Guessしない guess社が行く道

アパレルメーカーCOOは データで身を固めて顧客ニーズを把握

Tony Velocci
24 October 2013

1 min read

ビッグデータやソーシャルメディア、買い物客のスマートフォンとひも付けされる位置情報サービスの利用が進む中、小売業界はITによる大変革に直面しています。COMPASS編集部は、将来を垣間見るべく、最先端ファッションブランドGuessのCOOで、小売業のITを変革し続けてきたMichaelRelich氏に話を伺いました。

Apple社のiPadが発売されてちょうど3ヵ月が経った2010年7月、ロサンゼルスに本拠を置くアパレル大手Guess Inc.で当時エグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報責任者(CIO)を務めていたMichael Relich氏は、フランスで開かれたMicroStrategyのコンファレンスに出席しました。

タブレットが社会に与える潜在的な影響について考察する基調講演を聞きながら、Relich氏はすかさず米国のGuess社プロダクトマネージャーに電子メールを送り、iPadを3台購入するよう指示しました。Relich氏はiPadを使用して、会社全体で蓄積した豊富なデータを分析すれば、Guess社のバイヤーは商品開発計画に関する決定をより迅速かつ正確に行えるようになると予見したのです。iPadには、会社で使っていたスプレッドシートとは異なり、商品番号だけでなく商品画像も表示できるというメリットもあって、すぐに受け入れました。

「Mikeは、ビジネス アナリティクスから 最大の価値を見出す 先見性の物主です」

Barbara Wixom氏
MITスローン経営学大学院 情報システム研究センター主席研究員

それに続く試みとして、Guess社はiPadを店舗に配置し、社内のバイヤーが各店舗の売上数に関する情報をほぼリアルタイムに得られるようにしました。タブレットは買い物客にも歓迎され、ロイヤルティ・プログラムのポイントをチェックしたり、欲しいアイテムがオンラインの在庫にあるか、他の店舗にあるかを調べるのに利用されました。

Guess社は時代を先取りしたこのプロジェクトによって、2010年、The Data Warehouse Institute(TDWI)のビジネス インテリジェンス カテゴリーで「Best Practices」賞を受賞しました。ただし、IT分野で30年の経験を持つベテランのRelich氏にとっては、このようなイノベーションも売上増加につながってはじめて価値を見出しめす。「iPadはすばらしいデバイスですが、ビジネス上重要なのは、情報と社内資源をつないで価値を生み出せるかが問題です」とRelich氏は述べています。

ビジネス アナリティクスを 最大限に活用

Tの活用によってビジネス価値を生み出すことに注力してキャリアを積んできたRelich氏は、最近、その功績が認められて最高執行責任者(COO)に昇格しました。Guess社はこの昇格人事を発表するにあたり、ITだけでなく、物流やロジスティクス、eコマース、戦略的計画の分野においても、同氏が世界規模でますます大きな責任とリーダーシップを担うことになると述べました。Guess社の共同創設者兼CEOであるPaul Marciano氏は、「当社が成功を収めるうえで、テクノロジー、スピード、ブランドの統合による相乗効果が今まで以上に不可欠になると確信しています。その意味で、これらの分野で優れた実績を残してきた彼は、新しい最高執行責任者に最適な人物です」と述べています。TDWIのベストプラクティス審査員の1人で、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営学大学院の情報システム研究センター主席研究員であるBarbara Wixom氏は長年、Relich氏のキャリアに注目してきました。「Mikeは、ビジネスアナリティクスから最大の価値を見出す先見性の物主です。しかし、それ以上に感心させられるのは、単なるアイデアを実現させる彼の実行力です」とWixomは語っています。

「今起きているテクノロジー主導の変化は、貨物列車のように、イノベーションを乗せるものであり、その意味で革命的です」

Michael Relich氏
Guess社COO

Guess社は、「Best Practices」賞に加え、TDWIから「Emerging Technologies and Methods」賞も授与されています。『Retail Info Systems(RIS)News』はRelich氏にスポットライトをあて、「Strategic Impact」カテゴリーで彼を「2011RIS Retail CIO of the Year」に選びました。

