男女格差

企業における女性の登用が進まないことにしびれを切らせ、多くの政府が数値化を導入

Rebecca Lambert
26 October 2013

有能な女性を育成し昇進させる事によって、多大な経済的利益が見込める事はさまざまな調査で判明しており、経営陣の女性比率が高い企業はトップレベルの業績を収めています。ところが、企業や政府の上層部はいまだ男性の牙城であるのが実状です。そこで、ヨーロッパの各国政府は、男女平等を義務付ける法律の制定を検討しています。

女性は世界の潜在的な人材基盤の半数を占めています。しかし、世界経済フォーラム(WEF)が発行した『Global Gender Gap Report2012』
(2012年世界男女格差年次報告書)によると、上級職、賃金、リーダー層の領域における男女格差は著しく、あらゆる国の企業および政府で依然として根強く存在しています。

を十分に生かしきれない組織は、自らの成功を制限しているという事実が存在するにもかかわらず残っています。「さまざまな調査で明らかになっているように、男女格差の縮小に向けた取り組みは、最終損益、イノベーション、チームの成功に寄与してます」と話すのは、同報告書の執筆者の一人で、WEFのGender Parity and Human Capital(男女共同参画・人的資源)担当シニアディレクターを務めるSaadia Zahidi氏。「性別の多様性を追求することは、教育水準の高い、成長中の労働力セグメントを利用することにもつながります」

世界的な経営コンサルティング会社であるMcKinsey社は2007年から毎年、『Women Matter』(女性が企業にもたらすインパクト)と称する調査プロジェクトを実施していますが、この調査でもZahidi氏の所見を裏付けるように、上級管理職の女性比率が最高水準にある企業は、組織・財務パフォーマンスが向上していることが明らかになっています。また、ある調査では、ヨーロッパの上場企業のうち経営層における性別の多様性の度合いが高い上位89社は、同業他社に比べて自己資本利益率(11.4%対平均10.3%)、営業成績(利払い前利益率が11.1%対5.8%)、2005年から2007年の株価成長率(64%対47%)が平均して高いことも分かっています。

「今日、女性は世界の大卒者の半数以上を占めています。経済協力開発機構(OECD)加盟国において、高等教育修了者に占める女性の割合は間もなく70%前後に達するでしょう」と話すのは、過去に多数のポルトガル企業で人事部長を務めた経験があり、現在はポルトガル貯蓄銀行(CGD)で副ディレクターを務めるPedro Taborda氏。「成功を収めるために、企業は労働人口全体の人材を活用しなければなりません」

支出の70%を女性が管理

Taborda氏にとって男女格差が特に不可解なのは、女性が消費者支出の大半を管理していることです。「ヨーロッパでは、女性は全人口の51%を占めるだけなのに、家計消費の70%以上を握っています」と、Taborda氏。「企業のリーダー層の男女比を消費人口の構成に近付けるのは、ビジネス上、理にかなったことです」

しかし、企業や政府は、女性従業員や職員の能力を平等に活用しているとはとても言えない状況です。世界的な調査・格付け会社であるGMI Ratings社が毎年実施している調査『Women on Boards』(女性取締役調査)の2013年度版では、世界の上位企業の取締役会における女性比率はわずか11%にとどまっていることが明らかになりました。この比率は、2011年12月から0.5ポイント増、2009年からわずか1.7ポイント増となります。同調査では、地域によって大きなばらつきがあることも浮き彫りになりました。先進国では、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが前年度に続いてトップの女性取締役比率(それぞれ36.1%、27%、26.8%)を維持しているのに対し、カナダは2012年と同率の13.1%と伸び悩んでいます。先進国のうち女性取締役の比率が最も低いのは前年度と同様に日本で、1.1%にとどまりました。

McKinsey社が2012年に発表した報告書『Women Matter:An Asian Perspective』(女性が企業にもたらすインパクト:アジア諸国の現状)によると、アジア全体における企業の取締役の女性比率は平均してわずか6%、執行役員では8%となっています。国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)は2013年4月、アジア太平洋地域では女性の雇用機会が制限されていることにより、毎年推定890億米ドルの損失が生じていると報告しました。

「企業はそれぞれ、自社の男女格差、企業文化、そして国の政策に 最も見合った慣行を特定する必要があるのです」

Saadia Zahidi 氏
WEFのGender Parity and Human Capital(男女共同参画・人的資源)担当シニア ディレクター

Facebook社のCOOを務めるSheryl Sandberg氏は、著書『Lean In』(邦訳『LEAN IN(リーン・イン)女性、仕事、リーダーへの意欲』)で次のように述べています。「厳然たる事実は、男性が依然として世界を動かしているということです。女性は学業では男性を上回る成績を収め続けていますが、どの業界のトップでも、女性が真の進歩を遂げることはなくなってしまいました。これは、世界に最も影響を及ぼす意志決定が行われる際、女性の声が平等に反映されないことを意味します」

法的措置

一部の国の立法者は、自分たちの地位においても男女不平等が存在するにもかかわらず、企業が男女格差をなかなか縮小しようとしないことにしびれを切らしました。ベルギー、フランス、アイスランド、イスラエル、イタリア、マレーシア、オランダ、ノルウェー、スペインは、いずれも企業役員の男女平等を推進する法律を導入しています。職員の54.5%を女性が占める欧州委員会も、企業役員の女性比率を2020年までに40%に引き上げることを義務付ける法案を提出しました。

