High tech

オープン・イノベーション

Allan Behrens
28 October 2015

個人と同様に、企業もまた、課題に取り組んだり、商機を評価したりするための実証済みの方法を策定することがあります。このようにして定められる、いわゆる「標準業務手順」に従っていると、それがいかに効果的なものであっても、新しいアイデアやもっと効果的な仕事の方法が目に入らなくなってしまうことがあります。外部者を関与させる「オープン・イノベーション」と呼ばれるプロセスには、イノベーションを再活性化して、リスクを低減し、解決策の特定と実現を迅速化する効果があります。

三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあるように、ブレインストーミング・セッションは今日のビジネス界で広く採用されています。アイデアを出し合う人数が多いほど、革新的な答えを見つけて難題を解決できる可能性が高くなるということです。

オープン・イノベーションは、これと同じ考えを個人だけでなく企業にも応用するものであり、カリフォルニア大学バークレー校、ハース・スクール・オブ・ビジネスのヘンリー・チェスブロウ非常勤教授によって2003年の著書『Open Innovation:The New Imperative for Creating and Profiting from Technology』(オープン・イノベーション:テクノロジーを生み出してそこから利益を得るための新原則)で初めて提唱されました。外部イノベーションやネットワーク型イノベーションとも呼ばれるオープン・イノベーションによって、企業は内部リソースだけで解決しようとする閉鎖型のイノベーション・プロセスから、外部リソースを関与させることによってイノベーションを起こすプロセスに移行することができます。

IBMエコシステム/ソーシャル・ビジネス・エヴァンジェリズム担当ゼネラル・マネージャーのサンディー・カーター氏は、次のように述べています。「オープン・イノベーションによって今日のビジネス界は劇的な変化を遂げており、その変化はお客様だけでなく、私たちIBMの社内にも及んでいます」

相乗効果

ある会社の内部に備わっている知能を、パートナー、顧客、コンサルタント、政府研究機関、クラウドソーシングからの知識や経験で補足すると、その会社自体の知識が増え、真に革新的な解決策を見つけるための選択肢が飛躍的に広がります。社内の知能を拡大することは、企業買収や戦略提携の主たる理由のひとつであり、これによって、新しいアイデアや新しい仕事の方法を既存の文化に取り込むことが可能になります。

Intel Labs Europeで副社長と取締役を務めるマーティン・カーリー氏は、『Journal of Innovation Management』誌の「Letter from Industry」に掲載された「The Evolution of Open Innovation」(オープン・イノベーションの進化)の中で、次のように述べています。「企業が自分だけで解決策を見つけている余裕はもはやありません。実際、競争の単位は変わりつつあり、個々の企業や組織がいかに優れているかは問われなくなってきています。そうではなく、企業が成功するか、平凡になるか、あるいは失敗するかは、その企業や組織が参加しているエコシステムの強さによって決まることも少なくありません」

それではなぜ、12年前に提唱されたアイデアが今になって重要性を増してきたのでしょうか。その理由のひとつとして、競争の性質の変化が挙げられます。

英国に本拠地を置く環境保護NPOスタートアップのAirSensaでCTOを務めるゲリー・バーネット氏は、次のように述べています。「イノベーションを繰り返す従来のカイゼン手法は、今日の企業を急進的な考え方から守り、新規参入企業を明確に差別化するうえで十分ではありません」

「企業が成功するか、平凡になるか、あるいは失敗するかは、その企業や組織が参加しているエコシステムの強さによって決まることも少なくありません」

マーティン・カーリー氏
Intel Labs Europe副社長 兼 取締役

二つ目の理由は、ソーシャル・ネットワーク(組織内外の両方)、ソーシャル・リスニング・ツール、ダッシュボード、体系化されていないデータの検索、クラウドソーシング、ビッグデータ分析などの登場によって、パートナー、顧客、一般大衆からの知識をすばやく容易に要求、収集、分析し、それに基づいて行動できるようになったことです。これらのツールが提供されたことで、ほぼ誰でも場所にとらわれず手ごろな価格でオープン・イノベーションを実行できるようになりました。