RISニュースは、2008年から2011年にかけての景気後退期に競合他社の多くが苦戦を強いる中、Guess社が売上高を3倍に増加したことを取り上げ、2007年の製品ライフサイクル管理(PLM)システムの導入について、Relich氏を称賛しています。このシステムによってGuess社は、商品化までの時間を短縮し、ワークフローを合理化することができました。このシステムはその後、ベンダーとのコラボレーションの強化、複雑な原価計算とソーシングの管理、各ユーザーの役割に応じたアクセス権の提供のためにアップグレードされました。

キャリアの始ま

こうした称賛の声を聞いていると、現在52歳のRelich氏はコンピュータサイエンス一筋の人に思えますが、実際はその逆で、ビジネスへの興味が第一でした。そのためITは彼にとって常に、それ自体が目的ではなく、収益拡大のための手段だったのです。

Guess社が現在進めている最新プロジェクトでは、 店員がスマートフォンを持っているロイヤルティプログラムの会員を識別し、 その会員の購入履歴に基づき好みに合せた商品を紹介できます。 (写真提供:Guess社)

Relich氏は、メリーランド大学韓国校(当時両親と韓国に在住)に入学し、当初は人類学を専攻していました。コンピュータのクラスを一度取った後、地元の酒類販売店のオーナーが在庫管理できるように、Commodore64を使って最初のプログラムを作成、その後、クラスの課題の一つとして、ブラックジャックのコンピュータゲームを開発する。その後、プログラマーはそうした作業に対して給与が与えられている事と知ったRelich氏は、専攻をビジネス情報システムに切り替え、カリフォルニア州立大学に編入しました。

Relich氏の小売業界でのキャリアは、Carter Hawley Hale Stores社からスタートしました。最初は研修生だったRelich氏は、その後シニアプログラマーを経てテクノロジー・スペシャリストへと昇格し、消費行動の追跡やポイント・プログラムといった、顧客を対象としたプログラムを作成していました。

Guess社への参加

2004年にCIO兼シニアバイスプレジデントとしてGuess社に加わるころまでには、ITを活用した業務効率とカスタマーサービスの向上に手腕を発揮していました。しかし、Relich氏が最初の仕事は、もっと基本的なことでした。

Guess社の小売部門と卸売部門は当時、倉庫スペースを共有しており、在庫の所有をめぐる争いが絶えませんでした。そこでRelich氏は、この問題を解決する在庫管理システムを作成し、両部門が成長に専念できるようにしました。次に、業務全体にわたってITの自動化および、統合を実施し、業績の向上を図りました。
こうしたIT革新は、Guess社が卸売アパレルメーカーからハイエンドのファッション小売業へと業態転換を進めていた時期と相まって、2006年から2007年の間に、米国外で230を超える店舗をオープンする事か出来ました。これと同時期に、同社の米国およびカナダの事業合併も行われ。複数のチャネルでこれほどの成長を支えるための、堅固なITインフラを短期間で築く必要がありました。

Relich氏は当時について次のように語りました。「必要としていたのは、テクノロジーのためのテクノロジーではありません。価値を生み出し、ブランドの急速な拡大を支えるためのテクノロジーが必要だったのです」

8%

2012年、他の小売企業が 景気後退に苦しむ中、 Guess社の売上高は前年比8%の 成長を遂げました。

ブランドが拡大するにつれ、そのミッションの重要性はさらにに高まりました。2006年、Guess社は海外進出を本格的に開始し、年間売上高は11億9,000万米ドルでしたが、2012年度末に、年間売上高約2.5倍の27億米ドルに達しています。小売業全体が低迷する中にあって、2012年度の売上高が前年比8%増であったことは感嘆に値します。現在では、Guess社は85ヵ国に1,559店を超える店舗を展開し、最も広く知られているブランドの一つとなっています。

Guess社は、あらゆる種類の小売チャネルと卸売チャネルを使って買い物客にアプローチするだけでなく、世界26ヵ国で6つの言語に対応したeコマースを展開し、商品の販売を行っています。

Relich氏の未来予測

Relich氏は、時代が進むにしたがって企業と顧客の電子的結び付きというトレンドは、始まったばかりだと考えています。

Relich氏は次のように述べています。「スマートフォンの機能が向上と相まって、タブレットコンピュータの小型化も進んでいます。この2つは融合し、完全に統合された自己管理型のモバイルデバイスになろうとしています。それがソーシャルメディアの普及と組み合わさり、マーケティング会社や小売業が多くの消費者にアプローチできる、まったく新しい道が開かれます。今後は、これまでに見たことのないようなアプリケーションを使って、1対1のマーケティングが行われることになるでしょう」

「今後は、これまでに 見たことのないような アプリケーションを使って、 1対1のマーケティングが 行われることになるでしょう」

Michael Relich氏
Guess社COO

Relich氏は、こうした融合によって、小売業界に2つの根本的な変化が進みつつあると考えています。まず、よりシームレスなショッピング エクスペリエンスを求める顧客が増え、それを提供する小売業者に期待が寄せられているという変化。もう一つは、e-店舗と実店舗の垣根を取り外し、実店舗での在庫の最適化が可能となる変化です。「ある店舗で回転率の悪い商品があれば、店舗マネージャーはほぼリアルタイムに、回転率の高い別の店舗に商品を動的に割り当てて、需要のある場所に商品を直接出荷することができます」

これらのすべてが、Relich氏の最新のイノベーションにつながりました。センサーを使用して、誤差1m以内で売り場での顧客の動きを追跡できます。必要なテクノロジーを装備した店員は、顧客が店内にいる間に、好みや購入履歴の情報にアクセスし、その顧客の好みに最も合う商品を紹介することができます。これらの情報は、登録会員数50万人のGuessロイヤルティプログラムを通して収集されたデータから引き出されます。

可能性とデータ・アクセスがすべてだとRelich氏は断言します、「何が売れているか、1分単位の情報に基づいて、その場で販売促進の範囲を広げられます。デジタル機器に精通した今の若い消費者に合わせて、そうした柔軟な対応が行えます」
Relich氏は、小売業界が抱える最大の課題は、テクノロジーの発展速度が、企業がそれを習得する速度を上回っていることだと考えており、大半の企業は、テクノロジーの潜在力をフルに発揮するにはほど遠いように見える、とコメントしています。Relich氏はその理由の一つとして、小売業界では従来、ITが「必要悪として捉えられ、時には脅威だと思われてきた」ことを挙げています。しかし彼は、企業トップに向けて、次のようなメッセージを発信する。「今起きているテクノロジー主導の変化は、貨物列車のように、イノベーションを乗せるものであり、その意味では革命的です。ITは戦略資産であり、何をする場合にも中心にある機能だと考えてください。最先端のことをして、真に革新的であるための機会をもたらすのがITなのです」

Relich氏は、多額の資金を投入しなくてもITを利用したイノベーションは可能であると強調します。Guess社のIT部門の規模は比較的小さく、テクノロジーと人員への支出は売上の1%未満です。IT投資に対する見返りを、このように見事に実現しているGuess社は、Relich氏の指揮のもと、小売業界のトレンドを決める企業の一つであり続けることでしょう。

GUESS INC.

モロッコ出身のGeorges Marciano、Maurice Marciano兄弟によって1981年に創設されたGuess Inc.は、米国カリフォルニア州ビバリーヒルズに兄弟が開いた洋品店としてスタートしました。当時の商品には、GeorgesがデザインしてGuessと命名したストーンウォッシュ加工のジーンズがラインナップに含まれていました。Guessジーンズは、従来のジーンズよりも生地が柔らかく、色合いが薄いこと、そして足首部分にジッパーをあしらっていることが特徴でした。

Georgesは百貨店チェーンのBloomingdale’sを説得し、ヨーロッパ スタイルのジーンズ30着をニューヨーク市の旗艦店に展示して委託販売してもらいました。ジーンズは60米ドルという価格にもかかわらず、3時間以内にすべて売り切った。

事業はその翌年に飛躍的に成長し、ArmandとPaul兄弟が会社に加わり1984年には、Guess Inc.社の売上高は実に1億5,000万米ドルに達しました。
創立から30年以上経った現在、Guess社は世界各地に1,559のGuessブランド店舗を構えています。加えて、26ヵ国で6つの言語に対応したeコマースとライセンス契約に基づく販売活動を展開しています。languages.

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