数ヵ月ごとにすばらしいエレクトロニクス製品を売場の棚におくり込むために企業の複雑な新製品開発(NPI:New Product Introduction)プロセスについて、一般消費者が考えることはめったにないでしょう。
しかし、そうしたデバイスを製造するハイテク業界の企業は、市場でのあらゆる優位性を獲得すべく絶え間ない競争を繰り広げています。
高度なエレクトロニクス設計、ソフトウェア開発、機械設計の連携により、デバイスが一層複雑になると共に、開発サイクルの短期化によって、市場における製品導入の遅延や供給停止の原因となる問題が生じやすくなっています。
ハイテク業界の起業家で、ナノスケール材料の研究開発用分析ツールを開発するProtochips社の取締役会議長を務めるMichael Zapata氏は、ハイテク企業がNPIで成功するために熟達しておかなければならない要素として、以下の3つを強調しています。
上記の1および2を実現できたとしても、重要な指導的ポストに不適切な人物を就任させて失敗する企業もあります。
」Keer氏は2012年に著したホワイトペーパー『New Product Introduction(NPI):Seven Best Practices』で、注意すべきNPIの脆弱性を示す典型的な徴候として、経営陣の理解(支援)不足、不十分な投資およびリソース(専門知識を含む)、非現実的なスケジュール、生産規模の拡大に対応できない設計、欠陥や不完全なテスト、製造における不適切な機械設備、コミュニケーション不足などを挙げています。
大局の把握
ハイテク企業のNPIプロセス管理を支援するシリコンバレーのソフトウェア会社、Consensia社のCEOであるSanjay Keswani氏は、こうした課題に直面するエグゼクティブに、一歩下がって全体論的視野から組織を捉えるよう助言しています。
新製品を市場に投入するためには、非常に多くの異なる業務を同時に展開する必要があるため、全体像を見失う場合が多々あります。
「強いリーダーがいる、本当に優秀な部門横断型のチームが必要です」とKeswani氏は語ります。幅広い分野と専門性を担う優秀なチームを監督するリーダーは、「チームが発信するあらゆる関連性のあるアイデアを「いかにして取り込み、市場ニーズに対応するか」という極めて基本的な質問を問い続ける必要があります。確実な成功を収めるために、Keswani氏はNPIのリーダーに以下を勧めています。
◦業界で「フェーズゲート」と呼ばれる明確な段階わけを確立すること。マネージャーとチームメンバーは、業務を進めるなかでそのゲートを使い、それぞれの段階で進行状況を評価します。各段階で重要な問題を検討することが可能です。たとえば、以前のステップは正しく実行されたか、ビジネス的根拠は保たれているか、リソースは今も使用可能か、などです。各段階で、意思決定者はプロジェクトの続行、中止、保留、やり直しを決定できます。
◦業務のあらゆるステップでリスクを抑えること。Keswani 氏は次のように述べています。「それは経験を重ねるにつれて可能になります。承認された後に仕様を変更する場合を考えてみてください。変更することに問題はありませんが、リスク管理は必要です。」Keswani 氏はハイテク業界のリーダーに、自動車業界や航空宇宙・防衛産業をはじめとする成熟した業界のプロセスを参考にすることを勧めています。こうした業界では、変更を効果的に分析、管理する体制が構築されています。「ハイテク業界はこれらの業界から得たことをできる限り多く活用し、システムエンジニアリングの各領域を発展させ、製品の複雑性を管理する必要です。」Keswani氏はハイテク業界のリーダーに、自動車業界や航空宇宙・防衛産業をはじめとする成熟した業界のプロセスを参考に着想を得ることを勧めています。こうした業界では、変更を効果的に分析、管理する体制が構築されています。「ハイテク業界はこれらの業界から得たことをより多く活用し、システムエンジニアリングの各領域を発展させ製品の複雑性を管理する必要があります」(Keswani氏)。
◦3D CADモデルを使用してラピッドプロトタイピングと検証を前倒しすることで、物理テストに先立ちバーチャルな環境で(製品の)適合性、形状、機能的パフォーマンスを解析すること。Keswani氏は次のように述べています。「シミュレーションソフトウェアは、落下試験のような製品設計の検証だけでなく、部品のサプライヤーが最新の変更を把握し下す決定と、関連する部品やシステムをめぐる決定の整合性を確保する上で不可欠な、品質保証ツールとなりました。」
初期計画が非常に重要であるとの考えは専門家の間で共通しています。初期計画には、相互に関連しながら同時に発生する下流工程業務(エンジニアリングとオペレーション、製品の開発とテスト、市場分析と法規制への準拠、製造工程、ロジスティクスとサプライチェーンの要件、パッケージングと流通、マーケティング、セールス、サポートトレーニングなど)も含まれます。
情報によって強化される企業力
PRGのKeer氏は、高度なプロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)システムをはじめ、急増する各種ツールに注目しています。PLMは、すべての関係者に製品の進行状況の見える化をリアルタイムに提供し、部門を横断して同時に展開される業務の管理を容易にします。Keer氏は次のように述べています。「この5年間で、製品データの格納、制御、コミュニケーションにおいて真の進歩が遂げられました。企業は、これまでの断片的な情報管理を超える、強力なNPIプロセスを実現できるようになりました。」
また、サプライチェーン管理会社であるSerus Inc.社のCTOであるGeoffrey Annesley 氏は、「これらのシステムは、並行して実施しなければならない業務が増え続けるなか、NPI の関係者同士の連携を促進すると共に、かつてないほど短期化が進む市場投入までの期限を守ることにも貢献する」と述べています。
