ

Richard Humphreys
17 December 2018

テクノロジーが目まぐるしく変化する今日の働き手には、これまでにないさまざまなスキルが求められています。しかし、供給薄と熾烈な競争が原因で、雇用主はそのようなスキルを備えた人材の獲得に苦労しているのが実状です。ビジネス・教育界のリーダーたちは企業に対し、生き残り策として以下の6つの戦略を採用することで、短期的なギャップを埋めるとともに、長期的な成功を確保することを勧めています。

私たちの働き方と学び方は、加速度的に形を変えつつあります。つまり、雇用主と労働者の双方に大きな変化が訪 れようとしているのです。

「機械にできるとは誰にも予想できなかった仕事を、今では機械が行っています」と話すのは、カリフォルニア州の未来研 究所(Institute for the Future:IFTF)でWork + Learn Futures(学習と仕事の未来)のグループディレクターを務める Parminder Jassal氏。「一方、フルタイム雇用の伸び率は低下し、非常勤のパートタイムで働く人が増えています」

オートメーションが進めば、失業率は上がるのが通例です。ところが、高度なスキルを要する求人枠は、適格な応募者が不
足しているために、世界中で何百万件も埋まらずに残っています。その結果として雇用主は、現代的なスキルをすでに習得
した若い働き手を既存の従業員と入れ替えるよりも、既存の従業員を再教育して新しい役割を任せる傾向にあるのです。「
企業は、従業員の継続的なスキル開発をサポートすることで、特定の専門分野以外にもスキルの幅を広げるように促す必要
があります」と、Jassal氏は語っています。

常に適切な人員を確保したいという雇用主のために雇用の専門家が勧めるのは、以下の6つのステップからなるアプローチ
です。

ステップ1:ニーズの予測

未来研究所の予測によれば、今日の学生が社会に出てから経験する仕事の65%は、まだ世に登場していません。したがっ
て、企業が人材の採用と教育を成功させるためには、自社にとって将来的に必要になる仕事とスキルを予測するとともに、
それに対応できる学生を育てるプログラムを学校と連携して作る必要があります。

「人工知能とロボット工学が台頭するということは、自動化される役割が増えるということです」と話すのは、フロリダ州
タンパのWilsonHCG社でGlobal Strategic Talent Solutions(グローバル戦略的人材ソリューション)担当シニアバイスプレ
ジデントを務めるCraig Sweeney氏。「そのように自動化が進めば、リーダーシップやイノベーション、問題解決、創造性
を基本的な柱とした、高度なスキルとコンピテンシーに対する需要は高まるでしょう」

「雇用主はその過程で、従業員のスキルを向上させる責任を負うことになります。したがって、新たなスキルの開発を促す
ためのサポートをし、変革を推進することは、雇用主のためになるのです」

ステップ2:スキルの開発

企業が自社にとって必要なスキルセットを開発するためには、現時点での自社特有のニーズと将来の戦略的方向性に合わせ
て、学習・能力開発(Learning and Development:L&D)プログラムをカスタマイズするのも肝心です。

「雇用主は、組織内でどのような役割が重要で、それらの役割を担うことのできる従業員を育てるにはどのようなトレーニ
ングが必要なのかを検討すべきです」と、Sweeney氏は述べています。

L&Dは、役割や業界、地域といった、さまざまな角度から検討すべきであるというのがSweeney氏の意見です。

「企業はセグメンテーションを行うことで、従業員のグループごとに個別化された効果的なアプローチで教育を実施するこ
とができます」

世界経済フォーラム(WEF)が2017年に実施した調査では、テクノロジーの進歩によってスキルのニーズが変化した場合
、既存の従業員を再教育することによって対応すると回答した企業の割合は72%にのぼります。そして、企業の3分の2は
従業員に対し、各々の仕事が変化する過程でスキルを身に付けることを期待しています。企業はまた、専門的な役割のため
に追加のトレーニングを実施する対象は、従業員全体のごく一部にとどまるとも見込んでいます。

ステップ3:産学協同

雇用主にとって、インターンシップその他の専門プログラムを通じて大学と提携することは、実社会で必要とされる専門的
なスキルを身に付けた卒業生を確保するための一助となるでしょう。

「当校ではビジネスリーダーたちと連携してプログラムを開発しています」と話すのは、メイン州バンゴーのハッソン大学
サザンメイン・キャンパスでゼネラルマネジャーを務めるWilliam Watson氏。「皆さんには、従業員や新入社員に必要とさ
れる知識とスキルの特定に協力していただいています。講座が完成すると、当校のPartners Program(パートナーズ・プロ
グラム)を通じて企業に教育リソースを提供することで、労働力開発を促すようにしています」

「人々の機会を広げるという点で、潜在的なメリットは多大です」

TILL LEOPOLD氏
世界経済フォーラム ニューエコノミー・アンド・ソサエティ・センター プロジェクトリード

カリフォルニア大学アーバイン校(UCアーバイン)のヘンリー・サミュエリ工学部(Henry Samueli School of
Engineering)で学部長を務めるGregory Washington氏も、産学協同の重要性を強調しています。Washington氏によれば
、UCアーバインは現在までに52社と提携し、共存共栄の関係を築いてきました。