誰もがそのような数値化を得策であると考えているわけではありません。「数値化によって表面的に公平さが促進されるかもしれませんが、個人にとっては不公平が解消されるよりも悪化する傾向があります。製鉄会社からメディア企業まで、特性が大きく異なる企業に対して一律に一定の数値化を課すのは不合理だと思います」と、ドイツのKristina Schröder 家族相は2012年3月、Spiegel Onlineで述べています。Schröder大臣によれば、家庭を持つ女性は上級幹部に期待される週80時間の労働を拒む傾向にあり、それが女性の昇進を難しくしているともいえます。ルクセンブルク出身の欧州議会議員(MEP)であるAstrid Lulling氏も数値化反対派です。「なぜ多くの国では中央銀行のトップが女性ではないのでしょうか。それは、現在そのような地位に就くべき年代の女性たちが、数学や金融、経営、経済学を学ばなかったからです」と、Lulling氏はドイツの放送局Deutsche Welleに対して語っています。

それでも数値化支持派の考えは変わりません。「数値化は好きではありませんが、その効力は気に入っています」と、EUに対する同法案の提出を担当する欧州委員のViviane Reding氏は述べています。同様に、Easyjet社のCEOを務めるCarolyn McCall氏も、『Management Today』誌に対して次のように述べています。「反発が生じ、ものごとの進行がさらに遅れる可能性が非常に高いため、数値化制には反対なのですが、役員のバランスを向上させるのに必要はあります。わたしたちが重視すべきなのは、女性幹部の人材パイプラインです」

実践

BAE Systems社とLockheed Martin社は、伝統的に男性中心の業界である航空宇宙・防衛産業に属する企業ですが、自社のビジネスを率いる最高責任者に女性を任命した一流企業でもあります。

2013年1月1日にLockheed Martin社のトップの座に就いたMarillyn Hewson氏は、2012年11月に開催された同社のNinth Annual Women’s Leadership Forum(第9回年次女性のリーダーシップフォーラム)において、次のように述べています。「わたしたちは長年にわたり、人材への投資と育成を行ってきました。上級職に進出する女性リーダーがますます増えている現状は、わたしにとって驚くべきことではありません。彼女たちは競争し、結果を出してきたのです。わたしはLockheed Martin社と、わたしたちが人材パイプラインを構築するために行ってきたことを、非常に誇りに思っています。わたしたちは、従業員の成長へ投資してきました。従業員が次の仕事に対する準備を整えられるよう手助けをすることに、懸命に取り組んできたのです」

4%

現在、Fortune 500 社の CEO 全体に占める女性の割合は 4%。 Fortune Magazine

しかし、女性従業員を経営トップ候補として育成するためには、企業はまず、女性に配慮した方針や文化を打ち出さなくてはなりません。

「家族休暇制度、育児支援制度、性差別のない課税制度はいずれも、経済参加の男女格差に影響を及ぼしています」と、Zahidi氏。「企業はさらに、測定および目標設定、後輩指導および訓練プログラム、意識向上、インセンティブおよび説明責任、ワークライフバランスなどを実践することもできますし、これらの慣行は、経済的な男女格差の縮小に影響を与える可能性があります」

世界的な防衛・航空宇宙・セキュリティ企業のBAE Systems社でDiversity and Inclusion(多様性と受容)部門のリーダーを務めるDonna Halkyard氏によれば、BAEではそうしたプログラムを非常に重視しているといいます。「当社では学校向けの巡回PR活動を実施することによって、少女たちが科学、技術、工学および数学(STEM)関連の職業を目指すよう働きかけています。現在、英国のSTEM分野の実習生における女性比率は全国平均で5%ですが、当社ではその倍以上の女性実習生を受け入れています」

Halkyard氏は、米国子会社であるBAE Systems Inc.の社長兼CEOを務めるLinda Hudson氏が、親会社のグローバル執行委員会のメンバーであることを指摘します。「Lindaは、わたしたちの男女バランスに関する目標の達成と、女性の成功促進のために、心から尽力してくれています。Lindaは、当社の米国事業の上級リーダーたちで構成された多様性に関する協議会を自ら設立し、米国事業のあらゆるレベルの女性たちと積極的に関わり、彼女たちが能力を最大限に発揮できるよう手助けしています」

BAE Systems社はまた、同社のあらゆるレベルの女性が各自の経験を共有し、助言し合い、各自の成功にスポットライトを当てることのできる世界的な女性向けバーチャルフォーラムなどの従業員ネットワークも構築しています。「現在、当社の取締役の25%は女性が占めています」と、Halkyard氏。「当社の会長は、この水準を最低でも維持することを公約しています。当社ではまた、執行委員レベルの幹部の女性比率を25%以上に確保するという企業目標も掲げており、この目標は2012年6月に達成しました」

BAESystems社のように、自社特有の企業文化を補完し向上させるような方法で性別の多様性を実践することで、企業は最大限メリットを得ています。Zahidi氏は次のように語っています。「結局のところ、企業はそれぞれ、自社の男女格差、企業文化、そして国の政策に最も見合った慣行を特定する必要があるのです」

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