Amazonは最近、料理が得意でない人の暮らしを便利に楽しくする製品を発表しました。同社の新製品であるスマート電子レンジは、専門知識を必要とせず、単純な音声コマンドで食品を調理してくれます。たとえば、ジャガイモを電子レンジに入れて、「Alexa、ジャガイモを電子レンジでチンして」と話しかけると、その食材に適した設定が自動的に選択されます。
この電子レンジは、AmazonのAlexa Connect Kitによって機能します。そのWi-Fi機能とBluetooth機能を備えた省電力モジュールは、Amazonが運営するクラウド・サービスへセキュアに自動接続するためのソフトウェアと一緒にパッケージ化されており、数百品目に及ぶ調理メニューの設定も含まれています。
機能性の低いデバイスをソフトウェアで拡張することは、昨今よく行われている戦略の一つで、メーカーに対する消費者の期待水準を大きく引き上げている要因でもあります。今や、機械設計、電気設計、フォームファクタ設計に習熟しているだけでは不十分です。メーカーはソフトウェアについても十分に理解していなければなりません。
全米家電協会(CTA)で市場調査担当バイスプレジデントを務めるSteve Koenig氏は、次のように述べています。「今日、ほぼあらゆる家電機器にICチップが搭載されるようになってきています。我々は、さまざまな機能をまるごと電子機器で利用できるようにするためにソフトウェアを用いています。こうした機器のシステムをインターネットを通じてアップデートして、新機能や改良した機能をいつでも利用できるようになることは、消費者にとって大変喜ばしいことです」
複雑性の高まり
これは、多くのメーカーにとって、どのような製品をどのように製造するかが根本的に変わることを意味します。自動車セクターでは、今日、メーカーから生み出されているものは、実質的に4つの車輪が付いたロボットです。
CTAのKoenig氏は次のように述べています。「現在販売されている車種の多くは電子制御運転機能を搭載しており、ステアリングと車輪そのものが機械的に連結されているわけではありません。エンジンはソフトウェアで定義されており、コンピュータ(自動車)にどのように動くかを指示する命令セットを提供します」
調査会社のマッキンゼーでは、2030年までに典型的なファミリー・カーを構成する要素の約3分の1がソフトウェアになると予想しています。今日、その割合は約10パーセントとなっています。
「私たちが管理しているソフトウェアの複雑度は、過去10年間で少なくとも5倍に増えています」
Jean-François Salessy氏
グループPSA 研究開発担当シニア・バイスプレジデント兼電気・電子機器部門責任者
フランスの自動車メーカー、グループPSAで研究開発担当シニア・バイスプレジデントと電気・電子機器部門責任者を兼任するJean-François Salessy氏は、次のように述べています。「私たちが管理しているソフトウェアの複雑度は、過去10年間で少なくとも5倍に増えています。今から30年前に私が働き始めた頃は、戦闘機のダッソー・ラファールに搭載されていた管理コンピュータのアプリケーション・コードは100万行ほどでした。現在、当社の車両には約5,000万~6,000万行のコードが含まれており、車載機能のうち80パーセント以上がソフトウェアによって実現されています」
ソフトウェア主導の開発
PSAの電気・電子機器部門と同様に、多くのメーカーではソフトウェア・イノベーションにフォーカスした専門部門が置かれるようになってきています。
Googleの新しいオペレーティング・システム、Fuchsiaに取り組んでいるエンジニアリング・マネジャーのAdam MacBeth氏は、『First Round Review』というブログのインタビューの中で次のように述べています。「ソフトウェア・チームは、製品の機能開発を率先して後押しする必要があります。ユーザーが目にする動作を作り出すのに最も重要な役割を果たすのがソフトウェアです」
ところが、ソフトウェアと機械が相互に補完し合う設計は管理が難しいため、新たな課題となっています。
PSAのSalessy氏は次のように述べています。「ソフトウェアがハードウェアにどう影響するかを予想しなければなりません。そのため、メモリ・バンクに必要な容量やアクセス可能なレスポンスなど、ソフトウェアのアーキテクチャ・フットプリントを評価しています」