健全な対話

ソーシャル・メディアによってコミュニケーション・チャネルが大きく開かれた結果、顧客やパートナーの意見に耳を傾け、それに基づいて行動することが今まで以上に簡単になっています。ソーシャル・メディア・スタイルのツールを組織内で使用すると、社員は社内エキスパートを見つけたり、アイデアを全社的に広めて、フィードバックを得たりすることができます。特に普段は意見交換することのない相手との会話が増えると、より頻繁にイノベーションが起こりやすくなります。

ただし、これらのツールは思想の自由と言論の自由が奨励されている文化でしか効果を発揮しないということを、企業は認識しておく必要があります。自分の考えや発言が検閲、無視、審査されていると感じる社員は、イノベーションに参加しません。また、参加を見える化することも必要です。あらゆるフィードバックに価値があり、誰の意見であっても門前払いすべきではありません。

オープン・イノベーションに不慣れな組織で参加を促すひとつの方法は、コンテスト形式の参加機会を提供することです。たとえば、IBM社主催の「ハッカソン」、サムスンのオープン・イノベーション・センターズ、ノキアのオープン・イノベーション・チャレンジ、フィリップスのイノベーション・フェローズ・コンペティション、GEのエコマジネーション・チャレンジなどはその例です。また、メイカーズ・ムーブメント、ファブ・ラボ、イノベーション・ネットワーク、アイデア・ハブ、クラウドファンディング・プラットフォームなどの動きも、インスピレーションを得る機会をもたらし、イノベーションを発揮することを社員に奨励しています。

文化面での課題

ただし、オープン・イノベーション・アプローチを取り入れている企業が備えておかなければならない、よくある障壁がいくつかあることも確かです。イノベーションの実現に取り組む専門家はこの状況を非常によく理解しています。フランスに拠点を置くオープン・イノベーション・サービス企業のBluenove社で社長兼COOを務めるマーティン・デュバル氏は、次のように述べています。「たとえば、組織内部の文化は、革新的な環境を維持するうえで難題となりうる最たる要素のひとつです」

組織内部のイノベーターとインフルエンサーは重要な資産ですが、何年分もの成功や失敗の経験が先入観や抵抗につながることもあります。IBM社のカーター氏は、オープン・イノベーションについて研究するチームをシリコンバレーの企業に派遣した、ある米国以外の国の企業の例を紹介しています。このチームは改善のためのさまざまなアイデアを吸収して派遣先から戻った後で、強い抵抗に直面し、組織内の数々の障壁や無関心な姿勢に失望したチーム・メンバーは一年後には、一人残らず辞任する事態となりました。

バーネット氏は次のように述べています。「私たちは全員の意見に耳を傾け、かつ、耳を傾けてくれる相手と意見を共有する必要があります」組織内の若手の意見に耳を傾けることは特に重要です。「最も若い社員たちの話を聞くことで、自分と同じ考え方をする相手の話しか聞かなくなるのを防ぐことができます」テクノロジーに最も精通していると言われるジェネレーションYは、経験豊富なエキスパートが見落としがちな可能性、つまり、急進的な変化につながる要素を見出すことがよくあります。

結局のところ、イノベーションの文化を生み出すための最善の方法は、オープン・エンゲージメント(関与)という新しいアイデアとそれを実現するプラットフォームや手法を受け入れることです。最新のテクノロジーはオープン・イノベーションを今まで以上に容易に行えるようにしています。ただし、最も重要なことは、将来を見越したビジネスをするために偏見のない斬新な視点から商機をとらえることです。

Allan Behrens氏は、ITユーザーや製品/サービス企業に分析、アドバイザリ、調査、ビジネスの各サービスを提供しているTaxal社のマネージング・ディレクターです。同氏は、英国のManufacturing Services Thought Leadership Networkの取締役に就いており、過去にはEngineering Solutions Forumの会長、Computer Suppliers Federationの副会長を務めるなどして、ヨーロッパの製造業界におけるテクノロジー利用の高収益化を推進しています。

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