ゲームはこれから

A wave of gamification rushing into the education world: the pros and cons of educators and parents over its value

Jacqui Griffiths
19 October 2014

ゲーミフィケーションが北米と欧州 の教育現場で勢いを増し始める 中、教育者や親たちは学習体験に 対するその効果のほどを見極めよ うとしています。

ゲームには老若男女の注意を引き付 ける力があります。そして今、教育者 たちはゲームの原理を教室で応用 することで、若き学び手の学力とライフ スキ ルの育成に役立てようとしています。

「デジタル ゲームをめぐる文化は、世界を取 り込むほどに成長しつつあります」と話すの は、米国テキサス州オースティンを拠点とす るニューメディア コンソーシアム(NMC)のシ ニア ディレクターを務めるSamantha Adams Becker氏です。NMCは、学習向けの新興テク ノロジーの状況について研究する大学、博物 館・美術館、法人が加盟する国際的な連合組 織です。「IBM社や世界銀行をはじめとする主 要な組織は、職業・学術教育に役立つとして ゲーミフィケーションを受け入れています」 と、Becker氏。「現在、ゲーミフィケーションが 生徒の注意を引く力を秘めていることを認め る親や教師は増えつつあります」

遊び心に満ちた学習

ゲーミフィケーションとは、ゲームのような仕 組み――ポイント付与や、バーチャルな超パ ワーアップの機会など――をゲーム以外の環 境に応用することです。ゲームベース学習(GBL)をゲーミフィケーションの一種として扱 う場合もありますが、GBLが特定の学習成果 をもたらすゲームを使用するのに対し、ゲー ミフィケーションは生徒の注意を引き付け、 チームワークや創造的・批判的思考のような 行動を促すことを目的としています。

教育者専用のさまざまなデジタル ゲーミ フィケーション ツールも開発されています。 授業態度のフィードバック・報告用アプリであ るClassDojoがその例です。ただし、ゲーミ フィケーションのアプローチは必ずしもハイ テクである必要はありません。

「ゲーミフィケーションとは、ゲームの最も意 欲を掻き立てる側面をゲーム以外の状況で 使うことを意味します」と説明するのは、米国 ウィスコンシン州のUniversity School of Milwaukeeで世界史・国際関係の教鞭をとる Michael Matera氏です。「他のほぼあらゆる 授業方式と相性が良いので、ローテクな学校 からノーテクな学校、完全に統合されたオン ライン教室に至るまで、ほぼあらゆる教育現 場で利用することができます」

生徒の意欲と学力を 高める方法

ゲーミフィケーションの重要な強みの一つ は、本来であれば無味乾燥な印象を与えるよ うな題材にも生徒を没頭させられることです。

「世界史は、退屈極まりない授業の一つにな ることもあれば、人類の物語――つまり私た ちの物語――を探究するとても楽しい行為に なることもあります」と、自身のカリキュラム 全体を「ゲーム化」して2年になるMatera氏は 言います。たとえばMatera氏は、6年生の世界 史の授業を受け持っています。この授業は 「貴族の王国(Realm of Nobles)」と呼ばれ、 各クラスは王の死後にその後釜を狙う4つの 一族のいずれかの役割を演じます。生徒たち はさまざまな課題に協力して取り組みなが ら、アイテムを発見し、新たなスキルを獲得 し、謎を解明していくのです。

「ゲーミフィケーションは、 『自分が学びの主役である』 という意識を生徒に持たせるための 助けになっています。」

MICHAEL MATERA氏
UNIVERSITY SCHOOL OF MILWAUKEE 世界史・国際関係担当教師

「ゲーミフィケーションは、『自分が学びの主 役である』という意識を生徒に持たせるため の助けになっています」と、Matera氏。「学習体験全体を通じて、生徒はきわめて創造的 で、なおかつ批判的な思考をすることへの意 欲を掻き立てられるのです。歴史が生き生き したものになると、生徒は夢中になります。た とえば、中世について学んでいたとき、私は 教室をイタリアの修道院とみ し、生徒が彩 色写本に取り組んでいるということにしまし た。シミュレーション形式の授業はいつも大 受けで、素晴らしい対話が生まれます」

生徒の成績を見れば、成果は一目瞭然である とMatera氏は言います。「あらゆる基準で見 て、私の授業は学問的には以前よりも高度に なりました。しかし、この2年間すべての評定 に関して平均点は上がっています。この成功 は、ゲーミフィケーションにおけるフィード バックと『失敗からの学習』の役割に負うとこ ろが大きいと考えています。生徒はゲーム体 験の中で、小さな判断を下すのに役立つ小さ なフィードバックを頻繁に受け取ります。時間 とともに、自主的に動き、考え、創造すること への抵抗感が薄れていくのです」

成功の測定

ゲーミフィケーションが使用されている地域 の親と教育者たちは、ゲーミフィケーション の最善の利用法――そして、その効果の測定 法――に関心を寄せています。 

「親、教育者、学習者は、学習の成果がはっ きりと目に見えるのであれば、新しいアプ ローチを受け入れようとします」と述べるの は、英国中部の町コービーのBrooke Weston Academyで地理を教えるKevin Glesinger氏 です。

しかし、南アフリカのヨハネスブルクにある Crawford College Lonehillで地理と思考スキ ルの授業を担当するSean Hampton-Cole氏 は、次のように懸念しています。彼は旧来の 成績評価法などの教育慣行に反対していま すが、ゲーミフィケーションはそれらをかえっ て固定化してしまうのでは、と。 

「教師と学校は自分たちが真に革新を行おうとしているのか、あるいは単に既存の問題を 定着させようとしているだけなのか、よく考え るべきです」と、Hampton-Cole氏。「適切に 行われれば、ゲーミフィケーションは21世紀 の授業の質を高める可能性があります。しか し、表面的に偏った加点方式やデータ、成績、 評点を土台とするシステムの問題が存在しま す。ゲーミフィケーションは、その報酬に基づ くフレームワークによって、従来よりも楽しく 有意義で没頭できる体験であるように見える ものの陰に、そのような問題を隠してしまう 恐れがあるのです」

「教室のゲーム化に乗り出す前に、 教師と学校は自分たちが真に革新を行おうとしているのか、 よく考えるべきです」

SEAN HAMPTON-COLE氏
CRAWFORD COLLEGE LONEHILL 地理・思考スキル担当教師

英国ノリッジで5年生の女の子を育てる Debbie Morris氏にとって最も重要な基準は、 ゲーミフィケーションがわが子にとって価値 のあるものかどうかという点です。「娘はコン ピュータ ゲームに目がありません。ですか ら、ゲーミフィケーションが学校でラ フ ス キルを習得し向上させるための役に立つな らば、諸手を挙げて賛成します」と、Morris氏。 「ただし、指導計画について先生と話し合い、 娘と自分がそのアプローチに満足できるかど うか確かめるつもりです。」

米国ウィスコンシン州のUniversity School of Milwaukeeで世界史と国際関係の授業を担当するMichael Matera氏は、ゲーミフィケーションを利用することに よって歴史を生き生きとしたものにしています。これはMatera氏の生徒が、紀元前490年にペルシャ軍とギリシャ軍が争ったマラトンの戦いを再現している様子で す。(画像©Michael Matera)

真剣勝負

ゲーミフィケーションは教育界では比較的新 しいトレンドですが、成長する見込みは十分 にあります。たとえばシンガポールでは、国立 教育研究所が化学のカリキュラムに対応した ビデオゲームを開発しました。また、ゲーム 会社のRockmoon社とフューチャースクール @シンガポール(FutureSchools@Singapore) も、自主学習用の没入型モバイルゲーム ア プリのプロモーションを共同で行っています。

ゲーミフィケーションが定着するまでに要す る時間は、地域によって差があるかもしれま せん。しかし、ゲームベース学習に対しては 大きな関心が寄せられています。たとえば NMCによると、ブラジルでは特定の学習シナリオ向けのデジタル ゲームの開発や、幼稚 園児から高校生向けの学習ゲームのデザイ ンのような、教育手法に対する研究が行われ ているといいます。

「Kinectテクノロジーを有するMicrosoftなど の大企業は、ゲームを教室に融合させる取り 組みを学校や教育者と共同で進めています」 と、Becker氏。「シミュレーションベース学習 も注目すべきトレンドです。ゲーミフィケー ションをミッションとする産学連携はさらに増える可能性があります」

Becker氏いわく、このトレンドは長らく時間の ムダとされてきたゲームに対する世間の認識 を変えるためにも一役買っています。「ゲーム は当初から気晴らしとみなされてきました。 しかし、ゲーミフィケーションのわくわくする ような用途が教育・学習分野に存在すること が明らかになったのです」

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