たとえば、優れた製品設計を実現するためには通常、設計エンジニアのチームや知的財産(IP)管理をめぐる多数の課題に対処し、最終的に質の高い製品を大量に生産できるよう調整が必要です。さらに社外に委託される場合も多い製造工程では、固有の工程設計が必要であり、そのための設計チームと固有の技術が求められます。「これらの2つの別個のプロセスは、並行して実施されると共に両グループの設計者にフィードバックを提供する必要がありますが、大きな混乱が生じるケースが多々あり、委託製造の場合はそれに拍車がかかります」(Annesley氏)。
「業務効率の向上に焦点を合わせる企業が成功を収める傾向が強く、 マーケティングやテクノロジーに焦点を合わせる企業は、 下降曲線をたどる傾向にあります。」
Michael Keer 氏
Product Realization Group CEO
プロセスを自動化するため、Qualcomm社は、各サプライヤーに容易に適合させることができる、クラウドベースのバーチャルサプライチェーン管理ツールを導入しました。このツールによって、企業の収益と取引の拡大を支える資材の供給量、リソースの消費、支払期日、請求に関する正確なデータが人の手を介さずリアルタイムに提供され、合併に伴うプロセス変更を管理できるようになりました。
パナソニック:卓越したNPIの実践企業
NPIをめぐる課題は様々ですが、NPIのいずれの側面においても、その背後には競合他社に打ち勝つためのスピード、そして消費者を喜ばせ繰り返し購入してもらえる優れた製品作りを実現しなければならないという相互に関連して存在する事象がNPI の推進要因となっています。家電メーカーのパナソニックは、その両方に熟達した企業です。
パナソニックは2013年のConsumer Electronics Show(CES)で4Kタブレットを発表しました。その事業開発とプロモーションの責任者を務める奥田茂雄氏は次のように述べています。「最大の課題はスピードだと思います。製造業務において工程時間を短縮する必要があるのはもちろんですが、どれだけすばやく市場の変化を読み取り、それを開発に反映させ、適切な製品をタイムリーに投入するかが最大の課題です。」
競合他社に常に先んじているのは容易ではない、なぜなら情報は瞬く間に利用可能になるからである、と奥田氏は語ります。「ネットワークの発達は、情報が瞬時に伝達されるようになったことを意味します。市場はすばやく変化しており、デジタル時代は、同様のパフォーマンスと一定の品質を持つ製品をまったく問題なく製造できるところまで発展しました。そのため、真に成功を収める製品を市場に投入し、それを継続していくことが困難になっています」(奥田氏)。
そのためパナソニックは、新製品を開発する際に、顧客の望みやニーズにしっかりと焦点を合わせます。奥田氏は次のように語ります。「パナソニックは、常に人を中心に考えます。我々はお客様のライフスタイルを詳しく調べ、それを改善するために力を尽くします。これを原点に、すべてのお客様によりよい生活をお届けすることを目標としています。」
パナソニックは、変更が容易でコスト的に対応可能なデジタルの段階で広範囲にわたるテストを実施し、製品が確実に顧客のニーズを満たすようにしています。奥田氏は次のように述べています。「より確実に成功を収めるためには、お客様が新製品をどのようなシナリオでどのように使用するか、そしてお客様にどのような価値がもたらされるかについて仮説をたて、検証する必要があります。お客様の反応から仮説がずれていることが判明した場合は、すばやく調整や修正を施す必要があります。これができれば、お客様に満足していただける優れた新製品を提供できるはずです。」
この目標を達成するため、パナソニックは高度なPLMアプリケーションとプロセスを採用しています。「デジタル・シミュレーション・テクノロジーの進歩のおかげで、設計の改良に伴う時間とコストの両方を大幅に削減することができました。これまで必要とされてきた物理的な試作品の作成がデジタル・シミュレーションに置き換えられているのです。」(奥田氏)。
成功文化の構築
Panasonic社のように、コラボレーションによる対話でサプライヤー、同僚、さらには顧客とアイデアを共有する企業は、ナレッジのオープンな交換が促進され、NPIプロセスにおいて成功を収める傾向があると述べるのはノースカロライナ州立大学(米国ノースカロライナ州ローリー)でサプライチェーン管理の教授を務め、『Journal of Operations Management』の顧問編集者でもあるRobert Handfield氏です。「これが得意な企業は非常に限られています。関係と信頼を築くには時間がかかります。」
Handfield氏は、コラボレーションに成功している企業の例としてホンダを挙げています。ホンダでは通常、サプライヤーに設計ではなく目標コストとパフォーマンス仕様を提示し、サプライヤーの技術者と設計者に最適な解決策を見つけるよう依頼します。Handfield氏は次のように述べています。「それが対話の端緒となります。このようなアプローチを通じて、サプライヤーはアイデアを提案できるのです。このレベルに到達するには、信頼関係を築く必要があります。」
医療機器・医薬品とハイテクの分野で企業の新製品開発を支援するKalypso社のパートナーであるNoel Sobelman氏は、22年の業界経験の中で、回避すべきNPIの落とし穴を数多く見てきたと述べます。
「企業がプロセス改善を、一時的な流行と捉えると大きな問題が生じます。改善プログラムを継続的に成功させるには、社員が絶えずより良いアイデアを追求する文化が必要なのです」(Sobelman氏)。
NPIプロセスには独自の測定基準が必要です。このプロセスは、組織において影響力を持つ指導的立場にある変化促進リーダーに依存します。Sobelman氏は次のように述べています。「誰かの誤った行為に対し罰則を示すプロセスの警察官にとどまらない人を置くことが非常に重要です。機能的改善と持続可能なビジネスの成功の間のつながりを理解できる人や、そうした人の貢献を評価し、物事を成し遂げる力を発揮できる上層部のリーダーを見つけることは容易ではありません。プロセス改善は派手な取り組みではありませんが、プロセスを適切に改善することが、成功者と落後者を分ける要因となります。」
NPI の要点: