集合知のパワー

オンライン集合知が独創的な解を導く

Cathy Salibian
25 April 2013

電気自動車、商号、がんの治療法。いずれ独創的な発想が求められるテーマです。従来、企業はこうした課題の解決を専門家に依頼してきました。しかし今、インターネットを使い、グローバルに広がる知性の宝庫にアイデアを求める「クラウド・ソーシング」と呼ばれる手法が、ときに脚光を浴び、ときに議論を呼んでいます。

2012年、コミュニティがデザインした世界初のオフロード車Rally Fighterと共に、自動車メーカーのLocal Motors社が華々しく登場しました。同社CEOのJay Rogers氏は、Rally Fighterを作るにあたり、2万人のデザイナーやエンジニア、製造関係者、そして熱心な自動車ファンのオンライン集合知を活用したのです。

Rogers氏は次のように述べています。「ものづくりには二つの方法があります。一つは、問題解決に適した人材を雇うことです。もう一つは、クラウドを編成し、そこでより優れたアイデアをより素早く集める方法です」

Rogers氏は、クラウド・ソーシングとして一般に知られている、分散型の問題解決手法の先駆者です。2006年6月にジャーナリストであるJeff Howe氏によって生み出されたこの言葉に端を発し、いまや「共創(co-creation)」や「クラウド・クリエーション(crowd-creation)」、「クラウド・ボーティング(crowd-voting)」、さらには「クラウド・ファンディング(crowd-funding)」といった言葉やサブジャンルが広まっています。これらのすべてに共通するのは、知性や独創性、さらには資金といった集合的なリソースの掘り起こしを目的としている点です。

クラウドでR&Dも様変わり

元海兵隊員であるRogers氏は、ハーバード・ビジネス・スクール在学中に、クリエーターとしての消費者、という新しいパラダイムを考案しました。そのアイデアはハーバードで毎年行われているビジネスプラン・コンテストで優勝を収め、それから間もなくRogers氏はLocal Motors社を設立しました。Rogers氏は次のように述べています。「私はイラクで友人を失い、今は4人の息子がいます。私は社会に貢献したい。私たちに必要なのは、より多くの車ではなく、より良い車なのです」

Rogers氏は、大量生産に重点を置く従来の自動車のビジネスモデルはイノベーションの妨げとなると確信しています。「古いやり方では車を開発するのに2億ドルから10億ドルの資金と5年から7年の期間が必要です。それは本質的に非効率的です」

一方Local Motors社では(その)5倍のスピードとなる12カ月から18カ月の期間、そして10分の1のコストで車を開発しています。同社では集約型の大規模工場を建設するのではなく「ミクロ工場」をフェニックス郊外で運営しており、今後もこうした工場をマーケット(実際の消費地)の近くに配置していきたいと考えています。

産学連携でも注目される集合知の力

交通渋滞やスモッグが課題となっているアジア太平洋地域では、域内の多数の自動車メーカーが日本の電気自動車普及協議会(APEV)の会員となっています。APEVでは新世代の超小型モビリティ(SMEV)の開発に向け、世界中の大学生が3Dソフトウェアで作成したデザインを提出し競い合う「集合知」のコンテストを立ち上げました。

「一つは、問題解決に適した人材を雇うことです。もう一つは、クラウドを編成し、そこでより優れたアイデアをより素早く集める方法です」

JJay Rogers氏
Local Motors社CEO

APEVの代表幹事であり、株式会社タジマモーターコーポレーション代表取締役会長兼社長である田嶋伸博氏は次のように述べています。「コンテストでは、常識にとらわれないユニークで楽しいSMEVのアイデアを期待しています。業界常識にとらわれない、他業界・他業種の方々が入り、ダイバーシティに富んだ環境で共創することで、思ってもみなかった成果が表れます。そして今日のコラボレーションのためのソフトウェア・ツールを活用することで、時間的場所的制約を超えた協業が可能となります」

APEVコンテストの参加機関の一つが東京大学です。コンテストは学生にとって実社会での経験や人脈を得る機会となっています。

東京大学大学院情報学環の山内祐平准教授は次のように述べています。「学生たちはこのプロジェクトを通じてAPEV会員企業のエンジニアの方々と交流します。企業のエンジニアは学生にとっての助言者、そしてロールモデルとなります。学生たちはプロのエンジニアがデザインにどのように取り組むのかを学んでいきます。一方、大学としては研究を通じて得た知見を応用し、より広く社会に役立てていくことができます」

クラウド・ソーシングの落とし穴

しかし、共創は常に良い結果を生むのでしょうか。懐疑派は、サンドイッチペーストVegemiteの新商品名を決める一般投票で一位を獲得した「iSnack 2.0」が失敗に終わった例を指摘します。ビジネスライターであり社名や製品名の名付けサービスであるNamedAtLastを運営するMarcia Yudkin氏は、クラウド・ソーシングには二つの重大な危険性があると言います。

「ダイバーシティに富んだ環境で共創することで、思ってもみなかった成果が表れます」

田嶋伸博氏
電気自動車普及協議会(APEV) 代表幹事

「一つ目は機密性が失われる危険性です。参加者から最高のアイデアを得るには、プロジェクトに関して恐らく非公開とされるべき具体的な情報を提供しなければなりません。そしてもう一つは、法的訴訟に発展する危険性です。盗作されたアイデアが何者かによって投稿された場合、商標権侵害やその他のトラブルで訴えられる可能性があります。これは参加者の適性や入念な審査をどう実施するかによって大きく左右されますが、アイデアの提供者に制限を設けた場合、それはクラウド・ソーシングというより、むしろアウトソーシングに近くなります」

DARPAの壮大な実験

インターネットの起源となった通信ネットワークを1960年代に運用し、イノベーション・リーダーとして位置づけられているアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、海兵隊の水陸両用車のデザインコンテストでクラウド・ソーシングの概念を検証しています。プロジェクトには機密情報の漏えい防止策も含まれています。

クラウド・ソーシングによる軍用車両のデザインでDARPAと協業したLocal Motors社のRogers氏は次のように述べています。「インターネットによって我々の世界との関わり方は根本的に変わりました。変化のスピードは加速しており、それが車の製造から戦争での戦い方に至るまで、我々のあらゆる行為に影響を及ぼしています。世の中にはより良い製品作りを夢見るイノベーター集団がいます。我々は彼らの独創性を引き出すようなプラットフォームを提供します」

Related resources