男の子は積み木が好きで、女の子は本が好き。幼児期からみられるこうした単純な傾向が、世界のエンジニアの89%を男性が占めるという現状につながっています。しかし、世界中でエンジニアが切実に求められる現在、人口の半分を占める女子のクリエイティブな問題解決能力を、彼女たちが2歳になるかならないかのうちに切り捨ててしまっていいのでしょうか。
大人になってエンジニアという職業を選択した数少ない「女子」の一人であるDebbie Sterling氏は、そうではないと考えています。彼女は女の子がエンジニアリングや建築に対して関心を持てない理由は何かを突き止めようとしました。その取り組みの成果が、ゴールディ・ブロックスという新しい組み立て玩具シリーズです。ゴールディ・ブロックスは、ゴールディという名前の女の子の冒険を描いた絵本のストーリーが土台となっています。主人公のゴールディは発明家で、友達の助けを借りながら実際にありそうなエンジニアリング上の問題に取り組みます。女の子たちは絵本を読みながら、絵本の中でゴールディが作るものを自分でも作り、完成した「マシン」を動かしてその仕組みを確かめるのです。
「子どもの頃、『エンジニアリング』という言葉には常に恐れを抱いていました」と、Sterling氏。「エンジニアリングは男の子だけのものだと思っていたのです。私は、エンジニアリングは自分たちのものでもあるのだと女の子が幼い頃から思えるように、ゴールディ・ブロックスを作っています。ゴールディ・ブロックスは、読み手である女の子達がお手本にできるようなキャラクターや、彼女たちが共感できるストーリー、ユーモアのセンスを取り入れることで、女の子がしり込みするような要因を少なくし、楽しく組み立て作業に取り組めるようにしています」
ゴールディ・ブロックスは、読書を好むという女の子の特長と、インタラクティブ性の高い玩具とを組み合わせ、「本を読みながら組み立てていく」という斬新なアプローチをとることによって、ブロック型の玩具で遊ぶことへの興味を女子から引き出そうとしているのです。「要は、男の子は組み立てることが好きで、女の子は読むことが好きだという単純な事実に尽きるのです」と、Sterling氏。「ゴールディ・ブロックスは空間的な要素と言語的な要素を組み合わせています。女の子は自分が『なぜ』それを組み立てているのかを知りたがるからです」
Sterling氏は、スタンフォード大学でエンジニアリングの授業に取り組む中で、この男女の違いに気付きました。このギャップについて考え抜いた結果、ゴールディ・ブロックスのアイデアを思いつきましたが、実現までには長い年月を要しました。しかし、長い時間をかけたことが結果的には幸いします。Sterling氏が自作のおもちゃを発表準備を整えている間に、彼女のベンチャー事業の資金調達につながる画期的な方法、すなわち「クラウドファンディング」がインターネット上に登場したのです。Sterling氏は100人以上の子どもの協力を得て試作品をテストしたうえで、クリエイティブなプロジェクトを対象とする資金調達サイトKickstarterに、簡単な紹介文と共に動画を投稿しました。Sterling氏は動画の閲覧者に向けて、プロジェクトに賛同するなら(その時点ではまだ存在していない)製品を注文し、代金を前払いしてほしいと説明しました。すると30日足らずで、目標額の約2倍にあたる25万ドルもの金額が集まりました。こうして彼女の考案した絵本付きおもちゃの第1弾には次々と注文が舞い込み、発売予定時期の二カ月前には「完売」していたのでした。
「ゴールディ・ブロックスは、問題を解決して空間能力を開発するチャンスを女の子にもたらします」と、Sterling氏。「私は女の子に、あらゆる機会を探ってもらいたいと思っています。女の子は将来、何にでもなれると信じています。なぜなら、女の子は誰でも、単なるお姫さま以上の存在だからです」
訳注:2013年5月現在、日本国内では未発売。