しかし、ハードウェアとソフトウェアの分野が、それぞれ相手の領域について非現実的な仮説を立てる傾向があり、誤りを修正するためにコストのかかる大掛かりな変更が必要になります。MacBeth氏は次のように続けます。「ハードウェア・エンジニアリング・チームはソフトウェアのレスポンス・タイムについて何らかの仮説を立て、ソフトウェア・チームはデバイスの感触について何らかの仮説を立てます。私は、ハードウェアの構造上、ソフトウェアが物理的に機能しない状況が発生したのを実際に目の当たりにしたことがあります」
成功要因としてのチーム間の連携
ソフトウェアとハードウェアの衝突を防ぐには、2つの開発チーム間の強力な連携体制と完全な可視化が必要です。
たとえば、スイスの家電メーカーV-ZUGでは、社員間の効果的な連携を支援し、サイクル後期に発生する不測の事態を未然に防止するために、製品イノベーション・プラットフォームを利用しています。
V-ZUGの機械技術者であるPetra Peter氏は、次のように述べています。「このプラットフォームの最大のメリットは、製品開発に携わる様々なチームに統合ソリューションを提供できることです」
V-ZUGでCAD/CAM部門責任者を務めるBlaise Metzker氏は、次のように補足します。「機械、電気、ソフトウェアなど、製品開発に携わるあらゆる関係者が、最新の製品データ上で協業することによってスムーズにアイデアの交換ができます。この透過性が製品品質も向上させるのです」
デジタル・シミュレーションにも対応した製品イノベーション・プラットフォームでは、様々なチームがバーチャル環境で設計をテストすることにより、意図したとおりに設計が機能することを、生産を開始するかなり前に確認できるという、さらに一歩踏み込んだ対応が可能です。
フィンランドに本社を置く電子機器メーカー、TactoTekの製品管理担当バイスプレジデントであるSini Rytky氏は、次のように述べています。「当社では、従来の設計ルールを適用しない、新しいプロセスとテクノロジーの開発を進めています。シミュレーションは、実際の部品を組み立てる前に電気機能の動作を検証すると同時に、設計と微調整にかかる時間を短縮するソリューションとしてとらえられています」
スタイルと機能の組み合わせ
専門家が言うとおり、製造業をリードする企業には、ハードウェアとソフトウェアのエクスペリエンスをシームレスに統合させることによって、消費者の暮らしの様々な側面をつなぎ、最終的には日常的な作業を容易にする能力がますます必要になってきています。
MacBeth氏は次のように述べています。「ハードウェアに対するソフトウェアの影響が強いほど、よりユーザーのニーズに即した製品をつくることができます」
たとえばV-ZUGは、競合製品との差別化にソフトウェアを利用しています。
V-ZUGで開発・サービス部門の責任者を務めるErnst Dober氏は、次のように述べています。「当社は、(家電)業界の常識を上回る豊富な機能を製品に搭載すると同時に、製品を使いやすくすることも優先事項にしています。ボタン一つでプログラムを自動的にスタートさせる『プレス・アンド・ゴー』機能を開発したのは、まさにそのためです。また、当社のオーブンやスチーム調理器では、レシピをデジタル形式で提供しており、どなたでも使用することができます」
とはいっても、ソフトウェアが製品の差別化要因になることは確かですが、物理的な設計に問題のある製品をソフトウェアで補えるわけではありません。消費者が長く愛用するのは、見て楽しい、手にとると心地よい製品です。
PSAのSalessy氏は次のように述べています。「車と人間の間の感情的なつながりは今後も長く続くと考えられます。2018年パリサロンでプジョーが発表したe-Legend Conceptに対する観衆の反応が素晴らしかったのは、その外観の美しさが大きく関係しています。車体の審美性が重要であることは変わりませんが、車とどのようにコミュニケーションできるかも同様に重要です。そのため当社では、ソフトウェアによるエルゴノミクスの向上に多くの時間を割き、ソフトとハードの両方の面でベストのものを目指しています」
For more information on software-driven user experiences, please visit: go.3ds.com/0nj