「当校は企業を必要とし、企業は当校を必要としているのです」と、Washington氏。「当校では、現実に根差した研究と
問題に常に取り組むために、企業を必要としています。当校は人材を作りますが、その人材のあり方に企業は影響を及ぼす
ことができるのです」

ステップ4:多様性の促進

従業員の多様性は、採用活動でもイノベーションを後押しする上でも役立つ可能性があります。

「チームが多様性に富んでいれば、さまざまな視点を持つ人々から多種多様な解決策を引き出すことができます」と
、Washington氏。「それらの視点には、個人がどのようにして日常生活を送り、どのようにして問題を解決しているのか
が反映されています。こうした問題解決のメカニズムは、企業にとって重要です。つまり、思考に多様性を持たせれば、導
き出される答えの幅を広げることができ、ひいては、代替的な解決策の質を向上させることもできるのです」

多様性は、Washington氏がUCアーバインで採用目標を達成する上でも役立ちました。これは、多様性が候補者すべてに「
自分は歓迎されている」という印象を与えることで、さらなる多様性を呼ぶからでもあります。

「当校では教員の分野で最も成長がありました」と、Washington氏。「過去5年間で53人の教員を採用しましたが、そのう
ち19人は女性。これは全国平均の数倍に当たります。当学部の学科長は、女性が3分の1を占めています。来年には半分が
女性になる予定ですが、この割合は前代未聞です」

ステップ5:学習奨励策

生涯学習は、多くの企業で何十年も二の次にされてきましたが、その状況も変わりつつあります。「それ[生涯学習]をあ
りとあらゆる職務のプロフィールに組み込み、しかるべき方法で奨励・促進すれば、利用する従業員は増えるでしょう」と
話すのは、スイスに拠点を置く世界経済フォーラム(WEF)のニューエコノミー・アンド・ソサエティ・センタ
ー(Center for the New Economy and Society)でプロジェクトリードを務めるTill Leopold氏です。

例えば、国際的な軍需・サイバーセキュリティー企業であるRaytheon社は、独自の教育用モジュール「The Inclusive
Leader(インクルーシブ・リーダー)」を導入しました。これは、多様性に富んだ職場でマネジメントや指導を行う際の
対象範囲と課題に対してリーダーが理解を深めるための一助として開発されたものです。Raytheon社の『2017 Corporate
Responsibility Custom Report(2017年企業責任慣行報告書)』によれば、同社のリーダーの90%以上はこの講座を修了し
ており、受講者からは「非常に役に立つ」との感想が寄せられています。

Raytheon社も多くの雇用主と同様、承認済みの大学講座を受講したフルタイム従業員を対象に、年間1万米ドル(8,767ユ
ーロ)もの受講料を返還しています。Raytheon社のこの「Education Assistance(教育支援)」プログラムのねらいは、生
涯教育への参加を従業員に奨励・促進することで、個々の業績向上を後押しすることです。

ステップ6:オンラインの人材

WEFの見積もりによれば、今からわずか1年後の2020年に企業が必要とするスキルの3分の1は、今日の学校では日常的に
教えられていません。これはつまり、学校・大学が雇用主のニーズに追い付くまでの間、多くの企業は必要な働き手をフル
タイムで雇用できないことを意味します。

契約労働者―――企業が必要とするスキルを備えているものの、さまざまな企業で多種多様なプロジェクトに携わることを
好む人々――-は、雇用主が当座のスキルギャップを埋めたり、特定のプロジェクト向けに会社の能力を増強したり、短期
的な人員不足を解決したりするために重宝します。

そして今や、労働力ソリューション企業のCatalent社が2018年に発表した報告書『Reimagining Work 20/20(クリアな視点
からの労働再考)』で指摘しているように、契約労働者と、その業務を必要とする雇用主とのマッチングを支援するオンラ
イン採用プラットフォームが登場したおかげで、そのような働き手を見つけることはかつてなく容易になりました。

採用された契約労働者は、デジタル・イノベーション・プラットフォームを利用することで、フルタイム従業員と同じくら
い効果的に働くことができます。単純なウェブブラウザ接続を通じて、円滑なコラボレーションを行うことも、アクセス権
を与えられた社内情報やプロセスにアクセスすることも可能です。

契約労働者の採用は、短期的かつ特殊なニーズを満たすためだけでなく、フルタイム職の候補者を見つけるためにも役立つ
可能性があります。現に、多くの契約労働者は、企業文化をじかに観察できる契約労働を利用して、働きたい会社を「物色
」しているのです。「人々の機会を広げるという点で、潜在的なメリットは多大です」と、Leopold氏は述べています。

将来の成功の確保

雇用主は、必要な人材を発掘・育成する上で困難な課題に直面しています。しかし、今回紹介した6つの戦略は、既存のニ
ーズを満たすと同時に将来のスキルを育てるための助けになることでしょう。他方、労働者の側も、従業員を入れ替えるの
ではなくスキルアップさせることに注力する雇用主から長期にわたり雇用されるという、安定性の恩恵を享受できることに
なります。

ただし、この新たな安心には、新たな責任も伴います。それは、雇用主のみならず従業員も、日々の仕事に不可欠な要素と
して生涯学習に取り組まなければならないという責任です。

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